382:千石の死因
「お取り込みの最中申し訳ありませんがねぇ、え~っと二人は恋人?」
「ちがいますわ!!」「そう見えるか!!」
「まぁ~どっちでもいいんだけど……イルミス、そいつは俺の敵か?」
「ええそう。コイツは裏切り者で、わたくしの怨敵ですわ」
瞬間妖人となる流。そのまま黒土と呼ばれた、黒くブサイクな顔の化け物に、流は膨大な妖気を叩きつける。
「グアアアア!? な、なんだテメェ! その化け物じみた妖気はよぅ?」
「敵か。なら容赦は出来ないねぇ。イルミスの敵は俺の敵でもある」
「流、貴方……」
イルミスは流の後ろ姿を見て、過去の光景を思い出す。そう、あれはよく見た、千石が自分のために怒ってくれる光景だったのだから。
「チッ、不愉快な妖気だぜぇ。まるでアイツみてぇじゃねぇか……」
「おい、ブサ顔。お前『妖気』をなぜ知っている? この世界では無いはずだ、そうだなイルミス?」
「ええそう。この世界には無いものよ。そして黒土が知っている理由……それは」
「ガハハハ! そうかい、お前『日ノ本』から来たのか? どうりであのクソマヌケの香りがしたと思ったぜぇ」
「――三連斬ッ!!」
流は黒土が話し終えるかどうかのタイミングで、いきなり三連斬を放つ。
それは悪党も真っ青なタイミングで。だから当然こうなる。
「あばばばばッ!? て、テメェなんて事しやがる!! おかげで俺のチャ~ミングなお顔に傷がついたぞ!!」
「ナイスですわ流! でも本当に敵には容赦しない人ですわね」
『エエ。流様デスカラ』
「身を持って実感しているわ」
「今実感した。悪党も真っ青だな」
「キミタチ。俺が酷いやつみたいな言い方、やめたまへ」
「「『どの口が言う!?』」」
「ヒドイ奴らだ……まぁいい。で、黒土。よく分からんが、イルミスの怨敵であり、裏切り者であり、千石の敵だったんだろ?」
「それがど~したよ? あぁそうさ。俺はあのマヌケを利用することで、人形からステキな体を貰えたわけだ」
黒土はそう言うと、ブサ顔から手を生やして顔面をペチペチと叩く。
その後「よっこらしょッ」と声を上げると、顔の下から筋肉質な足が生えてきた。
立ち上がる黒土は、アンバランスな体型だ。モアイのような顔面に、筋肉質な手と足が付いていて、それが顔面に対して凄く短い。
身長は三メートル半ほど、横はニメートルほどで、歩くと少し頭が左右に揺れるのが鬱陶しい。
(デカイな。それに三連斬がほぼ効いてないのか? 傷は修復はしていないようだが、面倒なタイプかもな)
流は黒土を見てそう感じる。先程軽くとはいえ、それなりの三連斬だったワケだが、あまり効いている感じではない。
さらに立ち上がると、意外に大きい。勝てない相手ではないだろうが、防御に優れた体に見える。
「黒土……やはりゆるせないですわね。この村が滅んだのは、キサマが元凶か?」
「半分当たりで、半分ハズレだ。ここは人形が仕込んだ『呪い』で汚染されている。知っているだろう? 千石がお前と会う前に致命傷となった、呪われた場所がココだ。そのトラップを仕込んでた場所だ」
「そう……そう言う事だったのね」
イルミスは黒土の言葉で、聞いた過去の苦々しい記憶を思いだす。
あれは千石が満身創痍でこの地を撤退していた時に、この村に襲いかかる魔物を討伐した時から始まった。
逃げ惑う村人。それを襲う理性を失った魔物の群れ。
体は限界だったが、千石はそれを見るなり備前長船を抜刀し斬り込む。
その甲斐があり、村人たちの命は救われた、が……。
お礼を言う村人に囲まれた千石は、疲労と怪我から油断する。それは村人そのものが、すでに人形の汚染を受けており、呪術式そのものだった。
助けたはずの村人に囲まれ、その身を供物とし燃え盛る村人の、強力な呪詛で傷の癒えぬ呪いを受けた千石。
なんとか即死は耐え抜くものの、村の中から脱出時にさらに呪いを受けてしまう。
それは丁度この場所。大樹があったここで、村の子供が生贄にされるのを目撃した千石は、迷わずそれを救出。
だがそれも罠であり、助けた子供は千石が抱く腕の中で砕け散り、消えぬ裂傷の呪いを受ける。
その二つの強力な呪いにより、千石の命は徐々に消え落ちると言うのが、彼の敗北の理由だった。
「それで俺は千石ほどの強者が、悪意を察知出来ずにハマる、この大樹に注目した。さらに悪意を隠蔽する力がある、この土地に目をつけたワケだ」
「つまり人形が汚染した土地を、キサマが再利用して呪いをかけ続けていたと?」
「そうだともイルミス。お前に対する俺の愛を拒み続けたお礼だ。だからちょっとした意趣返しと、未だ癒えぬ千石に付けられた傷を回復してたのさ。マヌケな村人の死によってなぁ」
そう言うと黒土は堪えるように笑い出す。だがやがて我慢が出来なくなったのか、豪快に爆笑するとイルミスへと話す。
「ギャハハハ~はぁ~笑った。でよぅ? 俺のモノになる準備は出来たかよぅ?」
黒土は汚い顔を歪め、嫌らしく嗤う。そして目の前に右手を出すと、イルミスへと差し出すのだった。




