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439:ホラーな森林浴

 冒険者だからこそ、その言葉の重み。そして冒険者の中でも、「最高ランクの称号」を持つと言う意味を知る。

 だからこそ、ラースは精一杯のように一言ひねり出す。が、他の冒険者たちは彫像のように固まったままだ。


「きょ……極武級……」

「ん? あぁそうらしいぞ。先日この称号をもらった時、魔法で見せられるように儀式をうけたからな。ホレ」


 流は魔力で作り出した極武級のエンブレムが見える、光るフラッグを作り出す。これは特殊なもので、極武級の冒険者二名と、ギルドマスターがそろって初めて使える魔法による効果だ。

 そんな冒険者なら誰でも憧れる、光るフラッグを目の前で見せられ、ラースたちはますます固まってしまう。


「おーい? なんだこいつら。動かなくなっちまったぞ?」

「流は知らないのかもしれませんけど、極武級って言うのは冒険者からすれば、会えただけで卒倒ものですわ」

「あらまぁ……ついでに貰っただけなのになぁ。言っておくが、俺は大商人になる漢だ、よろしくなッ!!」


 そう流はニヤリと左の口角をあげ、右手でサムズアップをキメる。実に堂々とした商人がそこにいた、が。


『『『そんな商人がいてたまるあかああああ!!』』』


 と、二度目のツッコミを受けて、少し涙目になる流であった。

 そんなやり取りで落ち着いたのか、冒険者たちは流を褒め称える。それを恥ずかしそうに後頭部をかき、礼をうけとる。


「いや、だからさ。俺も依頼で来ただけだから、気にするなよ。遅れちまったばかりに、いらぬ犠牲だしちまったがな」

「いやナガレ。本当に感謝している。お前が来てくれなかったら、俺たちも蜜熊たちも全員殺されていたかもしれないしな」

「そうだぜナガレさん。スゲーとは思っていたが、まさかの極武級とはなぁ……」

「ああ。おかげで俺はあいつと一緒にッ……うぅッ」

「あぁほら、泣かない泣かない。ナガレさんも困惑しているじゃないですか」

「まったくだ。ほら泣きやめ。受付のあの娘が待ってるぞ?」

「本当にありがとうナガレさん。アルマークに帰ったら、極武の英雄に奢らせてくれ!」


 冒険者たちは本当に嬉しそうだ。あの絶体絶命の危機から、まさか助かるとは誰も思わなかったのだから。

 そしてそんな様子を、地面を見るようにしてふさぎ込む娘が一人。シーラだ。

 シーラは流の足元を見つめ、うなだれている。


「どうしたシーラ? また何か売って欲しいのか?」

「ち、違うんだゾ。ボクのせいでみんなを巻き込んでしまって、生き残った事が恥ずかしいんだゾ……。それに食べられた彼らになんて詫びを……」


 そう言うとシーラは、肩を震わせ静かに泣く。それを見た流はシーラの両肩に手を置き、強めに握る。

 ビクリとシーラは震えたのち、顔をあげ流を見る。その顔は真剣な表情であった。


「シーラ。たしかにお前が招いた悲劇だ。しかしな、俺たち冒険者はそう言う覚悟でここまで来ている。だから気にするなとは言わんが、死んだ奴らのことは忘れないでやってくれ」

「ナガレ様……。うん、分かったんだゾ。皆の事は絶対に忘れないんだゾ」

「そうかい。それならよかった」


 流はそう言うと、冒険者たちに向き直る。そして両手を広げこう告げる。


「まぁ、ある冒険者が酔っ払って大声で、カウンターで叫んでいた受け売りだけどな」


 冒険者たちは笑う。ちがいないと。これは冒険者たちが仲間を失った時に、必ず言うセリフだ。

 酔って亡き仲間を偲びつつ、仲間が未練なく旅立てるようにと、冒険者流の弔い方だ。

 流はそれを知っている。そしてそこに居る(・・・・・)彼らもまた、先程とは違い安らかな顔になっていた。


 だからこそ流は蜜熊の宴会場を後にする準備をする。まず彼らを鎮める(・・・・・・)ことから取り掛かろうと。


「イルミス。この世界で死んだ魂はどうなるんだ?」

「な、なんですのいきなり。おばけなんているわけが無いですわ……」

「お前、高位の吸血鬼(アレ)だろう? どうして怖がる」

「だ、だってそんなものがいたら、怖いですわ!」

『さっきすっごい沢山ゾンビ出してたのに』

「ゾンビとオバケは違いますわ! だって……」

「『だって?』」

「壁をすり抜けてきちゃうんですからッ!!」

「『あぁそうですか』」


 流と美琴はガクリと肩を落とすと、森の木陰へと視線を向ける。そこには複数の影があり、ジっとこちらを凝視している。


「イルミス。まっすぐ後ろを見てみろ、いいか静かにだぞ?」

「ま、またそうやって驚かせようとしても無駄ですわ!」

「いいから見てみろ……そっとだぞ?」

「そんな子供だましに、このわたくしが騙されるとでもひぃぃぃぃぃぃ!?」


 イルミスは見た。複数の霊体がイルミスをジット見つめているのを。


「だから言ったろう、いるって。お前らには見えるか? あれ、お前たちの仲間だろ?」

「…………いや、見えない。ただそこの森の中に何かの存在は感じる」

「そうか。多分今回殺された奴らが、いまこちらを見ている。それでイルミス……おい、イルミス!」


 カタカタと震えるイルミスは、流の声で我に返る。そしてその言葉の意味が分かると、流に震える声で話すのだった。

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