409:秘密の入れ物
「分かった。とりあえず聞いてやる。言ってみろ、何が目的だ?」
「ふぅ~。目覚めたばかりで殺されるかと思ったぞ。まぁなんだ、はじめましてと言っておこう。俺はこの封印を作った稀代の魔法師で、名をヨルムと言う。おっと、そんな胡散げに見ないでほしい。これでもあの当時は名の知れた男だったのだよ」
そう言うとヨルムはムサイく生え揃ったヒゲを揺らして笑う。
さらに揺れるヒゲを乱雑に撫でると、その先を自慢気に話し始める。
「鉄壁のヨルムと言えば、敵も逃げ出すほどの魔法師だったのさ!」
「そのヨルムさんとやらは、どうしてそうも人形クサイのかねぇ?」
「だからそう睨むなって言っているだろう? 最初に言っておく。これから言うことで俺を斬ろうとするなよ?」
「それは内容次第だ」
「怖いやつめ! コホン。まず俺はお前が言う人形の手下だっ――」
瞬間、流は妖気を込めたクナイを作り出すと、それをヨルムへと投擲する。
それをギリギリ黒いツルで防ぐと、ヨルムは真っ青な顔で叫ぶ。
「ちょ!? やめてくれ! 殺すきかああああ」
「もう流ったら、お話が進みませんから、少し我慢してほしいですわ」
『そうですよ。おヒゲの人、ますますひどい顔になっていますよ?』
「失礼なこと言うな! 元々酷いみたいな事を言うやつは誰だッ!!」
「俺の刀だよ。ったく、分かった。おとなしくするよ」
よほど人形の気配が濃いのか、流は実に好戦的だ。
その原因はここに向かってくる途中に感じた、忘れたたくても忘れられない、あの気配。
「どうしたんですの流? 貴方との付き合いは短いですが、それでもそんな短慮な人ではないと思いますわ」
「……ああすまない。あの憚り者の気配が忘れられなくてな」
「人形ではなくて、憚り者? それは一体誰ですの?」
「お前も知っているはずだイルミス。弐と言う裏切り者の名を」
イルミスはその名に聞き覚えがある。当然だ、それは千石の父を裏切り、この世界へ混乱を持ち込んだ張本人の名前なのだから。
「そうでしたの……ええ、よく知っていますわ。この世界に混乱と戦乱を持ち込んだ邪神と言うことは。ただ、わたくしは会ったことないのですわ」
「あぁだからコイツの中にある、憚り者の匂いに気が付かなったのか」
その言葉でヨルムは確信する。このコマワリ・ナガレと言う人物は、間違いなく開放者なのだと。
だからこそ慎重に言葉を選び、この男の真意を探ろうと口を開く。
「……そうか。やはり貴殿はあのコマワリ家の一族か。まずはその末裔の貴殿に礼を言わせてくれ。この国を救ってくれて感謝する。そしてたぶんだが、世界もな」
「それはどういう意味だ?」
「うむ。話せば長くなるが……」
ヨルムはそう言うと、右手を軽くふる。すると流とイルミスの前に荒い作りだが、イスとしては座り心地の良さそうな物が出来上がる。流はそれに座ると続きを促す。
「悪いが時間がないので簡潔に頼む」
「あぁそうだったな、すまない。実は俺は弐の弟子だ。しかも愛弟子と言っていいほどに、この世界で重用されていた」
「そこまでか……」
「ああ。そしてあの時まで俺は彼女を師と仰ぎ、信仰心に似た感情すら持っていた。が、彼女がナガレが言う人形と言う存在と結託し、この世界を滅ぼそうとしているのに気がついた」
「そんな幹部が、どうしてこんな場所にいる?」
「簡単な事だよ。俺はこの世界から戦乱を無くすために奔走していた。しかし実際は真逆の事をしてたと気がついた。だから奴らから、『大事なモノを盗み出した』と言うわけだ」
流はヨルムの発言や、鼓動。そして表情にいたるまで「鑑定眼」でつぶさに観察していた。
そのどこにも嘘や取り繕うような感じは見受けられず、ある程度信頼があると思い黙って聞く。
「俺は弐から学び、さらに自己流に進化させた封印術を使い、さらに人の肉体を捨て去り意識を仮死状態にし、精神体のみのうつろな存在になった」
「そこまでしないと守れないものなのか?」
「ああそうだ。奴らの『妖力』の大部分を封じているからな」
「「なッ!?」」
流とイルミスはその言葉に驚愕する。それはあまりにも突拍子もなく、また驚愕の内容だったのだから。
「そこで俺の頼みだが、お前がサムライ……いや、古廻の者として頼みたい。どうかあの封印されている樽を、中身ごと消し去ってはもらえないだろうか? このままなら、遠くない未来、あの樽は大爆発を起こし、この一帯は灰塵と化すだろう。それも少なくてもと言う程度だ。最悪、王都まで巻き込むかも知れない」
ヨルムはそう言うと、「いや、それでもまだ甘いかも」と噛みしめるように言うのだった。




