444:タイム・リミット
いつも骨董無双をお読みいただき、本当にありがとうございます!
おかげさまで、本日の更新で連載一周年になりました。
後ほど活動報告にて、詳細を書かせていただきます(*´ω`*)
「すごい眺めですわ……」
イルミスが絶句するのも分かる。それは緑の回廊の床。つまり地面が蠢いていたからだ。
よく見れば木の根のような植物が回転しているような感じで、その上に乗れということ。
流はソレを見て即理解したが、イルミスとLは顔を引きつらせていた。
「ハッハッハ。お前たちでもそんな顔をするんだな」
「そ、そうは言ってもマイ・マスター。これはちょっと……」
「そうですわ、こんなキモチの悪いもの初めて見ましたわ」
「ワン太郎は大丈夫そうだが?」
「われは、あるじの世界の事も知っているワン。だから驚きも無いんだワンよ」
「「我ら兄弟は何度か来たことあるくま~」」
流は「なるほど」と言うと、そのまま木の根の上に飛び乗る。それを見たイルミスとLは声にならない悲鳴をあげ、流を心配する。
「大丈夫、早く来いよ! 勝手に動くから楽だぞ?」
「で、でも……」
「わかりましたマイ・マスター! そういう〝ぷれい〟なんですねッ! 今すぐご期待にお応えいたしますぅ!!」
「いや、ぷれいって何だよ!? 普通に来い、普通にだッ!!」
Lが頬を染めながら蠢く回廊へと足を乗せる。どうやらゴロゴロと動く木の根が気持ちが良いらしく、「はぉぉぉぅ」と気持ちの悪い声をあげ楽しむ。
イルミスも覚悟を決めたのか、それに飛び乗ると「はぅぇぇぃ」と似たような声を出す。何だコイツラ。
ちなみにワン太郎は、小さな足を挟まれそうだったので、流の頭の上に装備済みだ。
高速でながれる森の風景は、まるで緑色の壁。その壁を楽しみながら見つめ、風を全身に感じて進む。
雨が上がった後の、森独特の香りと心地よさに流は両腕を伸ばし疲れを癒やす。
「しかしコイツは早くて快適だな」
『私も動く歩道に乗った事あるよ! あれ面白いんだよね!』
「アナログ娘が言うと、違和感が半端ない。ナンダコレ」
『もぅ! 馬鹿にしちゃってさぁ』
「すまん、本当のことを言ってしまった。っと、もう着いたか。イルミスは慣れたようだな」
「うぅ、まだ気持ちが悪いですわ。でも楽と言えば楽ですわ」
「だろう? で、Lよ……何をしている……」
「あたし……もぅ……だめですぅ……あわわわわ」
流は〝足元に転がる〟Lをジト目で見つめる。するとうつ伏せになり、その感触を楽しんでいるようだ。
しかもナゼか快感らしく、時折「たまりませんッ!」と叫んだ後、奇声をあげていた。
「オイ変態娘。そんな事をしていると危ないぞ?」
「あひぃわわわわ」
『聞いていないね……危ないのに』
やがてヨルムのいる広場まで到着する。その直前になり、一気に動きが遅くなる。
ガクリと足元へと衝撃が伝わり、足を踏ん張ることで流とイルミスは耐える。が、Lはそのままの勢いで射出されるように飛んでいく。
その先には、ヨルムが用意した椅子が置いてあり、それに頭から突っ込むと沈黙するのだった。
「だから言ったのに……」
「変態は怖いもの知らずですわ……」
『ほら、向日葵ちゃん! 変態さんの末路だよ!』
『ふぇ~七十点ですね。そこからテーブルまで巻き込んで及第点です』
全員の瞳は実に優しくLを見つめる。まるで路傍の小石を見るようだ。
そんな状況に驚いたのが、森の主であるヨルム。
「うおッ!? 人が吹っ飛んで来たぞ!」
「「『変態なんでおかまいなく』」」
「あ、ハイ。コホン、よく来てくれた。まずは森を鎮めてくれた事に礼を言おう、あのままなら封印が完全に解けたかもしれんからな。そしてクマクマ兄弟よ、久しいな」
「お久しぶりくま~森神様!」
「また会えて嬉しいクマー!」
「うむ、息災でなにより。だが、いくら封印が壊されたとは言え、お前たちが目覚めたと言うことは、やはり……」
真剣な表情で三人はうなずくと、流へと向き直る。
「流よ、最悪な状況は脱したとは言え、封印の崩壊は予想以上に進んだと言える。このままなら崩壊まで長くて五年。無論延命はさせるつもりだが、どうなるか予想もつかない」
「五年……」
流は思う。五年もあれば他の手段が見つかるか、人形そのものを討伐できるのではないかと。だが……。
「そう、長くて五年だ。最悪今すぐにでも崩壊する可能性もある」
「なッ!? それは本当か?」
「本当だよ。ただどうなるかは俺の力次第だな」
「そうなのか……それでどうだ、いけそうか?」
「いけなくてもヤルしかない。そしてもう一つ問題ができた。ある意味そちらの方が深刻だ」
その話に全員が目を見開き驚く。これ以上なにがあるのかと。全員の気持ちを代表し、流は静かに口を開く。
「……それは一体なんだ?」
「封印の石が割れたことで、弐と人形の妖気が漏れ出したことだ」
「つまり奴らに察知されやすくなり、ここの場所が露呈してしまう、と?」
「そうだ。このままなら近いうちに奴らに見つかるかもしれん。そうなったら、この森は無論、王国が崩壊……いや、遠くない未来に世界が破滅する。やつらの手によってな」
流はその意味を知っている。先程までいたあの広場――蜜熊の宴会場へ足を踏み入れた瞬間から、弐の気配を感じていた。
そして鑑定眼で地下を探った時に、その妖気がにじみ出ていた事を分かってしまったのだから。




