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372:重なる言葉

「あぁ、すまないイルミス。千石の血が俺の中で暴れるように、馴染む感覚に戸惑っていた。それで千石は俺を試せと、その玉に思いをのせたのか?」

「ええそうですわ。千石様はわたくしと話す時間が無く、玉へと色々な事を詰めて逝かれました。その中にあった一つで、貴方と戦い見定めろ。と、言うものですわ」

「もし負けてたら?」

「その時はこれ以上進むことを諦めさせるのが、わたくしの役目ですわ。行っても確実に死ぬだけでしょうから」


 流は無言で頷くと、イルミスへと質問を続ける。


「それで時空神から、千石はこの後どうなると聞いていたんだ?」

「何も……何も聞かされていませんわね」

「やはりな。俺も美琴の過去へ行った時、時空神と『(ことわり)』を介して、その存在とあったが、何も言ってはいなかった。むしろ俺の未来は、不確定すぎるのだと言う感じだったな」

「ええ、そうですわ。だからこそ貴方が、わたくしをモノに出来るかどうか。その試練でもあったのですわ」


 流はそれに不思議そうにたずねる。イルミスは所々、伏せながら話をしていた。

 真名と呼ばれる部分。そして千石への思いも、ただ大事な人だと強く言っていたが、それもなにか違うと感じる内容であった。


「それだ。さっきの話では伏せていた(・・・・・・・・)が、イルミスの真名を俺に明かせば、俺に仕えると言うやつだ」

「ええ。ですから、ここで今明かします。わたくしの真名は――」


 流は右手を出し、その話を途中で遮る。

 イルミスはその行動に驚くも、笑みを強め先を待つ。


「従者とか家臣とかは、そこの変態娘一人で十分だ」

『大殿! わしらもおりますぞ!! ハッハッハ!!』

『うるさいですよ、三左衛門!! 流様がお話しているのですから、静かになさい!!』

『忍者。そう、本物の忍者もおりますれば!!』

『あたしもいますよ!! ふぇ~眠い……』

『才蔵も向日葵ちゃんも、おとなしくしていなさい。ハウスですよ。ハウス!!』

「おまえが一番うるさいぞ、美琴さんや」

『あぅ~』


 そんなやり取りを見て、イルミスの心は暖かくなる。それは昔見た光景を彷彿とさせるようで、また……。


「ふふふ……アハハハハ!! いい、凄くいいですわぁ~。わたくし、決めましたわ。やはり貴方のモノになりますわ」

「だ~か~らぁ……あぁ、そんな期待を込めた目で見るなよ。お前はそんな昔にとらわれず、自由に生きろ」


 イルミスはその言葉で過去を思い出し、涙をながす。だが違う意味で泣かれたと思った流はドキリと驚く。

 あまりにも泣き止まず、流石にマズイと思ったのか、オロオロと狼狽しているのがおかしかった。

 敵と思えるやつには、問答無用で刀を突き刺すような男の、この姿は本当に面白い。

 そう思うと、色々な感情がこみ上げ、さらに涙が溢れる。


(あぁ……あの時もこんなんだったっけ……千石様。綾は……)


『あぁ泣かせた……流様は女心が壊滅的に分からないからなぁ』

「美琴の言う通りよ。本当よねぇ、ある意味女の敵だわね」

『セリアちゃんもそう思うでしょ? 骨董系鈍感王は本当に困った人だよ』

『姫、セリア嬢。あれです、大殿は真の敵。裏ボスです!!』

『「たしかに~」』

「お前達、背後から俺を狙い撃つのはよせ!! ど、どうすりゃいいんだ!? イルミス、いや、ほら、あれだ。その、おお! 名案がッ!!」


 流はイルミスへと近づくと、右手を伸ばし腰をかがめる。

 そのままイルミスの右手を持つと、はにかみ恥ずかしそうに頭部をかきながら、口を開く。


「あの、よ……」


 一瞬言いよどむが、続けて言葉をつなぐ。


「「俺と友達になってくれよ」」


 自分の言葉が二度聞こえる。不思議な感覚に戸惑うが、それを言った人物が目の前にいる。そう、イルミスだった。

 イルミスは涙を頬からつたわせ、両手で流の手をにぎると、大きく頷く。


「ええ、よろここんで、貴方の友人になりますわ。これからもヨロシクね、流」

「イルミスお前、なぜ俺の言うことが……」

「さぁ? なんとなくそう言う気がしただけですわ」


 イルミスはそういたずらっ子のように言うと、妖艶に微笑む。並の男ならくらりとするほどに。

 もちろん、並じゃない骨董系鈍感王には通じないのだが。


 不思議そうにしている流の顔を見ると、過去の忘れられない瞬間をイルミスは思い出す。


――あああ!? ちょと待て、なぜ泣く!? 俺が悪ぃみてぇじゃねぇかよ!! わ、わかった。嫁にはしてやれねぇけど……お、おお名案が!! あのよ、俺と友達になってくれよ!!


(馬鹿ね、ここまで似なくてもいいのに。もう、本当に馬鹿なんだから……)


 イルミスは流の手を固く握り、そのまま流に引かれるように立つ。

 そして流にさらに近づくと、自然にその唇へとキスをする。

 騒ぐギャラリー。そんな小娘たちの絶叫に微笑みでかえし、驚く流にこう告げる。


「ふふ。これは親友以上、恋人未満の挨拶ですわ」

「おいおい、そんな挨拶あるのかよ」

「あら流。ここは異世界。それが常識と言うものですわよ? こんな風に、ね?」

「ちょ、ちょっとイルミス伯爵! そんな常識は無いわよ!! って、またキスしたああああ!!」

「流様にまたキスしたあああ!! 私もしてもらった事ないのに!!」


 美琴も思わず抜け出るほどの、イルミスの愛が溢れる優しき蛮行に、涙目の小娘ふたり。

 それを楽しそうに見るイルミスの瞳は、本当に楽しそうであった。

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