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417:くまさんの宴会はまだまだこれから。デスッ

「おい、嬢ちゃん! もう考えている暇はねぇ、行くぞ!!」

「でも……うん……そうだね。分かった……行くんだゾ」

「野郎ども! 聞いたとおりだ、今すぐ撤退す…………」


 ラースはそう途中まで言うが、その後言葉を失ってしまう。

 なぜなら、撤退方角である森の入口は一箇所しかない。だが、そこにいる……大きな黄金の熊が。

 それを見た冒険者の一人が口を開く。


「っそだろ……。どうするラースさん、こうなったら泳いで逃げるしか……」

「……無理だろうな。だがそれしかねぇ」


 そう言いながらも、ラースはそれが無謀だと知っている。森を囲む湖を泳ぎ戻る事は泳ぎの得意な蜜熊に追いつかれる可能性が高い。

 だが一人が襲われている間に、世間知らずの娘だけでも逃してやりたいと思い決断する。


「お前らすまねぇ。俺はコイツだけでも逃してやりてぇ。だから今から俺が、あの正面の熊にアタックする。その隙きをついて、左の開けた場所から湖へと逃げてくれ」

「おにぃさん……」

「んな顔すんな。生きて帰れたら俺の嫁になってくれりゃいい」

「え!? おにぃさん、なにを言って!? え、ええええ!?」

「ぷッ。アンタそれが目的かよ」

「まったく、とんだ茶番につき合わされそうだが……悪くねぇ最後だ」

「ああ、店をたたむにはいい日だな」


 冒険者たちはラースに冗談交じりの苦言を投げつけ、その行動を笑う。

 ラースもそれに応えるように光るスキンヘッドを撫でるようにかくと、男臭い笑みを浮かべ、最後の挨拶をする。


「じゃあなお前ら、死ぬまで生き残れ。決して諦めるな、最後の一人になってもな」

「おう、アンタもあっちで達者にな」

「死ぬまで生き残れか……ハンッ。面白くもねえが、その思い受け取ったぜ」

「ラースさん今までありがとう。さ、行くぞお前ら。ラースさんが突っ込んだ後、速攻で動く、いいな?」

『『『オウッ!!』』』


 冒険者たちを一瞥し、シーラの輝く金髪に手を載せて最後の一言を話す。


「シーラ。無事に戻れたら、次は兄ちゃんの言うことを聞いて、無茶なことは金輪際するなよ?」

「お゛に゛ぃ゛ざん゛……」

「泣くな。まぁ俺もお前の甘言に乗ってここまで来ちまったが、大人として止めるべきだったな。すまなかった」

「う~うん。ぼくが全部悪いんだゾ……ごめん、おにぃさん。ごめん、みんな」

「そう思うなら生きろ。そして俺の嫁になれ」

「ぼ、ぼくにも選ぶ権利があるんだゾ!? 大体そういう事は、こんなところで言ってほしくないんだゾ!?」

「こういう場所だから言えるのさ。ほら行け、達者でな」


 そう言うとラースは全魔力を使い、魔具を使い身体を強化する。

 それはいざと言う時のためにとっておいた物であり、以前トエトリーのダンジョンで偶然見つけた激レアアイテム。

 それは身体強化魔法が詰まった魔具に魔力をながす事で、一定時間全能力が二倍になると言うアイテムだった。

 とんでもなく高価で売り払おうとも思ったが、今はとっておいてよかったと心底思う。


「純正蜜熊の膂力(りょりょく)ってやつを俺に見せてみろ!! オオオオオオオオオオオオオッ!!」

「おにぃさんッ!!」

「行くぞ嬢ちゃん! やつの思いを無駄にするな!!」

「俺ら五人が先頭を行く、残りは嬢ちゃんの後ろから来い!!」

「分かった、殿(しんがり)は任せろ!!」


 この場合殿が一番危険だ。蜜熊に追いつかれ、襲われる確率が一番高いのだから。

 それでも嫌な顔ひとつせず、見事な連携でシーラを護衛しつつ森へと侵入する。

 森へと入る寸前、シーラは蜜熊に斬りかかるラースを見る。彼は蜜熊の左手からの一撃を躱し、その手を打ち上げるようにロングソードで斬り上げていた。


「おにぃさんッ」


 止めようとしても、とめどなく溢れる涙。そのせいで視界がゆらぐが、これ以上ラースの思いを無駄にしないために、必死に足を動かす。

 やがて湖が光を反射し、その青い湖面が冒険者たちを祝福するように輝く。ここを抜ければ生き残れると。


「やったぞ! 追っても来ないし、ここまで来りゃ逃げ切れる!!」

「よし、よし、よし! ラースさんに感謝だ!! そのまま五人は先行しろ!」

「分かった、行くぞ!!」


 もうすぐだ。もうすぐこの地獄から抜け出せると、誰しもが期待感で胸を熱くする。

 ただシーラのみ、ラースが気になり胸を痛める。


(おにぃさん、待ってるから、ずっと待ってるから生きて帰って来て!!)


 無駄だと分かっていても、そう願うシーラ。その瞳からは決壊したように涙があふれだし、足元の木の根が見えない。


「あッツ!?」


 シーラは木の根に足をとられ、前に転倒してしまう。転倒している最中、頭の上を強風が吹き抜けるのを感じた、が。

 転倒した衝撃と痛みで一瞬息ができなくなるが、別の意味でさらに息が止まる。

 その理由は、シーラの頭があった部分を人が吹き飛んで行ったからだ。


 濡れた瞳を擦り上げ、シーラはその人が飛んできた方向。つまり湖の方を凝視する。


 


 ――いた。




 黄金の毛並みが美しい獣が三頭、囲むようにこちらに向いて立っていた。

 その絶望的な状況に冒険者たちは動けない。無論シーラもだ。

 やがて絶望の黄金は静かにと歩きだすと、シーラたちを殺すために収納されているツメを出すのだった。

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