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419:くまさんの宴は最高潮

「おにぃさん……ぼくたちを逃がすために、こんなになるまで戦ってくれたの? もぅ馬鹿なんだゾ……」

「まったくだぜ。だいたいここまでやれるなら、一言言ってくれよな。信じられねぇ、一人で倒しちまうとは……」

「すまないラースさん。あんたは俺達の命の恩人だ。俺が背負って逃げるから、安心して気絶していてくれ」

「彼への感謝の言葉は後だ。まずはここから脱出する。見ろ、ラースさんのおかげで道ができた」


 ラースが蜜熊を倒した事により、退路が確保された。その向こうには、輝く湖の光が見え、砂浜が向こう岸まで続いて見える。

 人に近い外見な犬の獣人がラースを背負う。無論あのロングソードも一緒にだ。

 それを確認した全員は無言で頷くと、足早にその場を離脱する。一刻も早くあの光の向こう側へと逃れるために。


「もう少しだ! あと三十メートルほどで抜け出せる!!」

「頑張れ嬢ちゃん、ここまで来たら生き残れよ?」

「うん! ぼくは死なないんだゾ! 生きておにぃさんにありがとうって言うんだゾ!!」

「だから叫ぶなつーの。ったく……お、もうすぐだ。これでやっとこんな場――?」


 シーラの隣を守っていた冒険者の男が、突如消え去る。その意味が分からずふと右を見れば……。


「そ、そんなぁ……」

「罠……かよ……」

「コイツら俺たちで遊んでやがるのか!?」


 茂みに伏せるように隠れていた蜜熊たち。それが一気に立ち上がると、希望への道を塞ぐ。その数、見えるだけで二十頭以上。

 絶望が冒険者達を容赦なく打ち据える。もう絶対に助からないのだと。


 そのまま押し戻されるように、ジリジリと広場まで押し戻される一同。

 ラースはまだ気絶したままであり、犬の獣人はその背にがっしりと背負ったままだ。

 やがて広場まで完全に押し戻され、その中央に先程までなかったモノがあった。

 

「なんだありゃ……」

「木で出来たツボか? それにいい香りが……蜂蜜酒(ミード)? 蜜熊の密造酒かッ!?」


 燃え盛る森を背景に、場違いなモノが複数置かれている。

 その一つへと、ひときわ大きい蜜熊が近づくと、そこに〝ドカリ〟と腰を降ろす。

 そして左手を中に突っ込むと、その手を舐めてから一言唸る。


「ヴォモオオオオオ~」


 それに呼応するように周囲からも同様の唸り声が響くと、蜜熊たちが姿を現す。

 その数……数えるのも馬鹿らしい。見渡す限り黄金の獣で埋め尽くされていたのだから。


「は……ははは。そうか……ここが蜜熊の宴会場ってワケかよ……」


 一人の冒険者がその光景を見て、呆れるように言ったこと。

 実はそうなのだ。この広場こそが蜜熊の宴会場と言われる「絶対に踏み入ってはいけない場所」であった。


 まれに蜜熊を狩ることがあっても、この森の入り口からは入らず、周囲にいる蜜熊を見つけだす。

 そこから中央の森へと続く砂地まで釣り、向こう岸で狩りを始めるのがセオリーなのだ。


 しかし、そんな事を知らず立ち入った大昔の冒険者たちがいた。

 彼らはほぼ全滅し、唯一生き残った数名からこの情報がもたらせられた事で、この地名がついたと言う。


「グルルルル……ニンゲン。ヒサシブリノ宴。楽シマセロ」

「あいつ話せるのか!?」

「見た目が長老って感じですもんねぇ。ハァ~、どうしますこれ?」

「どうもこうも無い。お手上げだ。だが……最後まであがいて見ようぜ」


 冒険者たちはラースを見る。その勇姿と覚悟はこの最悪な状況でも、冒険者たちを奮い立たせる覚悟を与えた。

 そしてシーラも覚悟を決める。もしもの時、最後はこの生命力で魔法を使ってみせると。



 ◇◇◇



 ――シーラが吸血熊に渾身の魔槍を放つ少し前まで時間は戻る。


 流は外縁部を抜けつつあり、まだ遠くだが新緑のような森が広がるのを視認する。


「おお! 抜けるぞ。長かったなぁ~」

「本当ですわ。寄り道をして時間をロスしたかと思いましたけれど、結果的に早く着けてよかったですわ」

「あのまま妨害が無くても、一直線では来れなかったからなぁ。お、あれか? 急がば回れってやつか!」

『怪我の功名ですよ流様』

「そうとも言う~」

「まったく、貴方達は緊張感ってものは無いんですの?」

「次出かける時は持ち合わせるように、美琴が努力する」

『え!? 私まで非常識にカテゴライズしないんでほしんですけど』

「骨董娘が横文字言うなよ……」

「そんな空気が読めないところもステキです、マイ・マスター♪ ついでに姫ッ」

「やれやれな主ですねぇ。おっと、森を抜けます」


 氷狐王が呆れるように背中の会話に入る頃には、開けた場所に湖が広がっていた。

 透明度が高のに、アイスブルーの色をした水に全員が感動する。


「おおおお!? なんだこれ! すごくないか?」 

『綺麗……正面の森が水に映って、とても幻想的ですね……』

「確か主の国にも、こんな沼があったはずですが。それの何百倍の絶景ですな」

「ふふ。ここはまともな場所なら、観光地になっていても不思議じゃないですわ」

「あぁそうだったな。いる……な。奥から嫌な気配がする」

「ええ、あの眼前に広がるのが蜜熊の宴会場。よほどのマヌケじゃなければ、正面からは入らないと思いますが……さて、どこにいるのやら」

「正面? というより、どうやって島に渡る?」

「真っ直ぐ来てしまったので、今がどの場所か不明ですが、正面は砂地になっているのですわ。そこを渡って島内へと侵入するのがセオリーですわ」


 流は「なるほどねぇ」と頷くと、氷狐王へと命を下す。


「氷狐王たのむよ」

「承知!」


 氷狐王は湖へ向けて歩き出す。すると水へと入ったかと思えば、湖を凍らせて道を作ってしまう。

 そのまま氷狐王は何事もなく、湖を渡って島へと上陸するのだった。

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