356:美琴、嫉妬される
呆然と頭上を飛ぶ、光る何かを見つめる。するとその中の一人が美琴の顔の前にくると、「おめでとう、その髪飾り大事にしてね」と言ってほほえむ。
一体何が起きているのかが理解できない美琴は、頭の上を触ってみる。
すると白い花がハラリと落ち、湯の上に落ちると消え去ってしまう。
「じゃあいつか、また、星降る百合の園であおうね。ばいばい」
「え……あの貴方たちはいったい――ッ、キャアぶっ!?」
妖精が消え去ると同時に、美琴は湯の中に落ちる。それはいきなりの事であり、驚く間もなく突然に。
この浴槽はどうやら中央部分が深いらしく、一メートル半ほどの深さだ。
その深さに一瞬驚くも、足をつき立ち上がると、セリア達がとてもよい笑顔で風呂へはいってくる。
「やったじゃないミコト! お風呂の妖精に気に入られたみたいだよ!」
「龍人の里でも中々お目にかかれないと言うのに、姫の幸運はすごいですよ~」
「ふふふ。わたくしの屋敷で、まさかあの子たちが見れるなんて驚きですわ。やるじゃありませんこと」
「ふぇ~。もぅ何なんですかぁ……。あれ? 花かんむりが消えちゃった」
「あ~それね。私も噂でしか知らないけど、妖精がいなくなると消えるらしいよ」
「そうなんだ……。あ、それで一体なんなの? 星百合って?」
美琴が不思議そうにたずねる。三人は顔を見合わせ笑うと、セリアが話し始める。
「アレはね、お風呂でお友達になりたいと思った娘にやる遊びだよ。小さい頃によくやるんだけど、お風呂の妖精もその娘を気に入ったら、たまに出てくるって言われているんだ」
「へぇ~。って言う事は、私はあの子達とお友達なのか……お友達……えへへ」
「もぅ何を照れてるのよ。私もLもあなたのお友達よ? そのためにしたんですからね?」
「え!? 私もセリアちゃんと、Lちゃんの……?」
「そうですよ姫! 僭越ながら、あたしもお友達にして、貴女の配下になります!」
「ちょ、何で配下なの!?」
「三左衛門様がそうせよと!」
「うぅ、三左衛門めぇ。何を言ってるのよぅ」
複雑な表情で、天井を見上げる美琴。でも友達と言われて恥ずかしくもあり、嬉しくもあり、顔が〝にへら〟と緩む。
ふと影が後ろからせまると、美琴の頭にのしかかる。それは大きく、マシュマロよりなお柔らかい、美琴にとって二つの夢のかたまり。
「きゃ、冷たいですわ~。わたくしはお友達のさき……そう、もっと親しくしたいですわね……」
「ひゃぅ!? イルミスさん一体何を、って。そんなところ触っちゃだめぇ!」
「あら、いいじゃありませんのよ。お風呂のあたたかさと、ミコトの冷たさ。はぁ~なんとも言えない快感ですわぁ」
「わぁ、本当だ。冷たくて気持ちい~」
「じゃ~あたしは左手を! お゛ぉぉぉ……これはクセになりそう」
「うぅ……はずかしぃよぅ……」
背後からイルミスに胸を包むように抱きつかれ、右腕はセリアの胸の間にすっぽりと。
左腕はLの谷間へ埋め込まれ、美琴は恥ずかしさのあまり涙目になりつつ、真っ赤になる。幽霊なのに不思議だ。
「それにしても……本当に貴女の肌も髪もなにもかも美しいですわぁ」
「ぁぅん、揉まないでくださいよぅ」
「それに……悔しいわね。どうしてそんなに肌がキメ細かいのよ! もぅ!」
「やっ!? そんな足の方まで撫でまわさないでぇ」
「てぇてぇです!」
「はぃ?」
「姫はてぇてぇすぎて、もうたまりませんッ!!」
「私はLちゃんが、どこでそんな言葉を知ったのかが、てぇてぇだよ」
「ヒマワリ様に!!」
「なにを教えてるの、向日葵ちゃんッ!?」
美琴は三人に、いいように撫で回される。嬉しいような恥ずかしいような、くすぐったいような、色々な感情に襲われながら、ふと思う。「あの扉」は何だろうと?
エムエーライオンと呼ばれる、四足獣の股の下。そこに扉がついている。
不思議に思い、背後のイルミスへと顔を向けると、頬にキスをされてしまう。
「ひゃぅ、もぅ何をするんですか~。あ、そうだ。そんな事より、あの扉の向こうもお風呂なんですか?」
「あら、よくお気づきになりましたわね。ええそうですよ。あの奥もお風呂がありますのよ? メイド長、ミコトのオーダーです。開放なさい」
メイド長と呼ばれた女。そう美琴の気持ちを分かってくれた、あの優しきメイドだ。
そのメイド長がジト目でイルミスを見つめ、静かに口を開く。
「……イルミス様。またですか?」
「またとはなんです、またとは。いいですの? わたくしじゃなくて、ミコトのオーダーですのよ? さ、早くなさい」
「……承知いたしました」
メイド長は嘆息すると、部下のメイドへ目配せする。するとメイドの一人が、エムエーライオンの足元へ駆け寄ると、そこにあるレバーのような物を手前に引く。
すると扉の向こうから、「「うぎゃあああああ!?」」と声が聞こえかと思うと、勢いよく扉が真上にスライドした。
美琴たちは「え? 開くんじゃないの!?」と、見た目は観音開きの扉が上に吸い込まれるように消えていくのを見ると、さらに信じられない光景が飛び込むのだった。




