462:昔話と真実と
「妖気というのいまいちピンとこない顔だな?」
「うむ……ワシは知らん力だな」
「俺も知らんなぁ。鍛冶に魔力は使うが……婆さんはどうだ?」
「あんたの婆さんじゃないよ! ったく、アタシも知らないねぇ……それはどういうもんなんだい?」
流は一つ頷くと「驚くなよ?」と前置きをしてから、妖力を体全体に込めだす。そして妖人になり、その姿を三人へと威圧するように見せつけた。
「これは……ワシは素人だが、それでも分かる」
「ああ……なんと言う恐ろしい力だ。俺ですら震えるぞ」
「さっきギルドでアタシと打ち合った時の力、それを何十倍と強くした感じかい。キツイねぇ」
「脅かすつもりはないんだが、これが妖力だ。そしてこれの何百倍かは知らないが、そういう力があの森の奥に封印されているらしい」
三人は恐怖を素直に感じていた。それが目の前の男から漏れでているだけだと言うのに、さらに数百倍の脅威があるという。
「だがこれも希望的観測だ。もしかしたらこれの千倍……いや、もっとかもしれない。それが漏れ出た結果、吸血熊やオークキングが発生したと確信している」
「「「なッ!?」」」
「ちょっと待ちなナガレ! もしその力が漏れ出したら、王滅級がそこかしこにあふれるとでも言うのかい!?」
「そうだ。……この強大な力がもれ、しかも悪しき者に渡ればどうなるか?」
「うむ。ワシの町が危機と言うのに得心がいったわ」
だが流は追い打ちをかけるように、さらに話を続ける。
「いや違うんだ、問題はそこじゃない。これはあくまで副次的に生まれたようなものだ。この町の危機とは、この力が暴発し……このあたりも含め、広範囲に地形が変わるほど吹き飛ぶ」
「なんじゃと!? そ、それは本当なのか!!」
「ああ。そしてその原因が先程言った、国を裏から操っているだろう真の敵だ。やつらは力の大部分を失っているらしい。その力の源は『妖気』だ」
「まさか……その力が封印されているのが、蜜熊の宴会場というわけかい!?」
流はユリアの瞳を真っ直ぐ見つめながら、静かに頷くと先を続ける。
なぜあそこにそんな力が封印されていたのか。そしてその妖力を封印した存在。それを破壊もしくは再封印するために、あの森は存在していたということ。それらを順序立てて説明していく。
「なんてことだい……蜜熊のウワサはそのヨルムと言う男が広めたのかい」
「ああそうだ。全ては強者を呼び寄せ、樽の封印をさせるためだったらしい。そしてもう一つ」
「まだあるのかい……」
ユリアをはじめ事情を知らない全員が顔を真っ青にし、〝ごくり〟とつばを飲み込む。
「これでもまだ状況的に言うとマシなほうだ。最悪なのが、その裏から操っている奴ら……狂った神にその封印場所が露呈し、妖力を奪取された時のことだ」
「ナガレよ、ワシが王宮と関わっていたころは本当にそんな存在はいなかったぞ?」
「爺さんは仲間に引き込めないと分かっていたからだろう。元に今あんたはどこで何をしている?」
「じゃな。リッジよ、ナガレはお前の気持ちを見抜いているからこそ、この話をした。じゃから受け入れようじゃないか、真実というものを」
「だが…………うむ。すまんかった、あまりに突拍子のない話の連続で信じきれなんだわ。じゃが信じよう異世界の侍よ。それでその狂神とやらはどうするつもりじゃ?」
「理由は分からない。だが狂神どもは世界を戦乱に落とし込み――世界を滅ぼす」
「なるほどな。じゃから戦争がたえなかったのか……しかしナガレはなぜそこまで知っておるんじゃ?」
リッジの問いにどう答えたものか流は少し考える。もしかしたら信じてもらえないのではないか……そんな不安もあったが、セリアが流の肩に手をおき頷いてくれた。
もう片方の肩にもイルミスが手をのせ、優しく微笑む。それを見た流は全員を見据えながら静かに話す。
「……今から三百年前の事だ。俺の先祖が日本と言う国、つまりは異世界でその狂神と戦っていた。そしてその神を取り逃がした結果、この世界へと逃げ込んだらしい――」
その後の顛末をゆっくりと話す。全員驚きながらも、イルミスだけは静かに目を閉じていた。
やがてその話が終わるころ、美琴が悲恋から抜け出てきた事で話は終わりをむかえた。
「――そしてこの娘が俺の先祖の千石が愛した娘であり、この妖刀・悲恋美琴を打った稀代の刀匠というわけだ」
「そのような恐ろしい存在がこの世界におったとは……」
「俺はそれも驚く。が、鍛冶師してその悲恋美琴と言う刀から、一瞬たりとも目が離せないほど魅了されておる」
「まったく腑抜けたジジイどもだねぇ。それでナガレ、アタシらはどうすりゃいいんだい? アタシはあんたの指示に全面的に従うつもりだよ」
「そうじゃな、現状ではナガレが個人で最大の戦力を保有していると言ってもいいだろう。ワシもバカ息子に責任を取らせなければな」
「俺はサポートを全力でしよう。まぁ武器や防具をつくるくらいしか脳がないがな」
ナガレは三人に「助かる」と言うと、頭をさげるのだった。




