438:生還者達
森長は黒と白の熊人間の前へとくると、座り込み頭を下げる。どうやら森長よりはるかに上位の存在のようであった。
「コレハ……御使イ様。会エテ、トテモ嬉シイ」
「うむ。今がいつかは知らないくま~が、お前も長生きくまね」
「兄者の言うとおりクマー。俺たちが眠る時、お前長老だったクマー」
「ハイ。アレカラ此処。人間ヨリ守ッテ参リマシタ。シカシ、今日ソレモ……」
「ま、気にするな。そろそろ壊れる時期だったくま~」
兄者たる黒熊人間はあっけらかんと言い放つ。それを驚きの表情でみる森長。
そんな森長に流は妖人を解き、人間形態になって話しかける。
「まぁなんだ。迷惑かけたのは人間と俺だ。すまなかった」
「グルルゥ。気ニスルナ、オ前ノ恐ロシサ。攻撃シタノハ我ラ。ソレニシテモ……本当ニ人間?」
「まぁ、一応そのつもりなんだがな。っと、来たな」
流は背後より冒険者達の気配を感じ、振り向くとシーラたちが歩いてくるのが見える。
どうやら安全と判断したのか、生き残った全員がこちらへと緊張しながら近づく。
「ナガレ様! そ、そのもう大丈夫なの? ちょっと怖いんだゾ」
「ああ、クマクマ兄弟が納めてくれた。のか? まぁそんなわけで今は安全だ。なぁ、クマックマ?」
「「うむ。我ら兄弟にかかれば、蜜熊など熊だくま~!」」
「だ、そうだ。つか、熊熊ウルサイクマ」
「「ガーン!?」」
熊の兄弟はショックを受けて二歩後ずさると、そのまま肩を落としてしまう。どうやらお豆腐メンタルのようだ。
『もぅほら。くまさん兄弟が可愛そうじゃない。流様はもう少し優しくなろうね?』
「え、俺が悪いの? だってクマクマウルサイし……」
「「ガーン!?」」
さらに落ち込む兄弟は地面に三角座りになり、熊の絵を書き始める。お豆腐すぎる。
そんな二人をイルミスは微笑ましく見ながら、話が進まないと流を注意する。
「ほら流。お話がすすみませんわ? 一度ヨルムのところへ戻って、そのままアルマークの町へと戻りましょう?」
「ん、そうだな。じゃあクマックマ兄弟、そう言うことだから、一緒にヨルムのところまで行くか?」
「「うむ! 森神様へこのことを報告に行かねばならぬくま~!!」」
「た、立ち直りが早いなおい。それじゃあ冒険者たちは、俺達の後を着いてきてくれ」
「すまない、本当に助かった。それでアンタは何者だ? っと、俺はさっきも言ったがラース。三星級の古参さ」
流はその顔を見てすぐに理解する。この漢がいたからこそ、ここまで生き残れたと。そういう覚悟を決めた、堂々とした顔つきだったのだから。
「そうか、ラースがいたから何とか生き残れたんだな?」
「それは違う。俺はマヌケにもシーラを始め、全員を危険に導いた馬鹿だ。責められこそすれ、褒められる事はしていない」
ラースは目を閉じ、死んだ仲間のことを思い出す。そしてギリリと奥歯を噛み締め、吸血熊の残骸を睨みつける。
そんなラースの肩を冒険者の一人が叩く。そう、受付嬢と結婚する予定の男だった。
彼はラースをよく知る男で、いつも子分のように慕っていた。その男が泣きながら、ラースへと語る。
「ラースさん、それは違うぜ。俺たちは全員そういう覚悟で来たはずだ。あんたもそう言ってたじゃないか? それに、アイツらは死んじまったが、俺達は生きている。それもこれもラースさんが、命捨ててまで一人で戦ってくれた結果だ」
「ああ、こいつの言うとおりですよ。俺もラースさんが死ぬと分かっていて見捨てた。それは貴方の生き様をしっかりと伝え、その後俺が責任をとるためです。残った中で一番古いですからね」
残りの三人もラースへと感謝と謝罪を伝え、涙をながし生還を祝う。それを見たラースは一言「お前ら……」と言うと、彼も目尻に涙を浮かべ左手で目頭をひとこすり。
そのまま流へと向き直るラースは、彼の口からでる言葉を待つ。そんな状況を理解した流は、頷くとラースへと自分の正体をあかす。
「俺は古廻流。領都級の商人だ」
「「「そんな商人がいてたまるかあああああああ!!」」」
「ええええ!? なぜ総ツッコミ!? しかもクマックマたちにまで!!」
流は左肘を全面に出し、まるでありえないものを見たように驚く。解せんと。
「まったく流は……ちゃんと冒険者の等級も教えてあげなさいな」
「んあ? あぁ、こっちは副業だから忘れていた。えっとあれだ。巨滅の――」
『それは以前のですよ。今は極――ん?』
「まったく貴方たちときたら。極武級でしょ?」
「『おお~ソレ!!』」
ガクリと肩を落とすイルミスに反し、冒険者とシーラは目を見開き口を大きく開けて驚くのだった。




