388:大祭級・覚醒への道~竹
「ねぇ……貴方達。これからも、わたくしと共に楽しんでくれるかしら?」
「……は……い」
「ぅん……」
「よろ……こん……で」
「自我は統一されてしまうけど、それでもよくて?」
死んだ瞳で頷く十名。どう見てもゾンビが、中途半端に意識があるような存在がそこにいた。
イルミスはそれを見て、「わかったわ」と一つ頷くと、流に向けて話す。
「ねぇ流。わたくしは正式に、貴方のものになった訳じゃないですわ。でも一つお願いがありますわ」
「ん~配下になるってんならお断りだが? それ以外ならまぁ、内容次第でいいぜ?」
「ふふ、本当に用心深くて嫌ですわ。別に難しいことじゃありませんですわ。ただ一人じゃ不安でしょう? だから力をかしてほしいのですわ」
そうイルミスは言うと、流の左手を取る。そのまま亡者に向き合うと、自然にその名を口にする。
スラスラと、何の迷いもなく次々と名を与える。そして願うように呪文を唱えると、その後「パラダイス・シフト」と強く願い使う。
瞬間、流の体が白く発光したかと思えば、不思議な力が流の手から自分の体へと伝わる。
さらにそれが亡者たちへと別の力に変わり、ながれて行くのをイルミスは感じた。
(やっぱり……。そう、千石様が言っていた事。これがそうなのね……)
イルミスは目の前の亡者が、劇的変化を遂げるのを懐かしいものを見るように見つめる。
それは過去、イルミスが愛した者たち――。
「おかえりなさい……みんな。また会えるとは思わなかったわ」
「――っっ。って、え? イルミス? え、なんかお前白くなってね?」
「イルミスちゃん!? え? どうして……ここは一体なに?」
「のっす……ええ? どこん?」
「もぅ……本当に……何もかもあのまま……」
イルミスは赤い瞳からとめどなく涙をながす。それは失われた過去が蘇った奇跡に。そして、それをもたらした流に感謝を込めて。
「ちょ、ちょっと待てイルミス。今すっごい俺の中から、ゴッソリと力を抜かれたぞ!? 何をしたんだ?」
「半信半疑でしたが、貴方の力を分けてもらいました。それで彼らを復活させたのです」
「ちょっと待て! そんな簡単に死者が蘇るものなのか?」
「ええ、それは違いますわ。なぜなら……」
イルミスは備前長船を目の前の、巨漢の男へ向けて備前長船を一閃する。
すると巨漢の男は、「ぶべッ」と空気の抜けたような悲鳴をあげ、そのまま倒れる。
「お、おい。お前一体何をしているんだッ!? 復活させてから殺すとか、意味が分からんぞ!」
「まぁそう言わず、見ていてほしいですわ」
イルミスの行動に驚く一同は、斬られた巨漢の男を見る。
すると何事も無かったかのように起き上がると、イルミスへと向けて怒鳴りだす。
「イルミスぅ! おまえなにすんだよー!? ってあれ? 痛くねぇ?」
「そう言うわけですわ。彼らは蘇ってもいなければ、生きてもいない。言うなれば魂のみを、あの体に降ろしたと思ってほしいですわ」
「そんな事が可能なのか……」
「可能ですわ。わたくしならね」
「そ、それにアイツラ。あのゾンビの中の人はどうした?」
「人格が二つありますが、今表に出ている者に統合されていますわ。むろん自然に違和感なく」
「何でもありだな……」
(ただ、こんな何も用意しない状態。しかも大祭級の魔法すら使わず、やり遂げる事などありえませんわ。流、貴方本当に一体……)
魂を擬似的に降ろす。それを受け入れるほどの器。しかも狙った魂を確実に降ろした現実に、イルミスは身震いする。
こんなものは通常行うとしたら大祭級の大魔法か、それに類する儀式でも無い限り不可能なのだから。
さらに魔法や儀式に成功したとしても、結果がほとんどが失敗が多いこの魔法。それが狙ったものと違くなるのは、当然とも言えるだろう。
だが今現実に起こったこと。それは十人とも、イルミスが願った相手。過去にイルミスと共に戦った、勇猛な戦士たちがここにいたのだから。
「あぁぁ~なんだこれ……すっごく疲れたんだが……」
「あ、ナガレ大丈夫? もぅ、イルミス伯爵。手加減してくださいよね?」
セリアが倒れるように座り込む流の背後に回ると、その背中を支える。そしてアイテムバッグから水筒を取り出すと、流へと渡す。
それを美味しそうに飲む流を見ながら、過去の戦士達はイルミスへと問う。
「おいイルミス。まさか俺たち復活したのか?」
「ええ。魂だけね。肉体はわたくしに協力してくれてる、ありがたい人達のだからお礼を言ってね?」
「わ、わかった。って言うか……うっそだろ……お前その姿、ヴァンパイアか!?」
「ええ、貴方達が逝ってから色々あってね」
しばらくイルミスはその説明をしているあいだ、流は美琴と話す。それは今回の疑問についてだ。
「なぁ美琴。俺の名付けはそんなにヤバいのか? それに今回、俺は直接なにもしてないが、一体なんだこりゃ?」
『……うん。それはね、流様がどこぞの神に選ばれたからだよ。あはは……』
「? そう言うもんかねぇ? まぁいいが。ったく、イルミスのやつ。やるならやると言ってくれよなぁ。思いっきり疲れたぞ」
――その頃、悲恋の中にある城内にある一室で、このやり取りを見ている者たちがいた。
『向日葵。うまく仕向けたようだが、大殿は大丈夫なのか?』
『ふぇ~三左衛門様、大丈夫ですよ~。これでまた覚醒に一歩近づいたと思いますねぇ。ほら、右手の印に変化があります』
『……竹が染まり始めておるのか?』
見れば流の印を囲むようにある竹の模様。それが色づき始めていた。
その様子が今後どのように変化するのか、ここにいる全員予測不能。ただ……。
『大殿様は確実に狂っています。そう、私達がこうなった原因も、彼にあるのですから』
向日葵の言葉に一同は頷く。そして流の未来に不安を感じながらも、期待を込めて見つめるのだった。




