347:困惑のイルミスの町
「ああ、セリアの言うとおり、討伐する気だな」
「フン。我はあんなか弱い奴らには負けませんぜ!!」
「やめとけ。とりあえずお前は好きにしとけよ。嵐影とつながっているなら、そのうち呼ぶこともあるからさ。それまで人を襲うなよ?」
「そ、それは任しといてくだせぇ!! もちろん! 絶対! 今後! 我は二度と敵対しない人間は襲わないと誓いまさぁ!!」
「……マ」
「了解ですぜ、ランエイさん。ではまたどこかで!!」
そう言うとレッド・ドラゴンは大きな翼をひろげると、そのまま飛び去る。だが、町の方向へと飛び去りながら、青い炎のブレスを吐いてゆく。
討伐隊はその様子を見て臨戦態勢に入り、防御陣形を敷きつつも魔法での防御を試みようとしている。
だがそれを嘲笑うように、レッド・ドラゴンはその周りに青い炎のブレスでサークルを描く。
それを見て青い顔で防御態勢をとる、討伐隊を笑いながらレッド・ドラゴンは去っていくのだった。
「ったく、余計なことしてないでさっさと行けばいいものを」
『まったくだね。あ、来たよ。どうするの流様?』
「私としては、レッド・ドラゴンが『逃げ出した』と、言うのがベストだと思うわよ」
「だな。嵐影が倒して従者にしたとか、誰も信じないしな」
流はそう言うと、嵐影の頭に手をのせ数度モフる。やがて討伐隊が大声をあげながら近づいてきた。
討伐隊は冒険者を主体とした構成で、町の衛兵もかなりおり、総勢五十名はいる感じだ。
そのなかのリーダーと思われる二人が、流たちの前へと歩み寄る。一人は冒険者の実力者。もう一人は町の衛兵だろう、フルプレートメイルの男だ。
「おい、アンタら。よく無事だったな! とりあえず最精鋭を集められるだけ集めて来たが、驚いたぞ」
「それよりも、アレを撃退したのか? 信じられん……レッド・ドラゴンだぞ!!」
「あぁ。まぁ、あの程度ならな。それよりおたくらは? 俺は極武級の冒険者で古廻流という。だが本業は商人だからヨロシク」
流はそう言うと、魔力で作り出した極武級のフラッグを右手のひらに出す。
それを見たリーダー格を含め、全員が感嘆の声をあげる。
「極武級だと!? トエトリーにいる変態の噂を聞いたがアンタか!!」
「ああ、あの変態の召喚師だろ!! 二つ名が『妖艶なる肉だるま』とか言う変態だ」
「チョットマテ、俺はジェニーちゃんじゃないぞ! あの変態はトエトリーでいい趣味の店を経営してるさ」
「そうなのか……まぁ噂と見た目が違うのかと思ったが。と、紹介が遅れたな。俺はイルミスの町を守備している代表、オッグだ。最近上空を飛ぶ、アイツを目撃したと数度報告があったが。助かった、礼を言う」
「俺はあの町の冒険者で、名前はヨシュア。イルミスで最高位の酋滅級を持つものだ。まぁ、あんたからすれば二つランク下だけどな。もうダメかと思ったぞ、あの炎を見たときは。町を守ってくれて感謝する」
その言葉で、冒険者と衛兵。共に整列し、流に持っている武器を掲げ感謝する。
本来は嵐影の手柄なので、こころ苦しくチラリと顔を見るが、嵐影はうれしそうに流を見ている。いつの間に来たのか、頭に赤い鳥とワン太郎を乗せて。
「それでどうだ、この事を領主様とギルドへ報告したいのだが、一緒に来てくれるか?」
「まぁ今日はその町へ宿泊予定だからな、時間がかからないなら良いけど……」
流はセリアとエルヴィスを見る。二人は無言でコクリと小さくうなずく。
「分かった、なら行こう。だが明日も早く出発するから、そのつもりでいてくれたら助かるよ」
「了解した。なら俺は領主様へと報告に行くから、さきに冒険者ギルドで報告してきてくれ。ヨシュア頼む」
「ああ任せとけオッグさん。それじゃ行こうぜ」
その後冒険者たちに囲まれ、レッド・ドラゴンと戦いと、ドラゴンとはどんなものなのかを、冒険者は目を輝かせて質問攻めにする。
それに答えながらも流は考える。「この町は大丈夫なのか」と。
だが先の狂った町、アルザムや、人間狩りの村の人間とは違い、誰もが明るい顔をしている。
セリアもそれを察し、一番くわしいエルヴィスへと静かに尋ねる。
「ねぇエルヴィス。この町は大丈夫なのよね? 聞いた話では問題ない地域だとの事だけど」
「ええ、ここイルミスは問題ありませんね。派閥で言えばトエトリー子爵派ですから」
「そう……なら安心ね。それで、これからの予定は?」
「まずはイルミスの領主、イルミス・フォン・イルミス様へと挨拶へ向かいましょう。彼女は傑物ですよ。色々と、ね」
エルヴィスのふくむ言いように眉をひそめるセリア。そうこうしていると、町の門が見えてくる。
どうやら歓迎されているようで、防壁の上からも門の中からも大歓声が沸きおこる。
「お、おい。来たぞ!」
「ああ、先触れが言っていた冒険者たちだ! しかも極武級だってんだろ? スゲーぜ!!」
「キャー! こっちを見たわ~! 絶対あたしを狙ってるのよ、あのつぶらな瞳は! まるで獣よ~」
「そら、ラーマンだから獣だわな。だれか治療師の所へ連れてってやれ」
町に入るなり、感謝の言葉と食べ物や飲み物まで差し出される。
それに驚く流たちであったが、この街の守将であるオッグが住民をちらしてなんとか進む。
「わかった! わかったから! 嬉しいのはよっくわかる! だ・か・ら・道を開けてくれ! 領主様へ報告に行くんだ!」
そう言いながら後に続く流たちは、あまりの歓迎ぶりにどう対処していいのか困惑するのだった。




