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381:真の敵

「クッ、この人でなしッ!!」


 女は地面の砂を流へとぶつける。その砂がかかるのが嫌だった流は、左に避けた瞬間、女は行動を起こす。

 肩に刺さった妖気で出来たクナイを抜くと、それを手に流へと襲いかかる。

 突然の事に流も驚いたのか、口を大きくあけ驚いている。

 

「馬鹿めッ!! 油断したのが悪いのよ!!」

「ナンダトオオオオオ」


 間抜けな叫びをあげ、流は迫るクナイをその腹に迎い入れる。〝ドン〟とした鈍い感覚が女の手に伝わり、流も苦しげに唸る。


「馬鹿にするからこうなるのよ!!」

『馬鹿にしすぎるからこうなるのです』

「へ……なん……で?」


 女は刺したと思った流が無傷であり、逆に自分の腹にクナイが突き刺さる痛みに気がつく。


「馬鹿かお前。それ、俺の妖気で作ったクナイだぞ? 消すも出すも自由自在だ」

「ぐッ……ガッハッ……本当に酷い人……だからこそ好きよ、流」


 そう女は言いながら、口から血をボタボタと落としながら一言呟く。


「――パラダイス・シフト」


 瞬間、村に響く悲鳴は消え失せ、炎も盗賊も消え去る。分かってはいたが、その異常さに思わず息を呑む。

 刺された女も特徴のない村娘から、先程まで見たナツカシイ顔に戻っていた。そう、イルミスに。


「ハァ~、やっぱりお前だったかイルミス。それで、これは一体どういう事だ?」

「その前に、よく気が付きましたわね? 違和感は無いはずですわ」

「何言ってやがる。違和感の塊だったぞ? まず入り口の商店に使われた形跡がない。お前の所から来て最初の店だ。普通は一番に開く好立地の場所だ」

「なるほど。他には?」

「他にもまだあるが、まぁ決めては馬車の車輪跡だな」

「……そういう事でしたの」


 イルミスはその意味を理解する。通常馬車が入れば車輪の後が「続く」はずだ。

 この村が滅んだとは言え、そこを通過する馬車は今でもいる。

 しかしこの村に入った馬車の車輪の後は、「ズレていた」と言うこと。つまり、村の空間自体がズレていると言うことだった。


「と、言うわけだ。まぁ、俺は何かおかしいと思っただけで、それがよく分からなかったが、エルヴィスが的確に見破ってな。流石プロの商人と言ったところか」

「チッ、困った殿方ですわねぇホント。ええ、その通りですわ。パラダイス・シフトで過去にあった、わたくしの思い出を再現したのですわ」

「そういう事も出来るのか……。それでなぜこんな事を?」

「もぅ、知っているくせにぃ。わたしくしを置いて逃げるから、ちょっとしたお仕置きですわ」

「デスヨネ。はぁ~やっぱりこうなったか……」


 流はこうなる事を予想して、イルミスの屋敷から逃げ出したのだった。

 Lでお腹いっぱいなところに、これ以上面倒な仲間が増えると、どこかのお嬢様がたのジト目が痛いからと言う理由でもあったが。


「お前。俺たちに難癖つけて、屋敷に軟禁するつもりだったろ?」

「さてさて、なんの事かさっぱり分かりませんわね。ふふふ」

「しかもお前、俺を襲う気だったろ? 今度こそ俺に噛みつこうとしたろ!?」


 イルミスはそれに答えず、実に良い笑顔で微笑む。キバを見せて。

 流はその白く光るキバに背筋を震わせ、戦闘中の事を思い出す。

 接近戦の隙を狙い、イルミスは何度も流の首筋を噛もうとしていたのだから。


「うぅ。やっぱり襲う気だったなお前……」

「まぁ嫌ですわ。まるでわたくしが、下品な女みたいな言い方は関心しませんわ」

「お前が上品なら、世界中の娘が社交界のダンスを踊れるだろうよ。で、過去の映像を具現化したんだろ? するとこれが、先日あった村が滅んだ原因か?」

「いえ違いますわ。過去……三百年前にあった出来事ですわ。この村は幾度も滅んでいますの。ただウチと王都との中間で、立地も良いので何度も蘇るんですけど、色々な理由でその都度滅ぶ呪われた土地ですわ」

「呪われた土地ねぇ……」


 流は先程斬り倒した巨木を見る。そして切り株の中央へ行くと、おもむろに中心に悲恋を突き立てる。

 そして美琴へと語りかけると、妖力を譲渡してもらう。さらに自分の妖力と混ぜ合わせ、思い切り悲恋より切り株へ注ぐ。


 次の瞬間、切り株が「ギャアアアア!?」と、木とは思えない叫び声を上げたかと思うと、その切り株が徐々に黒ずんでくる。

 直径三メートルほどの切り株が徐々に盛り上がってくると、デカイ顔のようになり、やがて巨大な顔だけの化け物になる。

 その見た目はイースター島のモアイを、醜悪に歪めたような顔つきで、顔中に吹き出物のような物が出来ていた。


「うへぇ。気持ち悪いなぁ……」

『やだぁ!? あんなの斬らないでくださいよ?』


 流と美琴は心底嫌そうに、吐き捨てるようにデカイ顔に悪態をつく。しかしイルミスは驚きの表情を浮かべた。


「ったく、だ~れだよ~。俺がきもちよ~く負の感情でリラックスしてたつーのに?」

「ッ!? キサマは黒土!! どうしてこんな所にいるッ!?」

「あ~ん? …………お、おお!! イルミスじゃね~かよ。久しいなぁ。どうだ俺のモノになる決心はついたんかよ?」

「誰がキサマのような汚物のモノになる!!」

「ったく、つれねぇなぁ~。いいかイルミス。お前は俺のモノだって数百年前から決まってるんだ。おとなしく俺のものになっとけや? アン?」


 どうやら知り合いのような二人の会話。だがどう見ても友好的ではなさそうだった。


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