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361:極級大業物・備前長船

「竜貨三枚だって? 冗談だろう……たかが食材一つ、そこまで出すなんてありえないぞ」

「オススメはしないが、一度食べてみれば分かるだろう。あの麻薬とも言える毒実は、あの味を知らないのは人生の半分を失っているも同然だ」

「そ、そこまでなのか?」

「そうだ。私はあんな物ですんでいるのは、性悪様に何度も食べさせられてるおかげだ。そう、おかげ様(・・・・)だ。初めて食べたやつは気絶する奴も多い。それほどの美味さと、高揚感に全身が支配される」

「エルヴィスのいいたい事が分かったわ。つまり、そこまでの貴重な実を『無料で』食べれるかわりに、しばらく味覚を失う……という事ね?」

「正解ですセリア様。そして私が勝てば、あの忌々しい性悪様へと呪いの実を食べさせられる。それと馬車の残りの報酬もね。ですが一度もそうはならない」

「なるほどなぁ。勝てばエルヴィスの溜飲もさがり、報酬もある。負けても貴重な植物を食べれる。だが、キッチリとペナルティもある、か。本当に商人は絶対損はしないが、泣く泣く付き合うという意味が分かったよ」


 流は呆れるようにイルミスを見ると、彼女は右手の平を軽く上に向け、肩をすくめる。


「嫌ですわぁ。ナガレにまでそんな風に思われてしまうなんて。ただ、わたくしはエルヴィスの喜んでいただける、お顔が好きなのです」

「そうですか。でしたら是非とも、マンドラの実を十個ほど食していただきたいのですがね?」

「喜んで食させていただきますわよ。でも、流石に竜貨三枚の品はアレ一つでしてね。今度、貴方が来るまで用意いたしますわ」

「それはおかしい。先程裏庭で栽培しているのを、この目で見ましたが?」

「あら、勝手に裏庭に入るのは関心しませんことよ?」


 二人は額に青筋をたて、にこやかに睨み合う。全く困ったものだとナガレも思うが、そういう関係なんだと諦め、本題へと入る。


「それで、イルミス伯爵。その日本刀――備前長船について聞いても?」


 イルミスは、隣に立て掛けている日本刀をなでる。そしてそのままテーブルの上に置くと、流に話し始める。


「そうですわね。この子との出会いは気がついたらでしたの」

「気がついたら? まさか妖刀……いや、そんな感じもしないし、神刀というのでもない。それはどういう意味だい?」

「ふふ。そうですね、私の父。つまり先代も同じです。その先代も、そのまた先代もずっとね」

「つまり代々伝わっていると?」

「ええそうです。この日本刀……備前長船といいましたか? その備前長船はこの世界を救った人物が持っていたと言われるものです」


 流は思う。〆から聞いた話。過去に見せられた話。それらを総合すると、一つの結論に自然とたどり着く。つまり。


「古廻千石」

「――――なぜ、その名を知っているのです?」

「さてね。その刀に名前が書いてあるからじゃないか?」

「名などありませんが?」

「らしくないじゃないか、今言ったろう? 『その名を知っているのか』と」


 イルミスは美しい顔を少し歪め、流に拗ねるように話す。


「もぅ、意地悪しないでくださいませんこと? 的確に言い当てられてしまい、少々困惑したようですわ。そうです。貴方の言う通り、これは古廻千石様が持っていたと言われるものです」

「やはりか……。それでなぜ伯爵家がそれを持っているんだ?」

「そうですね。それは我が先祖が、古廻様の友人と言える間柄でしたから」

「なるほど、ね。一つ聞きたい、千石は死んだのか?」


 その問に美琴は胸が苦しくなる。その意味が言葉では分かるのだが、実感がまったくない。

 もっと言えば、見たことも無い他人のことなのに、胸が張り裂けそうなほど苦しい。


「ミコト? 大丈夫ですの? 幽霊なのに顔色が悪いですわね」

「うん、大丈夫なんだけど……よくわからないんだけど……」

「美琴は生きていた頃の記憶が曖昧でな。まぁ気にしないでくれ」

「そうでしたの……。ええ、彼、古廻千石様は怨敵とされるものと戦い、その傷が元で亡くなりました。その後、千石様の最後の言葉として、この日本刀が我が家に託されたと伝わっていますわ」

「そうなのか……だが他にもいたはずだろ、古廻の者たちが? よくそいつらがそれを認めたな。古廻千石はこの国の救い主だったかもしれん。だが同時に、古廻の者たちにとっては長だ。それがなぜ、異世界の者へ長の刀が?」

「そこまでお知りでしたの? これは……お見せしなければいけませんわね。どうぞこちらへ、おいでくださいませな」


 流へそう言うと、イルミスは執事へと視線を向ける。それが自然な事、まるで空気がながれるような自然な振る舞いで、メイドへ右指を二本出す。

 それを見たメイド達も、静かだが即座に動き出し、何かの準備へと隣の部屋へと向かう。


「流石プロのメイドは違うねぇ……それでどこへ?」

「もう少々お待ちくださいませんこと? せっかちな殿方も好きですが、じっくりと……貴方を味わいたくてよ?」

「美女にそう言われるのは、まぁやぶさかではないが、その『隠しきれない殺気』はどうにかならないのかい?」


 その言葉をうけ、イルミスは顔を〝にちゃり〟と歪ませる。セリアとルーセントも殺気は感じており、ついに来たかと目つきが鋭くなるのだった。

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