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379:傘やさんの謹製品?

 セリアがゾンビもどきと戦っていた頃、流は氷狐王の頭の上に立ち、燃え盛る村を見下ろしていた。

 元々壁も無く、柵すら壊れかけの木造主体の古い村だったが、村人が誰も逃げ出してこない。


「……やっぱり変だ」

『先程からどうしたの?』

「私には特におかしい感じには見えないが……まぁ、滅んだ村が復活している時点で変だがな」


 美琴とエルヴィスは、この違和感に気がついていないようだ。流もこれがそうだと確証的なことは言えず、何となくと言う感じであったが説明をする。


「そうだな。分かりやすくその感覚を言うと、『嘘』と言った感じか」

「嘘? 幻術という事か?」

『う~ん、そうは見えないけどなぁ。だってここに来た時、逃げている人が斬られた瞬間を見たよ?』

「それだ、その斬られたヤツは今どこだ?」

『「え?」』


 そう言われて、二人は盗賊に斬られた遺体を探す。……無い。そう、どこにも遺体がないのだ。

 

『本当だね……どこに行っちゃったのかな?』

「た、確かになくなっている。だが実は死んでなく、村の中へ引き返したのでは?」

「その可能性はある。が、普通は村から少しでも離れるだろう? 賊から逃げたいと本能的に思うはずだ。それが斬られたヤツはおろか、誰も逃げ出さない」

「…………冷静さをかいてすまなかった。確かにお前の言うとおりだ。私も違和感を見つけたぞ。まず人の営みとしての機能がない。見ろ、あそこを」


 エルヴィスが指をさした場所。そこは商店であった場所だが、使われた形跡がない。

 さらにエルヴィスは数箇所指をさす。井戸・家の扉。そして……。


「あ~なるほど。そう言う事かい。流石はエルヴィス。いや、当然と言うべきかな?」

「お褒めに預かり恐悦至極」

「「ハハハハハ」」

『なに茶番をしているんです。ハァ~、ほら姫が苦戦しているよ?』

「苦戦に入らないだろう? だがおかげで敵も見えてきた。どれ、じゃあ行きますか~。問題ないと思うが、気をつけろよエルヴィス」

「ああ。氷狐王様に守ってもらうさ。お前も気をつけてな?」

「ありがとよ。んじゃ……流いきまーーーっす!!」


 そう言うと流は氷狐王の頭を思いっきり蹴って村の中へと消えていく。直後に炎が吹き上がって、流の体が見えなくなるまで見ていたエルヴィスは、ため息一つ。


「ふぅ。ここまでしますか……それにしても凄まじいものだ」

「主は心配無いが、エルヴィス。お前はこの状況が分かるのか?」

「ええ氷狐王様。案外すんなりと行くかもしれませんよ」


 エルヴィスはそう言うが、続けて「いや、問題はその後か」と額に汗を浮かべた。

 氷狐王はそんなエルヴィスを不思議に思いながらも、燃える村が以外にも頑丈なのだと不思議におもうのだった。



 ◇◇◇



 セリアたちがいる方角よりさらに北側。その屋根伝いに流は村の中央へと向かう。

 村とは言え意外と広く、公園のような場所もありそこで虐殺が行われていた。

 そんな状況を流は一瞥(いちべつ)すると、近くの屋根に乗り移り先を目指す。

 燃える屋根。器用にその場所をすり抜け、さらに進むと町の中心が見えてきた。


「へぇ、ボスまでいるのかい」


 町の中心部。それは小さな市場に囲まれた、三十メートル四方の広場の中央に、大きな木が生えている場所だ。

 その根本に人影が十一人。殺盗団のような、いかにも盗賊と言った風体の男たちの中に、一人だけデカイ男がいる。

 だがその大きさが普通じゃない。身長にして三メートル半くらいあり、横幅も二メートルはありそうだ。

 そんな巨漢のデブは、スキンヘッドだったがどうも様子がおかしい。


「死人……いや違うな。三左衛門、あれをどう思う?」

『ハッハッハ! 初めて見るタイプのものですなぁ。呪法の痕跡も感じられませんな。向日葵どう思う?』

『ふぇ~。夜くらい寝かせてくださいよぅ、ぶぅ~』

「お前は昼も寝てるだろう。それで?」

『え~っとですねぇ、アレですよアレ。え~っと、ほら。歩く死体ですよ。紅白の傘屋さんが作ってる謹製品です』

「ナイス・陳腐! つまりゾンビか?」

『そうです、やっぱり大殿は物分りが良い。じゃあ、その理解力完璧って事で私ねまーす。ふぇ~』

「ねるなー! って……おい」

『あぁ向日葵ちゃん。寝るならお布団で寝て、風邪引くよ』

「もう寝たのか!? つか、お前ら風邪引くのかよ……意味分からん」

『ハッハッハ! 申し訳ございませぬな、後でゲンコツをくれてやりますわい。すると西洋式死人と言ったところですかな? かなり劣化版ではあるようですがな』


 流は頷くと、鑑定眼を発動させる。すると、中央の木付近から村中へと伸びる、蜘蛛の巣のような光。

 

「あぁ~そういう事ねぇ」

『流様、分かったの?』

「まぁ予想通りで帰りたくなってきたわ」

『でもそうは言っても、あの子が殺されちゃうよ?』

「だねぇ~」


 木に逆さに吊るされた若い娘。その娘をいたぶる盗賊に、流は哀れみの視線を向ける。

 泣き叫ぶ娘と目があってしまった流は、思わず「うへぇ」と漏らす。


『助けてあげないの?』

「別にいいだろ。と、言いたい所だが、どうもあのボスを倒さないと、この異常な状況は終わらないらしい。やれやれだが、朝飯前の軽い運動ってヤツをしましょうかね」

『そう来なくっちゃね!!』


 流は悲恋を抜刀すると、肩に担ぐ。そして疲れたように肩を数度叩くと、高く飛び上がり、盗賊共へと斬りかかるのだった。

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