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366:決着

「おふざけもココまでですわ! いい加減になさい、これで決めますわ!!」


 イルミスは足場にしている、魔力の塊を蹴り上げ更に上へと飛ぶ。

 天井ギリギリの所まで昇ると、備前長船へと魔力を込める。

 赤く光る備前長船。それを真下でジット見つめる流は、悲恋美琴を右斜下へと構え待つ。

 それを見たイルミスは、「チッ」と舌打ち一つすると急降下しながら、空中でステップを踏むように回転しだす。


 それはまるでダンスを躍るかのようだが、空中という自由な空間を最大限使い、激しく回転を重ねる。

 やがて魔力を帯びた備前長船が真っ赤に発光すると、赤い流星のように墜ちてくる。


「――喰らいなさい! 古廻流・断斬術! 羆破斬!!」


 流ですらこの威力の羆破斬を打つのは不可能だろう。何度回転した分からぬほど、高速で回転したイルミスは、重力・遠心力・魔力で業を最大限に昇華させる。

 元々背後から追ってくる羆に、カウンターとして決める業だが、熟練者が使うと全面の敵に致命傷を与えるが。


 イルミスが墜ちるまで、残り五メートル。

 流は美琴に静かに語りかけ、美琴もそれを即座に了承。それは紫の妖力が流へと伝わることで、白紫の妖力を形成する。


 白紫の妖力を悲恋へと込めた流と美琴は、迫るイルミスを睨む。その距離四メートル。

 予想以上に魔力を乗せ、高速回転で十分な威力にまで成長した羆破斬を、イルミスは放つ!! 

 赤い円形の斬撃は、陽炎のように周囲の空気を歪めながら、流へと着斬する手前!


「ジジイ流・薙払術(ていふつじゅつ)! 巨木斬!!」


 流は自分を両断する勢いで墜ちてくる、真紅の羆破斬の斬撃を、無骨で巨木をもへし折る斬撃を放つ。

 直後、目前で斬撃同士が均衡し、空中で止まる。が、それも虚しく巨木斬は真っ二つに消し飛ぶ!

 イルミスは今度こそ勝ったと、背筋が震えるほど歓喜する。しかし――。


「古廻流? ハンッ、だがコイツは知らないだろう? 俺(りゅう)・弐式! 七連斬【極】!!」


 美琴から受け取った純粋な負の妖力。これが悲恋から濃密に吹き出し七連斬に乗る!


 弐式は「溜め込み型」の斬撃である。流が巨木斬を放っている間、美琴は七連斬を放つと予測し、妖気を練っておく。

 妖気はいつでも放出することが出来るが、やはり最大の鮮度(ちから)を出すためには、タイミングよく練った妖気を放出しなければならない。


「高みの見物はここまでだ。その高慢な顔、見飽きたぜ」

「ありえないですわ!! 七連ですってええええええええええ!?」


 巨木斬で斬撃の威力を削がれた真紅の羆破斬は、続けて放たれた連撃の中でも、一撃が一番強力な溜め込み型。

 それも流と美琴の妖力で一層強化された、【極】にまで昇華した威力を、七連同時に喰らう。

 一撃当たるごとに赤い円の斬撃は削り取られ、六連が当たる頃にはボロボロになる。

 が、未だ威力は残っており、流を殺すに十分なほどの力で最後の一撃を噛み砕く!


 ボロボロになった事で、より凶悪な見た目になった羆破斬は、流を真っ二つにするため動き出そうとする刹那。


「は、ハハハ!! こけおどしも大概になさる事ね!! そんなモノ――」

「――勘違いするな。メインディッシュはこれからだ! ジジイ流・刺突術(しとつじゅつ)! 間欠穿(かんけつせん)【改】!!」


 破顔していたイルミスの表情は、一瞬で真っ青に染まる。

 なぜならあの状態からすぐに、大技が撃てるはずがないと知っていたから、余裕で状況を見ていた。

 しかし現実は、流が大技である「間欠穿」を放った事に驚愕した事で、一瞬対応が遅れる。

 その遅れ、実にコンマ三秒。だがそれが致命的な隙きを生み――。


「こ、こんな馬鹿なことがああああああああああ!?」

「アディオス・三世紀前(・・・・)のアミーゴ。度が過ぎた『日本刀マニア』もここまでだな?」


 回避不能のタイミングで放たれた間欠穿は、ボロボロの羆破斬を喰い破り、そのままイルミスへと向かい穿つ!

 美しかった顔だったが、恐怖に表情が凍りついたイルミスの中心が徐々にズレる。

 その断面は実に自然で、音もなくズルリと真っ二つになると、空中から墜ちてきた。


 流はそれを一瞥し、くるりとイルミスに背を向けて歩き出す。

 セリアたち見物人は、誰も声を出せない。それほどの攻防であり、その結果があまりにも凄惨だったからだ。


「まぁ、一応終わったが。さて、どうなるか」


 そう言いながら、流は悲恋を納刀する。


「ナ、ナガレ……何もイルミスさんを殺すこと無かったんじゃ……」

「そうだぞナガレ。性悪様は本当にクソのような女だったが、悪いやつじゃない。多分」

「あれだけの戦いだからのぅ。手加減するのも難しいのは分かるが、じゃがのぅ」

「問題ない。イルミスは殺してほしかったのさ、だからこその『本気』だったワケだからな」


 一同はそう話す流に困惑した直後だった。セリアが目を見開き、何かを見つけ必死に叫ぶのだった。

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