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458:緑の解凍

 ユリアが自分の言うことを素直に聞き入れたのを、少し驚きながらその理由が気になる。だが流としても、それが彼女が強者ゆえに美琴の力に気がついたのだろうと納得し、話をすすめた。


「……まぁそういうわけさ。それで続きは俺が説明しても?」

「そういう事なら問題ないね。聞こうじゃないか」


 流は予定どおりに話をすすめる。蜜熊の宴会場の主たる森長と、蜜熊の生体。それらは知性ある生物であり、その罠にはまり全滅しかかっていた事。そしてそこから派生し生まれた怪物――。


「――つまりその蜜熊の亜種、あ~吸血熊と言ったかい? そいつが突如現れ、同族の蜜熊を全て(・・)喰い殺したというのかい?」

「そうだ。さらにその時嵐が来てな……。森に落雷が落ちて、蜜熊の宴会場は消失したと思われる」

「ほぅ……嵐の日に焼失ねぇ」

「そうだ。綺麗に何もかも消え去ったよ」


 ユリアは流の瞳をまっすぐ見つめると、ひとつため息をつき「やれやれだね」と漏らす。

 その意味が分かった流は、ユリアに苦笑いをしながら話を続ける。


「そういうわけで、あの森の価値はもうすでに無くなった。ラースより聞いた話では薬草や変わった素材もなく、狩場としても旨味がないとか?」

「そうさねぇ、あそこはもう価値がない。これは行くだけ無駄になるねぇ」


 ギルドマスター・ユリアのその言葉で、ギルド内は騒然となる。蜜熊は凶暴だがレア素材を得られるので、数年に一度はそれを狩るために専用のパーティーが募集されるのだから。


「おしずまり! 無いものは無いんだよ!」

「しかしギルドマスター! これから蜜熊の素材に変わる物がありませんぜ!?」

「そう、ここ周辺には無いねぇ。だがあるだろう?」


 冒険者たちはその言葉で思い出す。蜜熊と同等かそれ以上の素材がある場所を。


「トエトリーダンジョン……」

「そうさ、あそこがある限り値が上がるが問題はない。それよりナガレ、その吸血熊ってのは何で現れたと思うんだい?」

「それだがな。あぁちょうどいい、表へ来てくれるか?」


 ユリアは訝しげな表情をしながら、流の後へと続く。そして目の前にある、氷の塊に一同は唖然とする。


「これは一体なんだい? 氷の中になにかいるのかい?」

「ああ、こいつが吸血熊に関わる答えになるかもしれない。ワン太郎、氷を溶かしてくれるか?」

「わかったワ~ン。ほれぇ、くだけるワン!」


 ゴブリンキングの上に乗り、おりこうに番狐(ばんけん)をしていた小狐な王様は、短い足を〝ぽむ〟とひと踏みする。

 氷の棺に微細なヒビが広がると、粉々になりきらめく粒となって風に消え去る。

 そこから現れた鎧姿の緑色をした男。その耳や、見開かれた目の色を見てユリアは確信する。そう――。


「――ゴブリンキング。まさかこんな……」

「流石に分かるかい? そう、コイツはあの森の近くに居城を作ろうとしていた王。ゴブリンキングだ」


 流とギルドマスター・ユリアの様子から、後から着いてきた冒険者や職員は時が止まったかのように固まってしまう。


「やはりねぇ……それでコレ(・・)は説明してくれるんだろうねぇ?」

「そう睨まないでくれよ。ちゃんと説明するさ。森で吸血熊を駆逐した後、外へでてからすぐ近くにコイツらの村を発見した」

「村だって? そこまで大きくなっていたのかい。それに森へと続く道に、そんなものがあるなんて報告は無かったが?」

「ああそれだが、通常のルートとは違う方から出たからそのせいだ。だから見つけた時は、村と呼べる規模には育っていたな。その後すぐにその村を襲撃し、これを殲滅。村の最奥に砦を築きつつあった中からコイツ、ゴブリンキングが出てきたというわけさ」


 ユリアはその言葉には嘘がないと頷く。それを見た流は話をすすめた。


「それに協力してくれたのが三星級(トリプル)の猛者、ラースたち六名だ。ラースたちがいなければ俺は安心して、保護対象のシーラから離れて行動することは出来なかっただろう」


 野次馬の冒険者たちは流の言葉に驚き、ラースたちの活躍に驚く。それは当然のことだ。

 三星級(トリプル)ごときが王がいる戦場に行くなど、死ににいくようなものなのだから。


「なんだって!? いくらベテランのラースと言えど、キングがいる場所で戦っただと!?」

「ああ、それに極武級の英雄がいるとは言え、その男に『猛者』と呼ばれるほどだぞ」

「それだ! さっきも極武の英雄が言っていたろう? ラースが獅子奮迅の戦いをしたと!」


 冒険者たちは周りを見回し、互いに顔を見合わせる。そしてラースたち六名を見ると、口々に叫ぶ。


「スゲーゼ! ラースお前たちってやつぁ!!」

「ああ、あぁ! ゴブリンキングを倒した極武の英雄のサポートをやり遂げるなんて、はんぱじゃねーぜ!!」


 沸きかえる冒険者たち。その中に可愛らしい顔つきの娘が涙をうかべていた。それは受付嬢のパニャと呼ばれる娘だ。


「オレオすごい! いえ、それより無事に帰ってきてくれて本当によかった……」

「パニャ……俺、実は……」

「どうしたのオレオ?」

「いや、なんでもないんだ。逝っちまったアイツらの事を思い出してな」

「オレオ……」


 周囲のお祭り騒ぎに取り残されるように、ぽっかりと抜け落ちた二人。それを見たラースはその意味を理解し、空を見上げるのだった。

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