375:続・晩餐会
「なるほど。状況はかなり深刻なようだな……それでイルミス。お前は俺の事を、どの程度まで知っているんだ?」
円卓にはすでに豪華な料理が並んでおり、金翼鳥と言う骨付き鳥のモモ肉を豪快にかじる。
ムッチリとした肉質からは想像できないほど、肉汁があふれる薄ピンク色の肉塊。
あふれる肉汁は、まるで上質なスープも同時に飲んでいるかのような幸福感があり、旨味が頬を緩ませる。
そんな料理の味を堪能しながらも、流はイルミスから色々説明を受ける。
その中から聞いた、ここまでの疑問を口にする。
「そうですわね。色々と知ってはいますけれど……千石様からの遺言で、それは今は伝えるべきではないと思いますわ」
「ふむ。さっきの話からすると、つまり俺がその情報を元に行動し、暴走しかねないと?」
「ええそうですわ。あの人形……『狂った座敷わらし』は、そういう不安定な所に付け入るのが本当に上手なのですわ……いやらしいほどにね」
イルミスは美しい顔を憤怒に染める。まるで今見ているかのように、過去を思い出しながら。
それにゾっとしたエルヴィスは、流へと話をふる。
「ナ、ナガレ。予想以上の事態のようだな。私もここまでの事だとは思わなかったが」
「俺もこの世界に来たときは、こんな事になるなんて思わなかったさ。ただ色々と知ったからなぁ。人間までやめることになったし。まぁ進むしかねぇよ」
「そうだな……なら私もこれまでより、さらに気を引き締めて行くとしよう。イルミス伯爵、うちの祖父の話を最近聞いていますか?」
「いえ。貴方のお爺様の噂はとんと……。ただ、以前からあの山荘に籠もりきりで、誰ともお会いにならないとは聞いていますわ」
「そうですか……」
残念そうなエルヴィスの顔を見ていた流は、その理由をたずねる。どうも色々あるようだ。
「なぁエルヴィス。お前の家族は色々と訳アリなようだが、爺さんはお前の味方なんだろう?」
「そうだ、そのはずだ。だが最近の情勢と、父と姉の事。そしてもう一人問題児がいる。それらの事で意固地になって、私の話を聞いてくれるかどうか……」
「もう一人? 初耳だぞ?」
「ああ、アイツは商才が無いんだ。それでアルマーク商会の関係者からは外していたのさ。だから王都の全寮制の魔法学院へと通わせていたが、ある時脱走したらしくてな」
「なんでまたそんな事を?」
エルヴィスは天井を見上げ、長く嘆息をする。そのあと首を数度ふり流へと向くと、その理由を話す。
「あいつは本当に血気盛んでな。『ボクの方が兄さんより上手く稼げる!』と言って、店の商品を盗み行商へと出たのさ。その後に私が旅先で聞いた話では、騙されて商品を巻き上げられ、系列店へと泣きついてきたらしい」
「そいつは困った坊やだな」
「まったくだ。魔法の才能はあるくせに、商売をしたがるから困っているのさ。最後はトエトリーの方面へと向かったと聞き、あいつを探しがてら来たわけだが、あとは流の知っての通りさ」
流はその話を聞くと、エルヴィスにとってそちらが優先だと思える。だから提案するが。
「おい、そう言う訳があるなら、トエトリーへと行ってくれよ。護衛はイルミスに頼んでさ、冒険者の腕利きを頼めばいい」
「ありがとう、その気持だけで十分だ。アイツも自分の命を賭けて、商売へと出た身。行商と言う行為は、常に死と隣り合わせだと言うことくらいは理解している」
「そうかい。なら止めないが……」
「それに今は身内も大事だが、国の存亡に関わっている事態だろ? それに深くウチが関わっている。なおさらこのままには出来ない。そうだろ?」
エルヴィスの本気の問に、流も真顔で頷く。そして今後の予定を決める。
「分かった。そういう事なら今後も頼む。俺はこの世界の事は、まったくのド素人も同然だから、お前のようなヤリ手の商人が付いてきてくれれば心強い」
「もちろんだ。そして私もこれ以上、父の悪行を見逃すわけにはいかないからな」
お互い頷くと、流はイルミスへ顔を向ける。なぜか白い頬が朱色に染まっているのが不気味だ。
「それでイルミス。明日ここをたち、王都へと向かうんだが、お前は何か分かったら教えてくれよ」
「……ええ、分かりましたわ。それでは今宵はゆっくりとお寛ぎあそばせ」
その後イルミスと少し話をし、早めに就寝する。そして深夜――。
「おい、おい。お前たち起きろ。そろそろ逃げるぞ?」
「なんじゃぁ……本当に行くのか小僧?」
「まぁそんな気はしてたから、用意はしてたけどね」
流はルーセントとエルヴィスを起こす。しこたま酒を呑んだルーセントは面倒そうに起き、エルヴィスはすでに準備を整えていたようだ。
「まったく、爺様はセリア以外の事に関しては適当すぎだろう」
「アホウ。誰がキサマの爺様じゃ。んじゃ行くとするかのぅ」
「噂をすればなんとやら。丁度セリア様も来たようですね」
エルヴィスがドアの方へ視線を向けると、硬質な黒い木のドアがノックされた。
軽くノックをしたのだが、深夜だけあって室内へと音がよく響く。
「ナガレお待たせ、Lと一緒に来たわよ。それにしても本当に行くのね?」
「ああ、俺の亡霊が囁くのさ……このままではマズイってな?」
『そういうのは電脳を埋め込んでから言うと、実に説得力あるんですがね?』
「骨董品級のゴーストに言われると、とっても複雑な感じ」
『ウルサイデスヨ。はぁ、それで本当に襲って来るんですか?』
「来る、きっと来る……」
流は己の両肩を抱くと、ひとつ身震いする。何やら直感めいた何かが発動したようで、それに備えて行動を起こすのだった。
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