423:商人は遅れすぎて現れヌ
「ナンダ? 森ノ奥、騒々シイ。オイ、見テ来イ」
「グルル~」
森長はそう配下の蜜熊へと指示を出す。一番森へと近い蜜熊が森へと入った次の瞬間!
「グガアアアアアアアッ!?」
「ナ、何ダ……アレハ……」
森長は目を見開く。今森へと入った蜜熊が吹き飛んで来たと思ったが、途中で空中に停止。
よく見れば馴染みのある物が体から突き出ている。そう、「蜜舌」と呼ばれる蜜を食べるのに特化した舌が、蜜熊の胸から生えていた。
だが、自分たちのと違い、その色は血のように赤く、そして蜜熊の血で濡れていた。
あれだけ強靭な体と、驚異的な回復力。だがそれらを無視するかのように、ぶら下がっている蜜熊は絶命していた。
見れば体が二回りほど小さくなっており、目がくぼみ始めている。次の瞬間、干からびはじめていた蜜熊がさらに宙へと浮くと、体が真っ二つに裂けた。
滴る血の向こう側から〝のそり〟と体を表す不気味な物体……。
元・仲間の蜜熊の血を頭から浴びたその個体、吸血熊は楽しむように肉を食み、噛みちぎりながら広場へと現れる。
「グオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
吸血熊は叫ぶ。その存在を世界に知らしめるように、圧倒的な存在感を出しながら吠える。
その体はゆうに八メートルは超えており、黄金色の下半身の毛並みは益々色鮮やかに輝く。
そこに頭上から血を浴びて真っ赤にコーティングされ、ひと目で「狂っている」と分かる狂気さを感じた。
そのまま吸血熊は広場で息絶えた冒険者を貪り、それをやめさせようと近づいた蜜熊まで殴り倒す。倒れた蜜熊の体が、急速回復しているにもかかわらず噛みつき、貪る。
さらに殺到する蜜熊たち。だが片っ端から吸血し、噛みちぎり、体を引き裂き、肉を食む。
まさに狂乱の宴。死体だろうが生きていようが、肉や血をおどり食いするように食い散らかす。
「何ダ!? アノ者ハ、仲間?」
「うそだろ……アイツはあの吸血熊なのか……?」
「ッ!? 勇者ヨ、オ前知ッテイルノカ?」
「ああ、さっきまで俺らが戦っていたバケモノ熊だ。しかし見た目が全然違っているし、デカさも違っている」
「ナント言ウ事ダ……。王ガ誕生スルトハ……シカモ、同胞ヲ喰ウナド狂ッテイル。マトモニ成ッタトハ思エン……ッ! マサカ、『アレ』ヲ!?」
「アレ? なんだそりゃ。つか、いい加減足をどいてくれないか。どうやらアンタたちも狙われているようだぞ?」
ラースの言葉を聞いたからか、吸血熊は近くにいた蜜熊の心臓へと右腕を突き刺す。
苦しむ蜜熊を笑いながら、吸血熊は心臓を抜き出し旨そうに一口。そして鼻を鳴らすと、広場の中心に強く感心をしめす。
「ッ!? オイ森長! 早くどけてくれ! あいつの狙いはシーラだッ!!」
ラースは叫ぶ。だが吸血熊の動きは、先程までのソレとは大幅に違った。俊敏なんてものじゃない、突風のような動きで最上の獲物へと急速に迫る。
「ハハハハッ!! その娘が我をここまで導いた! その礼に骨も残らずしゃぶり尽くそうぞ!!」
「足をどけろ森長あああああああ!! シイイイイイラアアアア!?」
吸血熊はシーラを抑えている蜜熊を、右手の爪を垂直に突き出し頭を吹き飛ばす。
その反動で後ろへと倒れる蜜熊の腹の上に、シーラは倒れ込む。
吸血熊の鋭利で凶悪な舌が、シーラの胸へと突き刺さるまで残り一メートル!
(たまらんッ!! この奥はきっと極上のメスの味がするのだろう! 今すぐ吸い尽くし――)
「オイ……俺の最初のお客様に何をするつもりだ?」
突如、銀色の光が吸血熊の目の前に現れた。直後、真っ赤で蛇のようにくねりながら、宙を舞う真紅の舌。
その事実に吸血熊は、一瞬意味もわからず眺める。が、次に来る舌の痛みでソレが何かを理解した。
「――ギャアグウウウウウウ!? な、なんだキサマはあああああ!?」
「あら、わたくしもおりますわ」
「グオオオオオオ!?」
流の方をみた吸血熊の背後から、備前長船で袈裟斬りにするイルミス。
たまらず背後を振り向きながら右手の爪で払う。が、そこには誰もいない。
「クソ、一体何ッ――がッアアアアアアア!?」
「ヴぁ~っか、左腹が丸見えだよん♪」
左脇腹に強烈な衝撃と痛み。たまらず見れば白い槍が突き刺さっていた。見れば青髪の娘が舌を出しながら馬鹿にしている。
わけも分からず攻撃され続け、その相手が小娘と知り怒りがこみ上げる吸血熊。
「我を馬鹿にするとは万死にあたいするッ!! 死ねエエエエぇ……犬?」
「誰が犬だワン。ワレは狐の王様だワン!!」
ワン太郎はLの前におすわりすると、地面を〝ぽむ〟とタッチする。すると瞬時に氷の壁ができ、そこからナイフのように氷が盛り上がると、殴りつけてくる吸血熊の右手を容赦なく裂き砕く。
「ギャグウウウウウウ!! クソ犬があああああ!!」
「飼い犬のおいたの責任は、飼い主の俺の責任でもある。詫びを受け取れ! ジジイ流・壱式! 四連斬!!」
「ナッ!? グゴオオオオオオオオオッ!!」
吸血熊の両足のスネと太ももに四連斬を叩き込む。たまらず体制を崩し倒れる吸血熊を、三人と一匹は睨みつける。
どうやらダメージがかなりあったのか、苦しんでいるようだ。
「上半身真っ赤に染めて何だコイツ? 出来の悪いメーカーズ○ークの封蝋みてぇな面しやがって。顔洗って出直してこい!」
『うわぁ~こんなのは違うよ。私の蜜熊さんのイメージを返して! ファンシーじゃない! ファンシーのかけらもないよぅ!?』
「はぁ~貴方達、本当に緊張感のかけらもないですわ」
「あるじと女幽霊に、それを求めるのは間違っているんだワン」
「そんなマイ・マスターが尊い! いえ、てぇてぇですぅ!」
宴会場へと現れた三人と一匹。その侵入に誰も気が付かなかった。気がついた時にはすでに「ここ」にいたのだから。
その異様な雰囲気と、妖獣だからこそ分かる侵入者たちの恐ろしい気配に、蜜熊たちは一歩後ずさる。
そして吸血熊の目の前で、何事もないように倒れている娘へ近づく男に恐怖する。それはこの森で感じる力そのものなのだから。
その光景にラースも冒険者達も声がでない。あまりにも圧倒的な雰囲気と、緊張感の無さの向こうに見える強者の気配。
森長も同じようで、ラースを踏みつけている足がかすかに震えていた。
「シーラ、随分と酷い目にあったな……。大丈夫か?」
「ぅぅぁ……あれ……ぼくはいったい? ナガレ様がいるんだゾ……またあの時見たく……都合のいい夢は……嫌いだゾ」
「夢じゃねーよ。ほら、痛いだろう?」
流は骨折している部分をつつく。その激痛にシーラはハッキリと意識を取り戻す。
「痛あああああい!? え、え、ええええ!? ナガレ様、本当にナガレ様なんだゾ!!」
「だから俺だってばよ。遅れてすまなかったな、それなりに無事でよかった」
「はぁ~、ふつう腫れ上がっている骨折した部分をツツキますの? ホントに呆れますわ。まるで千石様みたいですわ」
「俺を千石みたいな常識はずれと一緒にしないでくれ」
「あるじぃ、『常識だけが載っている辞書』を今度見つけておくワン」
「余計なおせわですぅ。ったく、ほらシーラ。コイツを飲め。少しすりゃ治る」
「え? これはぶぅぅぅあ!?」
流は骨董屋さんで待っている因幡からもらった貴重な薬を、シーラの口に無理やり突っ込むのだった。
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