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446:命の選択

「うむ、これでいいだろう。では流よ、また近いうちに会おう」

「ああ。ヨルムも気をつけてな」

「できるだけ頑張ろう。よい旅をな」

「ありがとう。クマクマ兄弟も頼むぞ、ここに誰も近づけないようにな」

「「まっかせるくま~(クマー)!!」」


 流はヨルムの前に行くと、彼と握手を交わす。そのゴツゴツとした木のような肌触りだったが、温かい人のぬくもりを感じ、彼の思いが伝わる。

 クマクマ兄弟はワン太郎と別れを惜しむ。どうやら何かあったようで、うち解けたようだった。獣めッ。


「さ、行くか!」

『そのまえに……あれ、どうするの?』

「あれ? …………さ、帰るか! 懐かしき故郷、アルマークへ!!」

「アルマークに来て、まだ一日も立っていませんわ。ハァ~、ほらL。起きないと置いていかれますわ」


 イルミスは静かにLの肩を揺すって起こす。すると頭から血をながしたLがムクリと起き上がり。


「ッ!? マイ・マスター! あたしは新しい快感を会得しました!!」

「なにを会得してんだよオマエは!! ハァ、ほら行くぞ」

「ま、待ってくださいよマイ・マスター! 凄いんですってば! 先端がグリグリとされ――」

「――ええいうるさいわッ! 解説するな詳細にッ!!」


 かぶせるように言葉をとめる流を見て、微笑ましく見送る三人。ヨルムは小さくなるその背中をジット見つめ、祈るようにつぶやく。


「頼むぞ流。そして仲間たちよ……この世界の運命は、お前たちにかかっている」


 やがて姿が見えなくなると、静かに森は閉じていく。先程まであった道は今は密林だ。

 その人を寄せ付けない深い森は、先程までのことが無かったかのように、静かに緑を深くする。

 誰も近寄らせず、誰も逃さず、誰もここを思い出さないように…………。



 ◇◇◇



 流たちはしばらく進むと、道が分岐しているところまで近づく。その左側から気配を感じ、しばらく待っているとシーラと冒険者たちが現れた。

 その顔は疲弊し疲れ切っているが、瞳はいまだ力は衰えておらず、生きる気力で満ちていた。


「あ! ナガレ様なんだゾ!」

「おおおお! お前と会えたって事は、やっと抜け出せたか!!」

「よう、シーラとラース。無事でなによりだったな」

「それがな、突如森が行き先を閉じてしまってな。随分と迷ってここまで来たんだ」

「そうかい……」


 そう言うと冒険者の一人が少し興奮した声で、仲間たちと話し出す。聞けば危惧したとおりの内容だった。


「これで帰れるな!」

「ああ、ナガレさんがいりゃ間違いない」

「それにしてもここの場所ですが。どう報告します?」

「それだが、蜜熊の個体の情報や森の中の資源。これは売れるぞ!」

「うむ……だがな……」

「悩む必要はありませんよラースさん! 俺らはペナルティを科せられる。なら少しでも優位な情報を渡さないと!」


 ラースは迷っているようだが、他の四人は秘境たる蜜熊の宴会場の事について盛り上がる。

 その情報の価値と言えば、これまで聞いたことのないような、モノばかりだったのだから。

 流はそれを黙って聞いている。そして悲恋美琴の柄にゆっくりと手をかけると、おもむろに抜刀する。


「お前たちに残念な知らせがある」

「なんだよナガレさ……ひぃッ」


 ラースを始め、冒険者たちは凍りつく。目の前にいた流は、先程まで味わっていた恐怖より恐ろしい。それは蜜熊や、あの吸血熊よりなお恐ろしい、濃厚にして絞め殺されるような力で冒険者たちを威嚇(いかく)する」

 さらに手に持った武器からも、何かが吹き出しており、普通の武器ではないと誰の目にも明らかだった。

 だがラースは怯えていないようだ。だからこそ次の言葉につながる。


「……ナガレ。これは一体どう言うことだ?」

「問答は無用だ。お前達には二つの道がある。一つは今来た道へと引き返すこと」

「それは死ねと言うことか?」

「そうだ。お前達には生きる資格がない」

「「「「なッ!?」」」」


 その言葉に絶句する。誰かが流へと抗議をしようと口を開いた瞬間だった、さらに絶望は加速する。

 突如、妖人(あやかしびと)となった流は、さらなる威圧で冒険者たちの口を封じる。


「ラース。お前に全員の運命を決めてもらおうか」

「……分かった。どのみちお前は俺たちを逃がす気もないし、逃げようとしも無駄なのだろうからな」

「いい覚悟だラース。では言おう……お前ら、俺の配下となれ」


 突然の宣言に、ラースや冒険者。それにシーラまでも唖然として流を見る。だが立ち直りが早いのはやはりラース。彼は奥歯を噛み締めたのち、流へと質問する。


「それは強制……なのだろうな。理由を聞いても?」

「先程お前たちが言っていた内容だ。あれは知られるわけにはいかない。もしあの話が広まれば、冗談ではなくこの国は滅び、やがて世界も滅ぶだろう」


 冒険者たちは絶句する。そして理解が出来ないと言う顔になると、互いの顔を見渡すのだった。

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