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426:冥府の戦士

 見守る冒険者の視線を感じながら、三人は自分の役割を理解し行動する。

 

(Lはデカイのを相手……イルミスは半分ファンシー熊の群れ。なら俺は……ヤツだろうな)



「Lはどうだ、いけるか?」

「はいぃ~! マイ・マスターのご命令なら、逆立ちしながら左足の小指だけで戦えますぅ~♪」

「普通に戦いなさい、普通に! イルミスはいけそうか?」

「ええ、それはもう。わたくし、こう言う戦も得意ですわ」

「そうかい……なら俺はボス戦と洒落込みますかね」


 流は口角を上げる。まずはシーラを襲ったデカイ熊。そしてこの中では一番の強者であろう個体を見る。

 その個体は冒険者の遺体はすでに食い尽くし、蜜熊の死体を貪るように食べていた。

 同族喰いに呆れながらも、流はそのまま悲恋美琴を右肩に担ぐ。喧騒の広場を無人の野を進むように、襲いかかる蜜熊を斬り伏せながら散策するように歩く。


「まったく困ったひと。そこもまた千石様にそっくりで嫌になりますわね。……さて、じゃあ行きましょうか。天国へ(・・・)


 イルミスは蜜熊の集団に斬り込む。その数実に百八頭!

 そこに四連斬を放ちながら、踊るように備前長船を振る。蜜熊はイルミスがどこにいるか認識した瞬間、首を落とされ、袈裟斬りに割かれ、襲った腕を斬り飛ばされる。


 だが蜜熊も負けていない。実はここの森に生えている木は、蜜が溢れている。

 怪我をしたり、四肢を飛ばされたくらいは、周囲の木にカジリ付く事で瞬時に回復。

 そしてまた戦線に復帰すると言う、悪夢のような状況だ――が。


「呆れますわ。まさかあんな方法で回復していたとは……しかも腕、くっつきますのソレ!?」


 流石に首は無理だが、腕も足も即座にくっつき、上下に分かれた下半身も、同胞に支えられながら回復してしまう。それでも業を駆使し回復より早く始末する事も出来るが、もはやこれは……。


(嫌ですわ。まるで出来の悪いゾンビじゃありませんこと。これが原因で真祖が生まれたのか……いえ、もっと別のものですわね)


 そう内心悪態をつきつつ流の方を一瞥した後、すぐに作戦を考え実行に移す。


「見せてあげましょう『本物のゾンビ』ってものを。おいでなさい! 冥府より蘇りし、土塊(つちくれ)の戦士たち!!」


 イルミスはそう唱えると一旦引くように、背後へと大きく飛び退く。その最中、備前長船の刃を背部分より口に咥えると、両手を左右に伸ばした後に胸の前で合わせる。

 すると蜜熊の目の前の土が急速に盛り上がると、中から腕が生え揃う。

 蜜熊も何事かと一瞬動きを止め、それに注視する。が、内部より急速に湧き出る全身が緑色の死体達。


 その姿、どこかの戦場で散った戦士なのか、粗末な装備を身にまとう。

 ゾンビは「あ゛~~~」と唸るように発声すると、蜜熊へと襲いかかる。

 人間あいてなら襲われた者たちもパニックになるだろう。が、相手は蜜熊。

 その程度では何も恐れることもなく、目の前の緑色の死体に一斉に襲いかかった次の瞬間。


「――パラダイス・シフト」


 イルミスがそう唱えると緑色のゾンビたちは消え去り、さらに次の瞬間――。


「ギャグウウウウウウウ!?」「ガアアアアアアア!?」「ヴォオオオオオオオ!?」


 一斉に響く蜜熊の悲鳴。見ればゾンビを襲った凶爪は、同胞の蜜熊を切り裂いていた。

 つまりイルミスは、パラダイス・シフトでゾンビと周囲の熊を入れ替え同士討ちさせる。

 さらにその後ろからゾンビ兵が襲いかかり、蜜熊へと斬りかかる。

 それを強力な膂力で払いのける蜜熊。だが――。


「グルゥゥゥゥア!?」

「あら、お気をつけあそばせ? 意外と毒もいいものでしてよ」


 蜜熊達は苦しげに唸りを上げる。それを見たイルミスはチャンスとみるや、一気に斬り込む。

 半数以上がパラダイス・シフトで入れかわり、しかも同士討ちをした後、背後からゾンビに襲われるという悪夢。

 そこにイルミスは突っ込み、縦横無尽に備前長船を振るい蜜熊を駆逐する。


「グガアアア!?」

「無駄ですわよ、その毒に侵されたら回復は出来ませんからね」


 イルミスに斬り飛ばされた腕を治そうと、後方の同胞と入れ替わる蜜熊。だが、蜜を食い回復しようとしても一向に治らない。

 それはゾンビから受けた毒が原因であり、状態異常を引き起こす効果がある。

 通常のゾンビにそんな効果を持たすことは出来ないが、イルミスのゾンビは特殊個体と言ってもいいもの。だからイルミスの調整一つで、色々な効果を持たせることが出来た。


「さぁどんどん行きますわ!」


 毒に侵された蜜熊を容赦なく狩り続けるイルミス。それを見た冒険者たちは顔を青くしてその戦いを見ている。

 

「お、おい。ありゃゾンビだよな!?」

「ああ間違いねぇ、しかも普通のじゃない。上位種、しかも特殊個体と見た」

「どっから出てきたんだ、って土の中か!?」

「そうじゃないよ。いいかい、あれはあの女が召喚したんだよ。ラースさんこれは……」

「確かにヤバイ女だろう。だが今は心強くもある。だが用心だけはしておけ、いつこっちに牙が向くとも限らない。大体なんで、あんな真っ赤なドレスであそこまで動ける」

「もぅ。おにぃさんは心配性なんだゾ? それよりあっちの森長のほうも凄いんだゾ!」


 冒険者たちはシーラの言う方を見る。そこにはもう一人の娘が、白い槍を楽しげに振りながら森長と戦っていたのだから。

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