354:かぼちゃの価値
同族とまで言われ、Lは憤慨する。馬鹿にするな、と。
「コホン……。よろしいですか? あたしは貴女と違って見境なく触手を伸ばしません。そう……あたしが愛するのはただ一人。いえ! 愛などと言う陳腐なもので表現できません、あの方は神です! いやそれよりもっと崇高な……そう、カボチャそのものなのです!!」
死んだ目の美琴は「カボチャって一体? もっとまともな表現はないの?」と思うも、ツッコミすらする気にもなれない。
「それはいいですわねぇ。カボチャ!! あの殿方はカボチャのように、上品で甘美な存在ですわよねぇ! それに色々秘密もありそうで、胸がドキドキしちゃいますわぁ♪」
美琴はさらに死んだ目になり、「わかりあえてる!?」と驚愕するが、やはりズルズルと引きずられるように浴室へと連れ去られる。
「Lちゃん。あなたも、エルミスさんも大概だよ……ねぇセリアちゃん。もう意味が分からない――ぇ?」
右後方にいるセリアを見ると、なぜか高速で首を上下し二人の会話に同意しているようだ。
「分かる! 分かるよLちゃん! そうよね、ナガレってカボチャのような男だよね!! そっか~、今までなんて表現したらいいのか分からなかったけど、あのにじみ出る男らしさはそう、カボチャだわッ!!」
「「そう、カボチャ!!」」
三人はがっしりと手を組むと、うなずき合う。そしてカボチャ談義に花を咲かせながら、とても興奮して歩いていく。
美琴は思う。意味が本当に分からないと。
ぽつりと置いてけぼりにされ、ふと我に返る。そして――。
「カボチャのどこが良いのよおおおおおおおお!!」
幽霊は絶叫する! 私の常識が変なんですかあああああ?? と。
色々涙目な美琴の背後から、よく訓練されたメイドがそっと優しく肩に手を置く。
そしてとても優しい瞳で美琴をみつめると、ゆっくりと首を左右にふって「私も分かりません」と言う。
それに感動した美琴は、三度うなずき〝ほろり〟と涙をながす。
「さぁお嬢様。まいりましょう」
「う゛ん゛……」
美琴はメイドに背中を撫でられながら、浴室へと歩いていくのだった。
長い廊下を歩くこと数分。やがて突如広がる広い空間に驚く。
そこには巨石から切り出したであろう、石組みで出来た巨大な浴槽があり、異世界の魔物だろうか。
見るからに雄々しい四足獣の口と、それを挟むように左右には女神像があり、肩に担いだ壺からお湯が吹き出ていた。
お湯は魔具で制御されているのか、空中をネジ曲がり、浴槽へとながれているのが不思議だ。
さらにそこにも庭園があり、その空間には東屋のような建物が見える。
東屋にはメイドが二人で何かを作っているようだ。見れば美しい色のドリンクが数種類用意されている。どうやらウェルカムドリンクのようなものか。
まるで庭園の中に巨大な浴場があるような、とても美しい空間に美琴は驚いて声も出なかった。
セリアもLも同じようで、三人は入り口で固まっている。それを楽しげにみつめるイルミスは、いたずらが成功した子供のように笑う。
「さあさ、そろそろお風呂へ入りましょう? わたくしたちが遅いと、お待ちの方々に迷惑でしょうから、早く入ってしまいましょう」
「わぁ~凄いねぇ! あれなんて動物なんです?」
「あぁ、そっか。ミコトは知らないものね。あれはエムエーライオンって言う神獣なの。白き雄々しき神って意味ね」
「それ、マーライオンじゃ……。なんかまたドッと疲れました……」
「姫! そんな白目な姫もステキですぅ(ビクン)」
美琴は「もうどうにでもして」と、小声で言う。そして目撃する。やっぱり異世界なんだなぁと。
「あのぅ皆さん? 脱衣所……あのぅ……」
セリアはいきなり脱ぎ始める。それは見事な脱ぎっぷりだった。そしてLもまた豪快に脱ぎ捨てるが、きちんと改造巫女服は折りたたまれている。器用なやつ。
そんな二人に困惑する美琴。ヒク付く頬にそっと触れる、温かい感触で我に返る。
それは背後からイルミスが抱きついているからであり、なぜかすでに全裸のような感触が背中に伝わる。
「あのぅ、皆さん。もっとこう、乙女として恥じらいを持ちましょうよ」
「戦場ではそんな事を言っていられないわよ!」
「マイ・マスターが所望なら、いつでもどこでも! 完璧に脱ぎ捨てられるように努力しました!」
「乙女の心は寝室に置き忘れてしまいましたの。殿方はそういうのがお好きでしょう?」
「……ソウデスネ」
それぞれが脱ぎ捨てた衣服は、プロのメイドさんたちに回収され、洗濯されるようだ。
ながれる作業に感心していると、セリアたちが美琴を凝視する。何事かと思ったが、それを理解した時、美琴は気がつく。
(え? ちょ、待って!? 私もお風呂に入るの? ええええ!?)
軽くパニックになる美琴。生まれてから一度も、他人となど風呂に入ったこともなく、さらに今は幽霊だ。
そんな状態で風呂になど入れるのか? いや、それよりも他人の前で裸になるなんて、恥ずかしくて死にそうになるのだった。
幽霊だけど。
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