395:樽型専用お爺ちゃん
イルミスの体のラインをジックリと見つめたリッジは、数度頷くとその形のよい尻を触り、イルミスに右手の甲をつねられる。
「あいだだだッ。いいではないか、どうせ減るものじゃないだろうし」
「わたくしの精神力が減るので、やめていただきたいものですわ」
「フン、そんなたまじゃあるまいに。って、こんな性悪の事などは今はいいわ! そう、お主! 神器の事を聞かせてくれ!?」
〝こんな〟呼ばわりされたイルミスは、こめかみをヒクつかせながらも笑顔をみせる。目は笑っていないが。
そんな事を知ってか知らずか、リッジは流へ向き直るとまた肩を揺する。
「うわぁぁ! 分かった、分かったから落ち着け爺さん!!」
「ぬぅ。すまん、興奮したようだ……ごめんね?」
「最後だけ可愛く言うなよ! 誰得だっつーの。で……だ」
流はエルヴィスを一瞥すると、祖父であるリッジへと話をすすめる。
そしてマイセンのカップへと指をさしながら、耳打ちするように小声で話す。
「状況は分からんが、この話はここでするわけにはいかない。あんたも知っての通り、その器は特殊でな。この世で二度と手にはいらないだろう」
「なっ!? そ、そこまでの事かあああああッ!?」
「大声出すなって。だからここでは話せない。町への滞在許可……出してくれるとありがたいが?」
「ぐぬううううう……よかろう、お主の顔に免じてエルヴィスの滞在も許そうではないか。エルヴィス! 次こそ学園から逃げ出したあの子を見つけ、首に縄をくくってでも連れてこい。よいな?」
「わかりましたよお祖父様」
リッジはそう言うと、「付いてこい」と言うと後ろを見ずに歩き出す。するとどこから現れたのか、本当に自然にメイドがリッジの使っていた竿や、その他の道具を片付けている。
だがマイセンのカップだけは、それ専用に作ったであろう宝箱の中へとしまい、アイテムバッグの中へと収納したようだ。
そんなリッジに呆れつつも、エルヴィスは苦笑い気味に流へと話す。
「すまない助かった。今回は私がやってしまったようだ」
「気にするなよ。たまには俺も、『巻き込まれた一般人』ってのをやってみたかっただけさ」
「お前が言うと、本当にそう思えるから不思議だ」
「うん。言っていて心を自分でえぐった気分だわ」
「ほら二人とも、もうすぐ町へと入るよ?」
「おっと、セリア様も初めてでしょう? 三人とも楽しんでください」
「「『おぉ……』」」
その町、アルマークは白かった。外壁こそ普通の石だったが、大門をくぐれば一面に広がる白い世界。
建物の壁は無論、屋根・店の内装・ベンチや噴水にいたるまで、落ち着いた白い色で統一されている。
これまでの町と違って、雰囲気もまたどこか陽気な異国のようだった。
衣服もエルヴィスのような、アラビアン風な衣装を着ており、褐色の人間が多い。
ただ同じように亜人や獣人もかなりいそうだ。
その比率はトエトリーより多く感じ、本当に異世界に来たんだと流は再認識する。
この町もどうやら眠らない町なのか、夜も明けたばかりだと言うのに人の往来が多い。
「これは見事な程に異世界だな……」
『本当ですねぇ……ドワーフさんが剣を作っているのかな? ちょっと気になります』
朝も早いと言うのに前方の鍛冶屋では、硬質な金属を鍛える金槌の音が響く。
日本なら苦情殺到ものだろうが、異世界はそんな事もないのだろうか? と、不思議に思いながらリッジの後を付いていく一同。
やがてその鍛冶屋の前まで来ると、リッジは大声で店主を呼ぶ。
「おいジジイ!! 出来損ないなんざ作ってないで、顔を見せろ!!」
「なんぢゃとおおおおおお!?」
勢いも激しく、鍛冶場のドアを蹴破って出てくる男。
身長は一メートル五十センチ程で、白髪に樽のような体。その顔にはヒゲを三編みにし、その先端には小さな剣が突き刺さる。
怒りの顔はしわくちゃだが、キレのある瞳でリッジを睨みながら、目を保護してたゴーグルを投げ捨てた。
「誰がクソジジイの死にぞこないぢゃあああああ!?」
「お前だジジイ!! そしてジジイにジジイと言われたくないわ!!」
「ジジイにジジイと言って何が悪いッ!!」
「なんじゃとおおお!? ジジイめがあああ!!」
「おのれぃ、クソジジイめがッ!!」
「なんだとッ!? 言うに事欠いてジジイとは何事だッ!!」
「「うるさい! クソジジイ!!」」
「あーもー! どっちもジジイでいいわ! 見ろ、どっちが何を言っているか皆さんも困惑しているぞ!?」
流は呆れたように二人に話す。背後を見ればセリア達は苦笑いを浮かべ、エルヴィスとイルミスは互いに肩を上下にうごかし呆れをあらわす。
だが呆れているのは、『もっと大勢のみなさん』の気配がする……不思議だ。
「それで爺さん。あぁ、エルヴィスの爺さんのほうね。ここに用事が?」
「まぁな。このジジイ。見たままの死にぞこないのクソジジイだが、口だけは硬い。そして腕も二流だが、作る剣は最低名品以上のしか出来ない不器用者じゃ」
「やかましいわ死にぞこないが! いいか小僧、こんな死にぞこないなんぞの言う事よりいい事を教えてやる。まず剣ってのはなぁ………………そうか、分かった付いてこい」
樽のような体つきの男は悲恋美琴に気がつく。目を見開き驚き、リッジを一睨みした後店の奥へと案内するのだった。
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