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412:くまさんの美食への探求

 蜜熊までの距離、やく十三メートルほど。

 ジェスの合図で兄のルッガは風魔法を起動して、他の二頭との空気の流を遮断したのを確認する。

 次に弟のボルガは兄の魔法が成功したのを一瞥すると、自分も風をハニーグレープを食べている熊へと「自分たち」の方向から風を飛ばす。


 当然自分たちの体臭もそこに乗るわけだが……。


(おい、本当に大丈夫なんだろうな?)

(兄貴と違ってお前は臆病だな。大丈夫だ。蜜熊は人を喰わないし、蜜しか興味がないらしい)

(ならいいけどよ……。熊相手に体臭をながすなんざ、正気と思えねぇからな)

(それには同意だ。しかしそうも言ってられねぇぞ? 今からコイツを開封する。いいか、開封後即座に離脱するぞ?)


 兄弟は静かに頷くと、魔力を込めた手に汗がにじむ。

 ジェスはそんな兄弟の目を二度見てから、ゆっくりと八宝蓮華蜜のフタを開封する……。


 瞬間、あふれだす「最強烈」な、旨そうな香りが周囲にたちこめた。

 一瞬意識をもって行かれそうになるほど、ジェスの食欲と言う本能がむき出しになる。

 それを例えるなら、肉汁が滴る極厚ステーキを焼いた時に感じる、嗅いだだけで空腹感を覚えるもの。

 さらには海の香りが濃厚な、とれたての拳ほどの貝を贅沢にレアに焼いた、香ばしくジューシーな幸福感。

 そして、芳醇で野性的な匂いの果物を口いっぱいにほおばった時のように、どこからともなく湧き出る唾液が口内を満たすようにあふれだす。


 それらの複合された、「匂いで旨いと確信」できる蜜は色が黒い。

 

 ただ食欲だけを異常に刺激するその蜜は、味も見た目も残念だった。

 しかしこの香りを嗅いでする食事は、どんなマズイ料理も「至高の味に変わる」とされている。


(よし! 香りが食いしん坊のもとへと向かったぞ! 魔法をこのまま固定し、離脱する!! クソッ腹が減ってきやがるぜッ)

((了解!!))


 先に兄弟が持てる力の最大で離脱すると、ジェスもそれの後に続く。

 振り返れば蜜熊は震えており、黒い鼻だけが異様に動きまくっていた。さらに息も荒く〝ヴォフォ~! ヴァオフォ~!〟と異常な音がする。


 蜜熊。それは普通の熊が「謎の現象」で六メートルほどに成長した、黄金色の熊だった。

 見た目は全身が蜂蜜のように輝くような黄金色で、それが蜜熊の由来でもある。それの鼻が激しく動く。いや、(うごめ)く。


「ヒッ!?」

(なに大声を出してやが――ぽ?)


 ジェスが思わず悲鳴を上げた理由。それは蜜熊の「鼻が縦に割れ」、中から真っ赤な細長い舌が勢いよく飛んできたからだ。

 たまたま振り返ったジェスだけがそれに気が付き、躱した先に兄弟の弟、ボルガの頭が串刺しになる。


「ボ、ボルガアアアアア!?」

「馬鹿野郎! 今は逃げろ!! お前まで死ぬぞ!!」

「クソガアアアア!!」


 ジェスの叫びに兄のルッガは、悲鳴に似た怒声をジェスにあびせた。

 しかし状況はそんな感傷も許さず、ジェスとルッガに黄金の死神は狙いをさだめる。

 見れば人を喰わないはずの蜜熊は、引き寄せた舌を収納しつつ、ボルガの頭を咀嚼(そしゃく)していたのだから。




 ――蜜熊は思う。


 『この世に蜜より旨い食い物があったのか!! もう我慢が出来ない。この森にいる「肉」を全部喰ってやる!! 肉肉肉肉肉が喰いたい!! 甘くて、とろける肉の塊を!!』


 と――。




 食欲が過度に増進され、蜜を食べている以上に「旨い」と感じてしまった。

 それは「元・蜜食魔物」が、三人の愚行により「肉食」に変わった瞬間。それもただの肉食じゃなく、狂えるほどの肉への欲求だ。

 

「グルアアアアアアアアア!!!!!!」


 蜜熊は叫ぶ。それは歓喜の咆哮であり、肉食の本能が呼び覚まされた事への喜び。

 そして目の前にいる「供物」に、全身から喜びがあふれだす。

 

 後ろを振り返らず必死に逃げる二人。だがすぐ背後で感じる恐ろしい気配に、腰が抜けそうになりながらも二人は走り抜ける。

 

「ルッガ! もうすぐ広場に付く、それまでの辛ぼ……え?」


 ルッガは走っていた。首がない状態(・・・・・・)で、その無い部分から血を吹き出しながら。

 そのまま七歩進むと〝ドシャリ〟と地面に倒れ、ツボから赤いインクを撒き散らしたかのようになる。

 そっと振り向けば、いつの間にか蜜熊はすぐ背後に可愛らしく座っていた。左(あし)にはルッガの頭を持ち、それをかじりながら……右手をふっている。


「ヒィィィィィィィッ!? な、なんだお前!? 中身でも入っているのか!!」


 それに答えず蜜熊はとても旨そうに、ルッガの右頭部の半分を食べ終わる。まるで丸い果実を食べているようだ。

 残りは後で食べる気なのか一度地面に置くと、倒れた体に手をのばし、鋭いツメで横に真っ二つにする。

 そのまま長い舌で、生暖かい生きた証をすする蜜熊。ガラス玉のような黒い瞳からは何を考えているかが予想もつかない。

 ただ、まちがいなく、食べることを心底楽しんでいる。


 だからこそ分かる。いや、理解した。「次は自分が残酷に喰われる」のだと。


 あまりの惨劇にジェスは声も出せずに、呆然とそれを見つめる。数瞬後、ジェスは正気を取り戻すと、二歩後ずさりをした後に走り出す。


(もうだめだ、失敗だ! ありゃ俺達じゃ勝てねぇ! 聞いていたよりも遥かに俊敏で凶暴すぎる!!)


 ジェスは心臓が口から飛び出ると思うほど、息も途切れながら走り続ける。

 やがて森の奥から光がこぼれてくると、そこまで行けば助かると安堵した。


(や、やった。もうすぐ逃げ切れるッ!! 兄弟には悪いが助かったぞ、立派な墓を立ててやるから成仏しろよ!?)


 逃げ切った! ざまぁ見ろ熊ヤロウ!! ジェスはそう思いながら、光の射す方へと全力で駆け抜けるのだった。

 本当にいつも読んでいただき、ありがとうございます! もし面白かったらブックマークと、広告の下にある評価をポチポチ押して頂いたら、作者はこうなります→✧*。٩(ˊᗜˋ*)و✧*。


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