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396:VIPな器

「それでリッジよ。お前がココへ来た理由は、酒を呑みに来たわけではあるまい?」

「うむ。酒は今夜にでも馳走になるとしようか」

「まさかの爺さんたちは実は仲良しだった!?」


 流はその様子に驚くも、次の言葉で驚きも収まる。


「それでその、日本刀はどこで手に入れたんじゃ?」

「その前にアンタは一体誰だい? 俺は古廻 流と言う。この日本刀・悲恋美琴の主で商人だよ」

「おぉ~これは失礼したわい。俺はこの町の鍛冶師の頂点、ガランだ。よろしくな小僧」


 そう言うとガランは、ゴツゴツとした手で握手を求める。流もそれに快く応じると、ガランも実に男臭い笑みで流に応えるのだった。


「うむ、いいヤツそうじゃないか」

「じゃろう? こやつがマイセンの秘密を話してくれると言うからな。山荘に行く時間も惜しくて、ここに来たわけじゃよ」

「なんと! あのマイセンの秘密を知っているのか? 俺も詳しく教えてくれ!!」

「ちょぉぉぉ!? まあぁぁぁぁ!! 二人でゆらぁぁぁすぅぅなぁぁあっぁあ」


 流は二人に両手を交互に引かれ、陸なのに二日酔いしそうな程揺れる。

 見かねたエルヴィスが、二人の間にはいるとなだめ始める。


「お二人共。それではナガレも話せませんよ?」

「「んぉ? あぁすまない……ごめんね?」」

「だから! 最後だけ! かわいく言っても需要がないわッ!!」

「エルヴィスのお爺様は、かなり変わった方なのね」

「ハハハ……まぁ、それで苦労していますよ」


 爺さん二人が舌を出し右手を頭部に当てて謝っている。なんだこの芸人は!? と流は思いつつも、このまま放置すればまた暴走しかねないと本題に入る。


「あ~それでだ。まずどっちから聞きたい?」

「うむ、そうじゃなぁ。ではワシはマイセンから頼む!!」

「異論は無いの。俺は鍛冶師じゃが、マイセンも興味深い!!」

「あいよ。えっとだな……」


 流はすべてを知っているエルヴィスへと視線を向ける。すると一つ頷くのが見え、それは全てを話しても良いと受け取る。


「まず、そのマイセンのカップだが、二度と手に入らない理由は……異世界の品だからだ」

「「なにッ!?」」


 リッジは急いで自分のマイセンのカップセットを取り出すと、そっと目の前のテーブルの上に置く。


「そ、それは本当か? 確かにワシの商会で扱っている品や、噂ですら聞いたことのない美術品ではあるが」

「いや落ち着けリッジよ。この一度見たら心に焼き付く、吸い付くような色合い。そして絵柄の見事さ。異世界産と言われても信じられる」

「うむ……してナガレよ。この器が異世界産としてだ、どうしてお主がそれを知っている?」

「なに簡単な事さ。それをこの世界に持ち込んだのは俺だからな?」


 その言葉で二人は声にならないような、喉の奥から絞り出すように「ぉぉ……」と漏れ出す。


「異世界からの住人……おとぎ話じゃなく、本当に存在しておったか……」

「ガランよ。実は言っていなかったが、それは真実だ。そして、今でもその子孫はこの世界にいる」

「なんと……」

「うむ、驚くのも無理はない。ただこの情報を知れば、お主の身に危険があるやもしれぬ。これはそう言う類のものになる。ナガレが日本刀を持っている時点で気がつくべきであったが、マイセンに気を取られすぎて考えが至らなかった。許してほしい」

「うむぅ……じゃがなぁ……」


 ガランはアゴの三編みにされたヒゲを触り、先端の剣をつまむ。そして一つ頷くと、それを弾き口を開く。


「ふん、みくびるでないわ。今更追われるのは慣れておるわい」

「はっはっは、確かにな。まぁワシの目の黒いうちは、かならず守ってやるわい」

「追われる? まさか犯罪者かなにかか?」

「バッカモン!! 俺はそんな事をせんわッ!! むしろ犯罪者に追われて困っているのだ」

「まぁ見た目は犯罪者のようじゃがな。コイツはな、剣を作る腕がなまじ良いから悪者に狙われると言うだけじゃわ」

「まぁそう言うことじゃわ。それでナガレよ、そのマイセンのカップはまだあるのか? あったら俺もほしいんだがなぁ」

「あぁそういえば……」


 流はアイテムバッグから、趣味で持ち歩いている二振りの剣が描かれているのが特徴の、ホワイトマイセンのVIPを取り出す。


「これもマイセンだよ。樽爺にふさわしいデザインだろう? カップとソーサー自体が盾とも花とも思わせるデザインも秀逸なのだが、それを引き立てるように、この二振りの剣が全体を引き締めている。ハンドルも特徴的で、高台の曲線も素晴らしい出来だ。さらにソーサーの部分もこの角度……」


 流はカップとソーサーを目の前のテーブルに置くと、デザインが一番美しく見えるように角度を調整する。


「と、こんな感じで見るだけで心がおどるだろ? カップとソーサーの青いラインもまた美しい……これは本当に良いものだ。そうは思わないか? って、オイオイ」


 反応が無いので思わず振り返る。そこには彫像と化した四人がいた。

 エルヴィスは口を大きく開き、リッジは右手を前に突き出し、ガランは目を見開く。

 そしてイルミスは、頬を朱色に染めて胸の前に両手を祈るように合わせている。


 ちなみにセリアは、ワン太郎を頭に乗せて、不思議そうな顔で固まっている四人を見ていた。

 そんなセリアを、ルーセントは苦笑いしながら見つめているのだった。

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