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384:農夫

「美琴頼む!!」

『出来ているよ、使って!!』


 美琴から負の紫の妖力をもらった流は、自分の練った邪気の無い、言うなれば正の白い妖力と混ぜ合わせる。

 白紫のになった一つの妖気は、悲恋の刀身部分にある刃紋に集約すると、そのまま業を放つ。


「喰らえッ!! ジジイ流・薙払術(ていふつじゅつ)! 岩斬破砕(がんざんはさい)【極】!!」

「なんだそりゃああああ!?」


 黒土はただでさえ大きな瞳を、さらに開きデカイ口で叫ぶ。白紫の妖気を纏った斬撃は、空中に四つの亀裂をいれるように進み、黒土に当たる直前で一つになる。


「下がお留守でしてよ? 古廻流・薙払術! 岩斬破砕!!」

「なんッ!?」


 さらにイルミスが姿勢を低くして突っ込んで来る。そして同じく岩斬破砕を、黒土のアゴめがけて放つ。

 流が放った岩斬破砕は黒土の額へ。イルミスの放った岩斬破砕はアゴの中心へと着斬する。

 

 黒土は慢心していた。「そんな攻撃如きで、自分の装甲が貫かれない」と。

 事実それは当っていた。なぜなら――。


「ッゥ!? 驚かせるんじゃねぇ!! 何ともねぇぢゃあねぇかよッ!! 今度はこっちの番だぜ、豪腕ッ――なああああああ!?」


 黒土が無事をアピールするため、両手を勢いよく広げた時だった。

 突如、顔面中心部に亀裂が入り、それが細かいヒビとなって広がって行く。

 やがてヒビが顔面の右下まで来ると、その部分が〝ガッゴ〟と言う硬質な音と共に剥離する。


「ぐがあああああ!? 俺の顔ガアアアアアアアッ!!」


 泣き叫ぶように咆哮を上げる黒土。その落ちた顔面のかけらは黒い瘴気のような、淀んだ空気が流れ出る。

 黒土に攻撃を仕掛けた二人。流とイルミスは、黒土から五メートルほど離れそれを見ていた。


「……おかしい。今ごろ爆散しているはずだぞ」

「ええ、貴方と私の同時攻撃。しかも岩斬破砕ですわ。爆散しててもいいはず……ッ!? 流、今すぐ!」

「ああ、了解!!」


 イルミスの焦りに呼応する流。それは黒土が、地面へと潜ろうとしていたからだ。

 二人揃って連斬を放つ姿勢になる。そして――!!


「「――肆式・四連斬!!」」


 崩壊間際の顔へ向け、まだ見える額へと一点集中型であり、当たれば掘削機のような強烈な振動を起こす連斬。ダメ押しの肆式を放つ。

 真っ直ぐに伸びる連斬、計八本の斬撃が一つになり、黒土の額へ吸い込まれる刹那それは起こる。


「ちょおおおおまてえええええええええ……エェッ!?」

「――何すてる黒土。おめ、死にてぇだか?」


 突如、小さな黒い影が黒土の前に現れ、連斬を弾き返す。

 見れば農民のような姿の少女がそこにいた。年は十五歳にとどくかどうかであり、金髪を手ぬぐいのような物を被って纏めている。見た目は子供そのものであり、寸胴である。 


 顔立ちもどこにでもいそうな、これと言った特徴は無いが、顔はドロで薄汚れ、今農作業をしていたような姿であった。

 その娘が〝手に持ったクワ〟で、流とイルミスの攻撃を完全に防ぎきったのだ。

 

 流とイルミスはゾクリと背筋に嫌なものを感じ、背後へと飛び退く。

 直後、農民の娘はクワを地面へと〝サクリ〟と入れると、地面が波打つように盛り上がる。

 それが波のようになると、二人へと向けて襲ってきた。


「流! 空中に足場は出来て?」

「無理だ、俺は魔法が使えない!」

「なら一点突破ですわ!」

「了解だ。豚王と戦った時、これと似たような状況をクリアした事がある」


 二人は曲芸のように高速納刀すると、腰をかがめ抜刀術の体制に入る。

 ただいつもと違い、左肩へと鞘ごと担ぐように構える。


「俺に合わせてくれ。鑑定眼――よし、ジジイ流・抜刀術! 共鳴裂波斬!!」


 イルミスも流の動きに合わせ、左肩に担いだ鞘から備前長船を高速抜刀する。

 まるで弓から放たれた、ニ本の(やじり)のように進む斬撃は、やがて一つになる。

 

 ――共鳴裂波斬。

 この業は一人では出来ず、同程度の使い手が二人そろって初めて撃てる技である。

 斬撃の威力は通常の抜刀術の最低二倍。業を放った使い手同士の連携がうまく行くほど、その威力は跳ね上がる。


 その斬撃は、二つ重なることで共鳴し、互いを高速振動しながらその威力を増す。

 やがて高速振動が完全に同期すれば、その威力は青天井だと言われる程の難しい業だ。

 歴代の鍵鈴の者たちも、完全に使いこなした者はいないと言う――が。



 流が放った共鳴裂波斬に追従する、もう一つの共鳴裂波斬。

 斬撃が重なった瞬間、空気を震わす〝ヴォン〟と言う、一瞬鼓膜が痛いような音が周囲に広がる。

 

 迫る土波、瞬間的に高さが五メートルほどになり襲いかかる。

 その中に大きな岩が混じっており、そこに向けて鋭い鏃のような斬撃が着斬する刹那、十文に斬撃が変形した。

 十字の斬撃は、そのまま大きな岩へと吸い込まると、それを起点に土波を吹き飛ばすのだった。

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