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402:森の神秘?

 トロールは自分に何が起きているのか理解できない。潰したと思った女が棍棒を弾き返し、そのうえ自分の腹にケリを入れた事が理解不能。

 だから思う。「ナゼ? ドウシテ? フザケルナ!!」と。


 後方に吹き飛ばされ、草木を巻き込み倒れながらトロールはそう思う。

 このトロールは、すでにかなりの時を生き、中心の森の支配者たる蜜熊に次ぐ実力を持っていた。

 そのプライドから食料たる目の前の女に対する怒りは、まさに怒髪天を衝く勢い。

 すぐに起き上がり、持てる最高の膂力をもって、目の前の(エサ)に棍棒でつぶしにかかる。


「オガアアアアア!」

「ちッ、意外と早い。でもねッ!!」


 Lは槍の穂先で器用に棍棒を弾き返し、さらに棍棒が揺らいだ隙きを狙い、その間合いに飛び込むと、その利き手である右手首を斬り飛ばす。

 さらに、斬り飛ばした白い槍をそのまま回転させ、刃と真逆の部分。石突でトロールのアゴを弾きあげた。


 たまらず腕の痛みと、アゴの衝撃で後ろへと三度転がりながら仰向けに倒れる。

 そのまま動かなくなったトロール。それを見たLは止めを刺そうと近寄る、が。


「L! 待ちなさい、まだ何かがあってよ! 少し離れていなさい」

「……? 了解です」


 イルミスからの指示をうけ、そくざに飛び退く。直後、トロールの体が森の草木に覆われてしまい、姿が見えなくなった。

 もしLが近くにいたら、草木に絡め取られて動けなくなったかも知れない。


「なんだぁ? イルミス、あれは一体なんだ?」

「やはり……あのトロール。森の匂いが異様に濃いんですわ」

「匂い? と、言うと?」

「ええ。わたくしもあのタイプの個体と会うのは初めてですが、多分森が生み出したと言っていいですわ」

「ますます分からん。どう言うことだ?」

「多分ですが、あのトロールは森が作り出した守衛のようなもの。通常はあんな魔物が出るなどと、聞いたことがありませんわ。事実、わたくしもここへ何度か来たことがありますが、一度も遭遇したことがないですわ」

「そもそもこの森は生きてる? いや、木々は生きているだろうが、意思があるのか?」

「そう、なのでしょうね……。過去にも不思議な感覚はありましたが、巧妙に隠蔽されていましたわ」

「不思議森だな……じゃあ今回、何でそんなのが出たんだよ?」


 そう流がトロールが消えた場所を見ながら、イルミスへと尋ねる。

 するとイルミスも、美琴も呆れたように話し始めた。


『なぜって……ねぇ?』

「ええ。それはどう考えても、貴方が原因ですわ」

「え、また俺!?」

「主はたまに鈍感ですね。ククク」

「氷狐王にも笑われただとッ!?」


 そんな流に呆れるようにイルミスは話し始める。


「いいですこと? 貴方のその凶悪とも言える妖気。そして、腰の美琴。それらが合わさった事で、森も危機感を感じたのでしょう。そこで斥候役の様子見として、トロールを作り出した……そんなところですわ」

「なんだ、美琴が悪いのか。まったく、しかたのない娘だなお前は?」

『ぇ、えええ!? 私もなの? うそ~! って、私だけ悪者にしないでくださいよねッ』

「鏡いりますか、美琴様?」

『うぅ……。それでこのまま進んでもいいのかな?』


 ごまかすように話を変える美琴。それに苦笑いしながらイルミスは話す。


「そうですわねぇ。どの道進むしか無いですし……」

「だな、迷うだけ無駄と言うものだ。Lは上から状況を判断し、介入してくれ。俺たちはこのまま進む」

「はい、承知いたしました。マイ・マスター」


 Lはそう言うと、実にスマートに頭を下げ飛び立っていく。先程の口の悪い娘とは到底思えないその仕草と口調は見事だ。Rの側仕えだったと言うのもうなずける。


 そのまましばらく森の中を進む。氷狐王は速度を落とし、油断なくすすむ。それと言うのも……。


「ちっ、またかよ!? いい加減にしろっつーの!!」

「まったく鬱陶しいですわ、一体何をそこまで抵抗するんですのよ」」


 直接対決では勝てないと思ったのか、トロールは森に溶け込みながら襲ってくる。

 巨木のそばを通れば、その幹から腕を生やし、苔むした岩を横切れば、そこからケリが飛んでくる。

 さらには地面そのものが隆起したかと思うと、そこから上半身が生えてきて、氷狐王の後ろ足を掴んで邪魔をする。

 そんなゲリラ戦に辟易(へきえき)とし、流たちは森の奥へと進む。


「……流。気が付きまして?」

「ああ。俺もいま言おうと思ったところだ。これは道に惑わされているな」

「我も同じところを回っていると言う印象です。真っ直ぐ走っているつもりですが、ほらあの木は先程の木です」


 氷狐王が見つめる先にある大木。それは先程イルミスがつけた斬撃痕があり、確実に同じ場所を周回しているのだと一同は認識するのだった。

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