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357:アノ霊とコノ霊を勘違い

すみません。帰宅が遅くなり、投稿が遅れました(´;ω;`)

 扉が上にスライドし、完全に開ききる前にお湯が吹き出す。やがて完全に開く頃には、湯が洪水のように押し寄せ、二つの物体を押しながしてくる。


「「ぬうおおおおおおおお!?」」

「「「キャアアアアアア!?」」」


 太い声と、羞恥の悲鳴がそれぞれ二人。そして歓声が一人。そんな美琴たちに迫る、ゴロゴロと芋が転がるように、ながされる二つの物体。それはいわずもがなアイツだ。

 やがて中心部へとながれてくる二人は、予想以上に深い場所に転がるようにながれ着く。

 暴れるようにもがきながら、やっとの事で立ち上がると……。


「ブッハーーーーッ!! 一体なんだ!?」

「な、流様どうしてここに!?」

「ちょっとナガレ!! どこから来るのよ!!」

「マイ・マスター! 大胆すぎてもれちゃいます!!」

「「ちょっとやめなさいよ」」


 流は声のするほうを見上げる。湯けむりの薄いそこに、そびえ立つ巨山が六つ。そして控えめで、遠慮がすぎる山がそびえ立つ。


「うむ。見事な六つの山が実に美しい。型がよくハリも十分だ。さらに全身とのバランスがまさに黄金比! 無駄が無い芸術のような裸体が、見るものを虜にするだろう! ……さ、あがるか……」

「ナ~ガ~レェ? 随分と余裕ねぇ?」

「流様ぁ。ど~して私『だけ』一瞥して、とても残念そうな顔になるのかなぁ?」

「ヒッ!?」


 くるりと背を向け風呂から上がろうとする流。その肩をガッシリと掴む、美琴とセリアは実にいい笑顔だ。ただ目がまったく笑っていないが。

 それを気配察知で感知した流は、壊れたブリキのオモチャのように〝ギギギ〟と振り返る。

 それは妖人(あやかしびと)となった流ですら、魂も凍りつきそうな瞳の奥に宿る怒りに震える。

 

「ちょ、待て! 話せば分かる!!」

「「なんの話かなぁ?」」

「ご、誤解なんだ!!」

「「ここ、一階だよぅ?」」

「だ……だから、ギャアアアアアッ!?」


 流は美琴とセリアに、芸術的なほどの手際で振り向かせられた瞬間、みぞおちへ一撃入れられる。

 あまりの迷いのない行動に、流もどうすることも出来ず痛恨の一撃!!

 そのまま白目をむき、湯船に沈みゆく流を見て、美琴とセリアは声を揃え。


「「成敗!!」」


 そう言うと、固く握手をする二人の顔は実にまぶしかった。

 さて。この風呂場に、もう一人いたはずの男がいない。

 セリアはその男を探す。風呂にはおらず、どこかと辺りを見回すと楽しそうに笑う男を見つける。


「はぁ~。ルーセント、これは一体どういうことかしら?」

「はっはっは。眼福眼福! いや~お嬢様、この老骨めもお若い娘ごらの入浴を見れて、寿命がのびましたわい」

「まったく、ほんと貴方は……」


 見れば東屋でドリンクを飲みながら、この騒動を高みの見物をしている御老体がいた。

 ルーセントは右手に持った、青い色の柑橘系でほんのり甘いジュースをかかげる。

 そのまま楽しそうに一口飲むと、また陽気に笑い出すのだった。

 

 Lは沈んだ流を回収後、浴槽の外にある長椅子へ横たわらせる。その表情は実に楽しげであり、ニヤニヤが止まらない。

 深夜に道で遭遇したら、憲兵に通報まった無しの案件であるほどに、本当に不気味だ。

 気絶した流に呆れながらも、この原因を作った本人へと美琴とセリアは視線を向ける。


「ふふふ。楽しんでいただけたようで、何よりですわ」

「「楽しんでいません!!」」

「まったく。まさかナガレとルーセントが、出てくるなんて思わないわよ」

「本当だよ~。しかも人の胸見てガッカリしてるし!」

「まぁまぁ。それ以上は減りようもありません事ですし、そう怒るものじゃなくてよ?」

「そりゃ減りませんけど、減りませんけどぉ!?」

「よく考えればそれもそうね……ミコト。そう怒るものじゃないわ。見られても別に減らないし!」

「セリアちゃんの、そういう男らしさが羨ましいよ……ハァ~」

「お嬢様は戦場で男どもに囲まれ、そう言うのを気にしていられない状況もありますからな」

「気にしようよ、セリアちゃん……」

「前向きに善処するわよ。それはそうと伯爵、突然コレはないですよ!」

「そうですよ! 驚きすぎて死んじゃうかと思いました、死んでるけど!」


 お怒りの二人を見つめるメイド長は、ガクリと肩を落とし「だから申しましたのに」とポソリと呟く。

 東屋で着替えを済ませ、ゆったりとエールを呑むルーセント。そんな御老体は、プロのメイドを口説いてる。

 セリアは思う。あのメイドの顔はどこかで見たことがある。「そうだ、あれは実家の東門の守将と似ている気がする娘だ!」と。

 その姿を見たセリアは、アイヅァルム東門の守将であり、ルーセントの奥さんである「鬼刃のバーバラ」へ報告しようと固く決意する。おじいちゃんの命も後わずかかもしれない。

 

 その後、楽しげに(?)会話がはずみ、もう一度湯船に入いる四人。

 イルミスはまた美琴を背後から抱く。美琴もあきらめたのか、自然にその行為を受け入れたようだ。素直でよろしい。

 そんな素直になった美琴の髪を撫でながら、イルミスは疑問に思っていた事を口にする。

 

「ねぇミコト。貴女の体ってどうしてこんなに冷たいのかしらね? やっぱり精霊だからなのかしら?」

「え? 精霊? 私は違いますよ」

「嘘でしょう? だって貴女、日本刀から抜け出てきたじゃありませんこと?」

「それはそうですよ。だって私その刀に取り憑いている、オバケだもん」

「…………え? わたくしの聞き違いかしら、今オバケと聞こえましたが?」

「そうですよ、オバケです。その刀を作った時に死んじゃって、それからずーっと悲恋(ソコ)に住んでいるんだよ」


 イルミスの顔は次第に青くなる。そして恐る恐る口を開き、もう一度確認する。


「……えっと。……ゴーストと言うことですの?」

「そうですよ、幽霊でオバケで、ゴーストです!」

「………………ッ」


 イルミスはその言葉を聞くと、一瞬で血の気がひき気絶する。


「ちょ、伯爵大丈夫!? メイド長、早く来て! イルミス伯爵が気絶されたわ!!」

「やれやれです。イルスミ様はゴーストが苦手なのです。きっとミコトお嬢様を精霊と勘違いしていたのでしょうね。いい薬です。ハァ~」


 メイド長は長く嘆息すると、イルミスを湯船から救出しつつ、体を拭くのだった。

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