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443:森は割れ、道は二つに

「ご苦労だったな美琴」

「うん……逝っちゃったね……」

「ああ。死と言うのは生者からすれば、基本は恐ろしいものだ。が、その意味を知り、それを悟り、そして旅立つ。その時には恐怖や未練などは、ないのかもしれないな……」


 流と美琴は天を見つめる。その二人の手はしっかりと握られており、死を超越した二人からすれば、この光景はどうみえるのだろうか?

 そう思うイルミスであったが、同時に思う。〝あの忌まわしき鉾鈴〟が、またしても勝手に出てきたのだと。


(鉾鈴……またしても勝手に振る舞うつもりなの? だけど今回は好きにさせませんわ)


 イルミスがそんな事を考え、苦々しく流と美琴の二人を見ていると、向日葵がイルミスの隣へと並ぶ。


「イルミスさん、その顔はさっきの出来事(・・・・・・・)について知っているのかな?」

「貴女は……悲恋の住人かしら?」

「ふぇ~悲恋の住人ってそうだけど、認めたくない乙女心がここにッ」

「貴女も大概なのは分かりましたわ。さっきの答えですが、後ほどお話しましょう。今はまだその時ではないのですわ」


 イルミスは向日葵を見ず、流たちをみつめる。そのようすを向日葵は一瞥すると、そのまま霧のように存在が霧散してしまった。


「流、美琴。そろそろ戻りましょうか。少し嫌な予感もしますわ」

「あぁそうだな、じゃあ戻ろうか。森長と言ったか、また来ると思うが今度は敵対しないでくれよ?」

「アァ分カッタ。今度。来ル時、忘レナイ。御使様モ行クデスカ?」

「「我ら兄弟、生きるも死ぬも一緒くま~(クマー)

「ソ、ソウデスカ。森神様ニヨロシク、オ伝エヲ」


 それに鷹揚に頷く熊兄弟。なぜか格好がいい……クマーのくせに。

 クマー兄弟を尻目に流はシーラとラースへと、今後の予定を伝える。


「ラース。この後のことだが」

「ああ、それだが全面的にお前の指示に従う。階級は無論、お前の指示に従うのが間違いないだろう」


 そうラースが言うと、冒険者たちも全員同意をしめすように頷く。それを見た流も頷く事で了解をしめし、出発することにする。


「じゃあラース。すまないが、お前たち冒険者だけでシーラを連れて森の外へと抜けてくれ。そして森に入る前にあった、小さな小川のところで待っていてくれ」

「そ、それは構わないが……五人。しかも疲弊している状態で森を抜けるのは不安だ。しかも――」


 流はその言葉にかぶせて全員を安心させる。


「あぁ問題ない。それは着いてくればわかるさ」

「わ、分かった。全面的に従うと約束した以上、お前の言葉に従う」

「助かる。っと、来たか。ワン太郎もご苦労さん」

「う~ん疲れたワン。あるじぃ、チャ~リュを所望するワン。汁だく特盛で三本!」

「いつから牛丼になったんだ? まぁあとでやるよ。まずはここを出るぞ」


 そんな事を言いながら蜜熊の宴会場を後にする一行。宴会場を抜け、湖まで流が移動したのを感じた森長はドカリと尻もちをつく。


(ヤット消エテクレタカ。恐ロシイ。何故アノ、化物ニ牙ヲ向ケタ? 何故ダ……)


 森長は自分がなぜあのような、勝ち目のない戦いを指示したのかが理解できない。だが一つだけ理解した。


 二度とあの化物に歯向かってはいけないのだと。


 完全に気配が消えた森の奥を見つめ、森長は彫像のように固まったままだった。



 ◇◇◇



「「「な、なんだこりゃ……」」」


 冒険者たちは、外森へと入る道の前で絶句する。いきなり森が切り開かれたと思えば、そのまま広い道ができ、森を脱出できるのだから。


「だから言ったろう、俺がお願いすりゃ道がひらけるって。さ、このまま真っ直ぐ行けば安全だ。魔物も出ないはずだし、なにも問題はないと思う」

「わかった。俺は今日一日で驚くという感情を使い切ったかもしれん……」


 ラースの表情が抜け落ちた真顔を、苦笑いしながら流は彼の肩を叩く。


「驚き? 何を言っているんだ。この世界はさらなる驚きに満ちているんだぜ? 驚くのはこれからさ。さ、行ってくれ。俺たちも用事を済ませたらすぐに追いつく」

「流様。来てくれて本当にありがとうダゾ。ボクも外で待ってるんだゾ」

「なに礼ならお前の爺さんと兄ちゃんに言うんだな」

「え!? 兄様とお祖父様が……あうぅ」


 冒険者たちはその言葉で「まだ何かあるのか!?」と顔を青くするが、言われたとおりあるき出す。

 シーラは今後の事を思うと、逃げ出したくなる気持ちでいっぱいであった。

 やがて遠くへと消えていくシーラたちを見送り、流は森へ向けて語りかける。


「ヨルム、聞いているんだろう? お前のところまで開いてくれ」

『流か。状況を見させてもらったが、本当にお前は人じゃなかったんだな。まぁそれは後で話そう。今道を作る、少し待て」


 ヨルムはそう言うと、一言「道を開け、我もとへ友を導け」と言う。

 そこから数秒後、森が勢いよく割れ、緑色の回廊へと流たちをいざなうのだった。

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