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454:氷解

「と、言うわけですわ。あのファイア・ジャベリンは普通に斬り裂けばその場で爆発しますわ。でもあのように魔力を纏わせ、魔法が滑るように斬れば」


 イルミスはそう言うと背後を見る。流もそれを見てから一つ頷き得心した。


「なるほどなぁ。だから俺は前にひどい目にあったのか……っと、今はその話は後だな。まずは平和的に(・・・・)アルマークへ入ろうじゃないか」

『平和的に街を出たら、こうはならなかったんだけど?』

「そうですわ。だれのせいでこうなったと思っていますの?」

「……いい漢ってのは、過去は振り返らないのさ」


 ジト目を腰と背後から受けながら、自称・いい漢は門の前へと進む。

 そして大声で一つ叫び、門番長へと話をする。


「門番長はいるか!?」

「あ! キサマは朝のフザけたヤロウ!! これはどう言うことか説明をしてもらおうか!?」

「朝はすまなかった! 俺は領都級の商人で、古廻流と言う! 今回この娘、シーラの救出のために依頼を受け、蜜熊の宴会場へと行ってきた!」

「姫の救出のために依頼を商人が受けた(・・・・・・)だと!? …………ふざけるな! そんな商人がいてたまるかあああああああ!!」


 どうやら門番長は流にまた馬鹿にされていると思い、顔を真っ赤にして叫び散らす。だからやれやれと腰の美琴が流にアドバイス。


『もう流様ったら。ちゃんと極武級の冒険者としてって、言わないとだめだよ?』

「ん? あぁそうだったか。コホン、門番長! 依頼を受けたのは本当だ! 俺は商人でもあるが、同時にこういう肩書もある、見てくれ!!」


 流は魔力で極武級級のフラッグを作り出し、それを大きくする。風もないのにはためく金色の旗に、衛兵一同の視線が釘付けだ。

 門番長はふるえる右人差し指で、それを指してこう叫ぶ。


「嘘だッ!! キサマのような怪しげな漢が極武級なわけがないわ!!」

「門番長、普段冷静なあなたらしくもない。あれは偽造不可能な術式なのはご存知のはず。あれは紛れもなく本物の証です」

「クッ、分かっている……副長、よく言ってくれた。少々頭に血が上っていたようだ」


 それを聞きホッと胸をなでおろす副長。もしこのまま門番長が暴走すれば、絶対的な力を持つ極武級と敵対する悪夢。それを回避できた事はこの門番長だからだろうと思う反面、彼の短気がこうしたとも思い苦笑い。


「それで貴殿は本当に依頼を受けたのだな?」

「ああ、シーラの爺さんから直接な。嘘だと思うなら確認してくれ、すぐに分かるはずだ!」

「門番長さん本当の事なんだゾ! ボクはナガレ様に助けてもらったんだゾ! だからすぐに入れてほしいんだゾ!」

「……わかりました、今すぐ開門します。おい、早急に門を開けて姫様たちをお迎えしろ! それと早馬を出して、リッジ様へと姫様が無事だとお伝えしろ!」

「「ハッ!!」」


 伝令二人は走り去り、役割をこなす。少しすると大門が開放し、アルマークへの道がつながった。


「さぁどうぞ。ですがそのバケモ……コホン。召喚獣ですか? そちらは……」

「あぁすまない。氷狐王全員を出したら元に戻れ(・・・・)

「主。我の本体はこの体ですぞ!!」

「仕方ないだろう、そのまま歩くと死人がでる」

「くッ、無念」

『別にいいじゃない。ワン太郎ちゃんの方がかわいいし』

「女幽霊に言われたくないわッ!! ったく、ほらハゲたちも出てこい」


 氷狐王の内部で冒険者たちの焦る声が聞こえる。どうやら内部が崩壊しだしたらしく、転げるように階段から出てきた。


「うわああああ!? 氷狐王様酷いですぜ!」

「潰れるかと思いました……」

「まさかパニャに会うまえに、今日最大の危機が門の前とは……」

「うう。生きていてよかった……」

「イテテ、ひどい目にあった。が……あぁ帰って来れたんだなぁ」

「その気持ちは分かるが、今はまだしまっておけ。俺たちの戦場はこれからが本番だ」


 冒険者たちは青い空を見て涙を浮かべるが、ラースが彼らに苦言を呈する。そう、彼ら冒険者たちは、これからギルドで吊るし上げられるだろう。だが逝った仲間たちのためにも、負けるわけにはいかない戦いだった。


 それを冒険者たちも理解すると、黙ってうなずき流を見る。 


「よし全員出たから元に戻れワン太郎」

「ちがうのにぃワレは王様なのにぃ……でも〝ちゃーりゅ〟は好きだワン。あるじぃ早く欲しいんだワン」

「仕方ないなぁ。ほれ、こぼすなよ?」

「わーい! あるじは大好きだワン!」


 いきなり氷のバケモノが崩れ去り、中から子犬が出てきたことで混乱する衛兵たち。

 それを苦笑いしながら流は後頭部をかくと、門番長へと話しかける。


「まぁ、コイツがあのバケモノの正体だから危険はない。これでいいかい門番長?」

「あ、あぁ。これなら問題はないが……驚きだなこれは。あっと、それでこれからお屋敷へと向かうのか?」

「いや、たぶん爺さんは鍛冶屋の爺さんのところにいるだろう。まずはそっちへ行ってみるよ」

「鍛冶屋? あぁ、ガラン師のところか。承知した、そちらへも早馬を出しておこう」

「助かる。それとそこへ行く前に冒険者ギルドへ用事があってな」


 そう言うと流は崩れ去った氷狐王の残骸を見る。そこには氷の棺に封印された、ゴブリンキングの死体があるのだった。

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