364:鎌迅乱舞
「一体何が起きてるの!?」
「お嬢様、二人は空中に……静止していますな……これは一体」
「おい、嘘だろ。ナガレ、お前とイルミス様は一体……」
三人が信じられないものを目撃する。それは鏡のような鱗の長い生き物が、互いの剣に絡みつき、そのまま空中で静止していた。
その現象がどういう理屈で起きているのか。もしくは魔法で浮き上がっているのか。それすら分からず呆然と見上げる。
「イルミス! お前、奥義まで使えるのか!?」
「ふふ、どこまで遊べるのか、とっても楽しみですわぁ」
互いに力を込め、太刀魚がさらに力強く互いを噛み、そして締める。
やがてそれも限界に達したのか、太刀魚同士が爆散するように消えると、流とイルミスは弾けるように飛ばされた。その距離十メートルほど。
「おい……イルミス。お前さっきから聞いていれば、『古廻流』だと? それがこの流派の名前なのか?」
「あらあら。本家の貴方が知らないとは……まぁ、だからこその中伝なのでしょうけれど」
「チッ、癇に障る」
苛立つ流。それに静かに耳打ちをするように、美琴が話しかける。
『流様おちついて。確かにアレはアノの流派。だけど名称は違う』
「美琴、お前も知っていたのか?」
『そりゃあね。長生きだもん』
「幽霊なのに長生きですね。ハァ~……ありがとうよ、おかげで落ち着けた」
『勝とうね』
「ああ、意味のわからない存在には負けられんさ」
イルミスは備前長船の背部分である、峰に左の人差し指を這わせ、気怠げに流へと話しかける。
「作戦会議は終わりまして? わたくし、そろそろ我慢出来なくてよ?」
「我慢が出来ないとは、本当に品がない困った女だ」
「なら、そろそろ」
「ああ、そろそろ」
「「斬り飛ばす!!」」
二人は抜刀し、刀を背負いながら前かがみになり走る。その距離五メートルに迫ると、二人同時に前転するように空中で回転しはじめ――。
「ジジイ流・薙払術! 巨木斬!!」
「古廻流・薙払術! 巨木斬!!」
巨木をもなぎ倒すように叩き斬る、無骨な斬撃を放つ。
そのコマのように回転する体から繰り出される斬撃は、丸ノコが回転しているかのような斬撃を生み出し、それがクロスするようにぶつかる。
衝突した瞬間〝ギャリリ〟と、硬い鉱物の同士が擦り合うような音が響き、続いて。
「「ヌあああああああああッ!!」」
二人とも力を込める。互いに押し負けないように流は妖力を込め、そしてイルミスは――。
「イルミス! おまえのソレは『魔力』なのか!?」
「ッう! そうですわ~。コレは魔力。気ではありませんわ!」
「魔力を乗せてるから、異常な力。そして先程の滞空戦となったのか!?」
「正解ですわ。それに貴方もなんですの? それ、気じゃなくてよ? 本当に本家の方なんですの?」
「期待に応えられなくてすまないが、残念ながら本家本筋正統後継者だ。まだ皆伝には至ってないがなッ!」
流はそう言うと、さらに妖力を込める。イルミスも負けじと赤い魔力を体に纒い、備前長船へと注ぎ込む。
やがて巨木斬の斬撃は変色する。一つは白く発光し、一つは赤く輝きだす。
それが限界に達したのか、光がさらに強くなると爆散するように砕け散り――。
「チッ、考えることは同じかよ!!」
「本当にステキ。愛しているわ!!」
流とイルスミは、これまで見たこともない姿で互いへ走り向かう。
右手に持った刀を左肩につけるように走り、左腕をヒジから曲げ、右手首を挟む。
そのまま互いに突っ込む。それは剣戟ではなく、肉弾戦をするかのよう。
つまり――。
「ジジイ流・戦舞術! 鎌迅乱舞!!」
「古廻流・戦舞術! 鎌迅乱舞!!」
二人は飛び上がりヒジに挟んだ、右手より伸びる悲恋美琴と備前長船で斬りつける。
そのまま高速回転をはじめると、銀色の渦のように見えだす。
さらに、よく見れば下から赤いモノと、黒いモノが互いの渦へと攻撃しているようだ。
ソレは流とイルミスの足であり、互いに蹴りつけ、その隙に刀で斬りつける。
流が悲恋美琴でイルミスの首を狙えば、イルミスも備前長船でそれを往なし、流の体勢を崩す。
グラリと体勢を崩す流。だが、その崩れた体勢から左回し蹴りを繰り出し、イルミスの脇腹へと直撃させた――。
はずだったが、イルミスも左足で蹴りを放ち、流の左足を蹴り上げてしまう。
すくわれるように流はバク転すると、即飛び上がり、空中で体を横にしながらイルミスの右と左の肩へ、斬撃と蹴りを同時に放つ。
それに対応するイルミスは、流の蹴りを蹴り上げてその動きを止め、備前長船で悲恋美琴を受け止め弾き飛ばす。
互いに一瞬離れるが、磁力でもあるようにすぐに銀渦はぶつかり合う。
飛び散る火花。そこから繰り出される赤と黒の残影。
赤の残影が黒の残影をまたしても蹴り飛ばす。その様子にセリアは息を呑む。なぜなら黒の残影――流は床に頭から落ちたように見え、そこへとイルミスが迫ってるからだ。
ところが流は、それを狙っていたかのような行動をとる。
そのままブレイクダンスをするように、逆回転しながら足元を斬りつける、が。
イルミスも空中へ真横へ飛び上がると、回転し流の足へと蹴りを放つ。
互いの蹴り業がぶつかり、相手を弾くように距離ができる。
ここまで実に十二秒! 肉弾戦と、斬撃。それと同時に固い守りで、相手をねじ伏せようとするが、決まりきらず互いの業の精度に呆れるのだった。
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