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398:はちみつだいすき

 流はそんな二人を見て、このまま話がスムーズに進むと思い協力を要請する。


「それで爺さん。このまま王都まで行きたいんだが、軍馬と物資の補給をお願いしたいんだよ。頼めるかい?」

「うむ。それはやぶさかではないが……ん?」

「へぇ……」


 突如リッジの背後に影が出現する。それは黒い衣装に身を包んだ人物で、男女どちらかも外見からは分からない。そういう「認識阻害」をしているようだ。

 不思議な人物の登場に流も感心しながら、油断なく見つめる。

 

 その人物も流を凝視している雰囲気だが、殺気などは放っておらず、あくまで警戒しているといった感じだ。

 

「先代様。ご報告、よろしいでしょうか?」

「かまわぬ。どうした?」

「は。お探しのシーラ様の情報を入手いたしました」

「なんだとッ!? それでシーラはどこにおる? 今すぐ連れてこい!!」

「申し訳ございません。詳細な場所までは分かりませんが、最終確認地がアルマークとの事です。なお、そちらの神器と呼称されたマイセンを送った場所は、この町と判明しました」

「なにッ!? するとシーラはこの町にいると言うのか?」

「はい、その通りかと。なお身元がバレないように、三人の人物を介して先代様へと送ったようです」

「何をしておるんじゃあの子は……。エルヴィス!! 支援はする。が、今すぐあの子を連れてこい!! これは絶対命令じゃ!!」

「お、お祖父様。今はそんな事をしている暇がないのです! お願いですからこのまま行かせてください!」

「どうせ軍馬が揃うまでの間しばし時間がかかる。それに少し休憩する時も必要じゃろう? だからお前は少し安め。そしてナガレよ、エルヴィスの友として代わりに頼めるか?」


 リッジはエルヴィスのボロボロの旅姿を見る。そして顔色も良くないと判断し、ここまで無理をしていたと即座に理解すると、こう切り出す。


「お祖父様……ありがとうございます。ですが、私のこの身よりも、今は最優先にすべき事があります」

「だからこそよ。日本刀を持つナガレは無論、他の者は強者よ。あの娘ですらその体捌きから分かる。だがお前が足手まといになれば……わかるな?」

「くっ。そ、それは。ですが――」


 流は被せるように、エルヴィスへと優しく語りかける。


「大丈夫だエルヴィス。まだ予定より随分早くここまで来れたろう? それもお前のおかげだ。だから少し休んでくれ。逆にすまなかったな、俺たちは疲れにくいから忘れていたが、お前はリザードマンとの攻防前から旅をして、そのままここにいるんだもんな」

「ナガレ……」

「と、言うわけで爺さん。俺がエルヴィスの代わりに探してやるよ。それでどんな容姿なんだそいつは?」

「どんなもなにも。お主、マイセンは誰に売ったか忘れたのか?」

「ん? え~っと…………あ!! あいつか!?」


 流はアイテムバッグから一枚の板のような物を取り出す。それは長さ五センチほどのプレートであり、そこには「アルマーク商会証」と刻印がなされていた。


「これ知ってるかい?」

「おお!! まさしくそれはシーラが持っていたものだ! それはどうしたんじゃ?」

「あぁ、実はこの世界に来たばかりの頃にな――」


 流はセリアをゴブリン酋長の〝プ〟から救った事に、その後で商人の娘を救出した事を話す。

 その時商人の娘にマイセンを売ったこと。そしてその金額が少なかった事で、娘が変わりにと流へそのプレートを差し出したと説明する。


「あの馬鹿娘がッ。もう少しで死より恐ろしい目に会ったと言うことか……お主には本当に世話になったようじゃな。礼を言う、ほんにありがとう」

「いや、ついでに救出しただけだ。気にしないでくれよ。って言うかエルヴィス。ここまでの話で分かったが、お前が言っていた商売の才能がない奴って妹だったのか!?」

「え? 言わなかったか?」

「聞いてねぇよ。てっきりあの話しぶりからすると、弟かと思ったぞ」

「ははは、すまない。あいつは男みたいなやつでな、ついつい弟のような説明になったかもしれん」

「男前すぎる説明だぞ? ったく……しかしあいつがねぇ」


 流は少し前に助けた娘の事を思い出す。薄汚れていたが、顔は美人で褐色肌の元気なやつだったと。


「分かったよ爺さん。じゃあ俺に任せてくれ。それでそこの西洋忍者なアンタ、情報をくれないか?」

「……ええ。(西洋忍者?)」


 西洋忍者とは? と不思議に思いながらも、認識阻害の人物は目撃情報などを話す。そして。


「ちょっと待て! シーラは失態を埋めるべく、あの魔の森。『蜜熊の宴会場』へと向かったと言うのか!?」

「はい。シーラ様は物資を横領した埋め合わせとして、蜜熊の胆嚢(たんのう)を入手するため、冒険者を雇い森へ向かったとの事です。シーラ様が近場にいるとは思わず配下を四方に散らせてしまい、対応が遅れた事。お詫びいたします」

「そんな事はよい! それよりシーラは冒険者を何名雇ったのじゃ!?」

「は。それですが……三星級(トリプル)を二十名との事です」


 三星級。それは冒険者ランクで言えば、中級と言ったところだ。三星級が一人で、ゴブリンなら三匹纏めて相手にできるほどの実力である。

 それが二十名。流はその話を聞いて安堵する。が……。


「三星級をたった二十名……馬鹿なッ!? あの子は何を考えているんだ!!」

「お、おい。爺さん。その蜜熊ってのはそんなにヤバイのかい?」

「そうか、お主は知らなんだな。蜜熊とはな、熊じゃ!!」

「いや熊って爺さん。それは分かるが蜜熊? どこぞの赤シャツが似合う、黄色いファンシーな生き物を思い出すが」

「そんな可愛らしい存在じゃないわ。蜜熊……それは恐ろしいほど凶暴なんじゃ。はっきり言おう、三星級が八十人で狩れるかどうかと言う存在じゃ」

「おいおい。そんなヤバ熊に二十人とか、あたま大丈夫かおたくらの家族?」


 エルヴィスはため息まじりに、流の問に答える。


「あいつはな、自分に自信がありすぎるんだよ。だから失敗する。今回も自分の魔法こみで、冒険者たちを釣ったのだろうさ。どうせ自分の魔法を見せつけて、これがあれば大丈夫。だから報酬が三倍とか言いくるめてな」

「……エルヴィスの言うとおりじゃ。あの子はそれが欠点なのじゃが、そこがまた可愛いところなのだがな」

「お祖父様はアイツに甘すぎます! 甘やかすからこんな事になるのですよ?」

「うぅ……しかし困った。それより早くなんとかせねばッ!! 今すぐ冒険者ギルド長を呼べ、そして町にいる冒険者たち全てに救出へ向かわせるのじゃ!! 報酬は言い値で払う!! 行け!!」

「はッ!! 承知いたしました!!」


 認識阻害の人物は影に消えるように去っていく。そして残った面々は顔を青くして、窓の外を見つめる。


「あぁ……困ったのぅ。今、この町にいる冒険者の実力者はそんなにいない。しかもパーティーで討伐した巨滅級が数名いるくらいじゃ。どうする……」


 頭を抱えこむリッジに、流は苦笑い気味に話す。


「あ~、あのさ。俺に依頼しない?」

「ぬぅ!? お主、商人だろう? 確かに強者のようだが、あの蜜熊はただ強いと言うだけではな……」

「いやぁ~実は俺ってば、極武級なんだわ。ほら」


 流は魔力で作ったフラッグを目の前に作り出す。それを見たリッジとガランは目を見開き驚愕するのだった。

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