424:割れる黄金Φ囲いは縦に
シーラは吐き出しそうになるが、流に口を塞がれそのまま飲み込む。
「ゲホッゲホッ! も、もう酷んだゾ! ナガレ様は鬼なんだゾ!?」
「このぐらい我慢しろ、馬鹿娘め。エルヴィスと爺さんがお前を心配している罰だ。それに……悪質顧客は待ってはくれないようだからな」
流は鬼という言葉に違和感を感じながらも、動きだす状況に注意を払う。
まず明らかに敵対している、ファンシーからカテゴリーチェンジした、見た目はそれなりに似ているホラーになった熊。
そして冒険者たちの傷跡から、黄金色の熊も敵と判断する。そしてスキンヘッドの男を踏みつけている、二番目に大きい熊も敵だ。
「……つまり、くまぁ~は全部敵って事でいいんだな、そこのスキンヘッドの人?」
「く、くまぁ? そうだ、あんたの言う通り、この蜜熊は全部敵だ。だが気をつけろ、そっちで怒り狂ってる吸血熊は他の個体とは違うぞ!」
「吸血くまぁ? あぁ、出来損ないの封蝋か」
見れば吸血熊は流たちにこっ酷くやられたのがこたえたのか、さらなるパワーアップを狙い、別の蜜熊へと襲いかかり吸血をしているようだ。
それを見たイルミスは、眉をしかめて流に話す。
「あの蜜熊、どうやったか知りませんが、わたくしの同族になったようですわ」
「って事はヴァンパイアか?」
「ええ……。しかも真祖と言ってもいいでしょう。まだ成りたてで幼いですが……成長すれば厄介になるかもしれませんわ」
「嫌だねぇ。熊に血を吸われる未来なんざ、想像もしたくないね。まぁ実演しているようだが」
「あら、それでしたら美女はよくて?」
「どちらもゴメンですね」
流はイルミスの妖艶な笑みを見て、ブルリと背筋を凍らせる。だが、いつか吸われてしまうと確信しているが。
そんな事を思っていると、森長が低い声で唸るように話し出す。
「オ前。何者ダ? コノ森ト、同ジ、匂イスル」
「ッ!? 話したぞ美琴! ほら、赤シャツは着ていないがファンシーだ、ファンシーがやって来たぞ!?」
『エー? なんかちっがーう……可愛くないし、吸血熊さんも話していたし』
「わがままな娘だよ、ホント。さて……状況は把握できたし、まずい部分も大体解析完了だ。Lちゃん、そこの大きい熊さんに人質の開放をお願いしてみなさい。丁寧にだぞ?」
「うわっかりました~! コホン……オイ、獣風情が馬鹿みてぇなツラァして、ボサっと生きてるじゃネーよ。畜産業者に送り届けるぞ? アアン?」
『Lちゃん。それ、お願いじゃないと思うんだょ』
Lの懸命な説得が続くなか、なぜ流がここまで悠長に構えて動かなかったか。それはここに封印されているだろう、「危険な樽」が原因だ。
もし間違って斬り捨てれば、何があるか想像もつかない。だからこそ鑑定眼でよく調べ、そっとイルミスへと耳打ちする。
(イルミス……ここの地下に蜘蛛の巣のように、例の物から力がながれている)
(分かりましたわ。では地下を傷つけないようにすれば、現状はよろしくて?)
(いや、それだけじゃない。もう延焼しているが、森も同じだ)
(なんですって!? なら一刻も早く消火しないと!)
流は空を一瞥する。黒い雨雲がどんどん広がって、こちらまで来るのは時間の問題だった。
しかしこのままでは、ますます燃え広がり何が起きるか分からない。そこで肩に乗っているワン太郎へと指示を出す。
(ワン太郎いけるか?)
(ぅ~ん……氷でとめるのは簡単なんだけどね、森が凍りすぎて死んじゃうかもワン)
(だがやってくれ、頼む。下手したら周辺が消し飛ぶらしいからな)
(分かったワン。最少の力で最大限の効果を考えてみるワン)
そう言うとワン太郎は短い足で、飛ぶように走り去っていく。それを見送った流は一気に決着をつけるべく妖人に変怪する。
瞬間、ざわつく蜜熊の宴会場。森長は本能なのか、はたまた恐怖からなのか、生き残るため唐突に叫ぶ。
「グオオオオオオオオオオオ!! 全員、コノ化物ヲ殺セ!! 決シテ! 逃ガスナ!!」
『『『グオオオオオ!!』』』
「嫌だねぇ嫌われたもんだねぇ……もっと好意的にいこうぜ? ここは蜜熊の宴会場。せっかくの親睦会だ。二次会の地獄へとご招待といこうか」
「あら、豪勢ですわ。お代はどうしますの?」
「すでに貰っているさ。たんまりと、な」
流は迫る蜜熊達を見もせず、冒険者たちの遺体を悲しげに一瞥する。そしてシーラへと視線をうつし、その衣服の汚れ。とくに足元に目が行くと、どれほど恐ろしかったのかが理解出来てしまう。
だからこそ流は静かに、その時が来るのをジット待つ。この畜生どもに彼らの無念を刻むために。
それを察したイルミスも流の背後へ背中合わせに立つと、迫る蜜熊を能面のような表情で見る。
完全包囲の蜜熊が流たちへと殺到すること、残り七メートル。
悲恋美琴の持ちて部分である、柄に静かに手を添える。
イルミスもまた同じように、備前長船へと手を添え、同じ姿勢になり腰を落とす。
動かない獲物に牙をむき出しにし、情けないヤツと器用に嗤う森長。
さらに迫ること四メートル。もはや蟻の這い出るすきも無いほど、蜜熊が密集した次の瞬間。
「ジジイ流・抜刀術! 奥義・太刀魚!!」
「古廻 流・抜刀術! 奥義・太刀魚!!」
凶悪な銀鱗を鞘から解き放つ。照らす太陽の光をこれでもかと身にまとい、銀鱗のドラゴンサイズの太刀魚が、蜜熊の集団へと襲いかかる。
蜜熊が殺到する直前、上空へ上がったLは口角を上げ、その光景を楽しむように両腕を抱え震える。
そのあまりにも見事な連携と、業の威力に恍惚とした。
なぜなら流たちを中心とした黄金の輪を、銀色の斬撃が左右に真っ二つにした光景を目撃したからだった。
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