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452:アルマークへ

 氷狐王は平原を疾走する。


 それを邪魔するものは何もなく、途中でヤギのような魔物の群れや、猿型の魔物と遭遇。

 だが凍りつかせて粉砕するか、魔物が逃げるかのどちらかで無人の野を駆ける。


「主、どうやら間に合いましたな」

「ああ。お前も疲れたろう、後で〝ちゃーりゅ〟あげるからな?」

「ほ、本当かワン!」

『氷狐王ってば、ワンちゃんになってるょ』

「ハッ!? な、なにを言うか女幽霊め! 我は偉いのだ!」

『ぁ、ぅん……』


 それを聞いた流は呆れながらも、氷狐王の活躍に満足する。そして〝ちゃーりゅ〟を十本あげようと思うのだった。


「もうワン太郎でいいんじゃないか? おーい、お前たち。そろそろアルマークへ到着するぞ。って……大丈夫かよ」


 流は振り向きラース達を見る。ラースは大丈夫だが、ほかの五名は死んだようにヘタっていた。

 乗り物酔いするほど揺れず、何が原因かと不思議に思っていたが。


「あぁそうか。ワン太郎コインを持ち、氷狐王に慣れたとはいえまだまだだもんな」

「そうだな。こいつらは限界も近いし、俺もギリギリ氷狐王様の威圧に耐えている感じだ。だがシーラは凄いな、自力で耐えれるとは」

「ボクはよく分からないけど、大丈夫だゾ。ラースさんこそ元気でビックリだゾ」

「まぁ俺は何とかな……それにしてもナガレは当然として、こんな娘たちまで平気とはな……」


 ラースはイルミスとLを見て呆れるように話す。それを聞いたイルミスは、当然とばかりにそれにこたえた。


「何をいいますの? この程度は当然ですわ。シーラは後で魔法を正しく学ばせますわ」

「わかったんだゾ。頑張ってみんなの思いは受け継ぐんだゾ!」


 シーラはそう言うと、窓の外を見る。つい数時間前の恐ろしい出来事が、今では幻だったんじゃないかと思えるほど、()みきった空が高く美しい。

 だがその空に消えていった、恩人たちを忘れる事はない。


 だからこそ、その先に見え始めたアルマークを一睨みし覚悟を決める。

 その恩人たちに報いるために、祖父や兄と戦うことを……。



 ◇◇◇



 ――アルマーク東門――


 一日の緊張もそろそろ終わる時間。それは閉門することで、一時の安心を物理的にえられるからだ。

 朝からひどい目にあった門番長は、状況を報告。すると上役から「気にするな」と一蹴され、そのやる気のない対応の意味もわからず、今日は一日イライラしていた。


「門番長。……門番長! 聞いていますか!?」

「うるさいッ! 聞こえているわ! いったい何だ?」

「何だじゃありませんよ。そろそろ閉門しますので、全隊に指示をおねがいします」

「ん……あぁ、もうそんな時刻か。たく、今日は散々だったわ。報告に行けば取り合ってももらえず、化物には門を突破され、あの若造にはバカにされる……クソッ、今日は呑まねばやってられん。オイ貴様、今日は付き合えよ?」

「い、いえ今日は先約がありまして」

「アン? 仕事(オレ)より大事な事がある……貴様はそういうのか?」


 福長はまだ青い空を見てガッカリする。この門番長の酒癖の悪さはひどく、毎度朝までつきあわされるのだから。


(はぁ~俺が今日一番の被害者かよ。クソッ、俺が来る前に一体何があったんだ!? チクショウ……今日はマリアの家に行こうと思ったの――ん? あれはいったい……? ッ!?)


「も、門番長! 大変です! アレを見てください!!」

「あぁ~ん? 今日はもう驚かねぇよ、ったく何が――ってえええええ!? 敵襲!! 門を閉じろおおおおおおおおおッ!!」


 こちらへと向かってくる憎きバケモノ。その背にフザけた男はいなかったが、間違いなくあのバケモノだと確認した門番長は、即座に閉門を命じる。

 運良く外には数名しか待ちがおらず、検査もなしに全員内部へ入れると、最大速度で門を閉じた。

 このあたりの連携は、門番長が日頃から行っている訓練の賜物だ。


 やはりこの門番長は有能だと、副長は関心する。ただ酒癖さえよければだが。

 

「全員躊躇(ちゅうちょ)するな! 敵はバケモノ! 射程に入り次第、最大攻撃で打ち倒せ!!」

『『『ハッ!!』』』


 朝の反省から門番長はもしものためと、城壁の上に魔法師と弓兵を配置していた。やはり有能な男だ。

 それがいつでも対応できるようにと、矢や魔力回復ポーションまで用意している周到ぶり。

 それを見た副長は一つうなずくと、門番長の指示を待つ。


「来たか――敵バケモノが射程に入り次第、弓兵は目を狙え! 怯んだ隙きに魔法師はファイア系と、ジャベリン系の魔法を交互に撃ち込め! 出し惜しみは無しだ!」

「来ました!! 敵・射程まで残り五十……三十……早いッ!! 総員撃ち方はじめえええええッ!!」

『『『ハッ!!!!』』』


 迫る氷狐王(バケモノ)へと容赦のない攻撃が始まる。

 それを当然知っている氷狐王は、止まることはおろか回避もせずに門へと突っ込むのだった。

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