343:どらごんふぁいあー
レッド・ドラゴンはワナワナと震える右前脚で、こめかみを触る。ヌルリと付着した自分の青き血を見て激怒し、その右手の鋭い爪で流へと上部から振り下ろす。
嵐影はそれを後ろへ逃げるどころか前に突っ込み、グルリと回転して右後ろ足でレッド・ドラゴンの下アゴを蹴り上げる。
「マッ!!」
「「ぐああああ!?」」
突然の痛みと、突然の回る世界。流とレッド・ドラゴンは思わず叫ぶ。
「ら、嵐影~やる時は言ってくれよ!?」
「……マァ」
「頼むぜほんと」
「クッソがああああッ、ラーマンごときに蹴られるとはッ!」
さらに怒りで真っ赤な顔になったような気がするレッド・ドラゴンは、その怒りのおもむくまま嵐影に巨大なナイフのような牙で噛み付く。
「マ、マッフ」
「「何だと!?」」
嵐影は噛み付かれる刹那、レッド・ドラゴンの鼻を前足でガシリと掴むと、そのまま勢いをつけて上部へと飛び上がる。
流とレッド・ドラゴンはその行動に驚く。さらに追い打ちとばかりに、嵐影は背中に向けて前後の足に装備した嵐影専用装備、「嵐の鉤爪」を伸ばし突き刺す。
「ギャウウウウウッ」
突然襲う痛み。そんな痛みなどは味わったことの無いレッド・ドラゴンは、思わず唸るように苦痛の声をあげる。
さらにそのまま、ザクザクと数カ所斬り刻みながら、レッド・ドラゴンの背後へと降り立つ。
背中の痛みに耐えられないのか、ゴロゴロと巨体を地面へと打ち付けるように転がる。
そのあまりの光景に、流すらドン引きものだ。
「翼折れないのか、あれ?」
そう流が心配するほどの見事な転げっぷりだった。やがて痛みに慣れたのか、青い血をダラダラと背中からながし立ち上がると、嵐影へ向けて吠え叫ぶ。
「ラアアアアアアアアマアアアアアアン!! キ、キサマ。何をしたか分かっているのかああああ!?」
「……マ?」
「歩いただけですが? だとッ!? 馬鹿にしておるのか!!」
「……マァ」
「誰が弱いだ!! 馬鹿にしちゃってさぁああああ」
「おい、口調が変だぞお前……」
「う、うるさいわ!! こうなったら我の真の力を見せてやる!!」
嵐影と流に馬鹿にされた哀れなドラゴンさんは、涙目になりつつも次の攻撃体勢にはいる。
それは――。
「マイ・マスター! ブレスが来ます、ご注意を!!」
「なッ、ブレスだと? くっ、嵐影ファイヤーブレスが来るぞ!!」
「マ゛!!」
「愚か者どもが死ぬがよいわ! 喰らえぃ! 滅びの豪炎!!」
レッド・ドラゴンは口を〝ガバリ〟と開くと、その奥を青く光らせる。瞬間、口内から放たれる青い閃光のような柱が流と嵐影を襲う。
「なっ!? ちょ、お前、ソレ、みずうううううううう!?」
レッド・ドラゴンの口から放たれたソレは、水柱と言っていいようなものだった。
ただ、その威力が尋常じゃない。ウォータカッターのような切断する威力はないが、嵐影が避けたあとの地面が爆発したかのように弾け飛ぶ。
「オイッ!! 詐欺ドラゴン、なんでレッド・ドラゴンなのに水のブレスを吐く!?」
「う、うるさいわ! 我も火を吹きたかった……そう。レッド・ドラゴンなのに、なぜか水を吐く。お前にッ、この辛さがッ……分かるかああああ!?」
「いや、なんかゴメン」
青い瞳から大粒の涙をながすレッド・ドラゴン。思わず頭を下げるほど、悔しさと切なさが伝わってしまったのだからしかたない。
「馬鹿にしちゃってさぁぁ!! クソッ、こうなったら全て滅びの豪炎で粉々にしてやる」
「おい今、みずって言ったよな? って来るぞ!」
レッド・ドラゴンは滅びの豪炎を吐き出す。地面は爆散するように弾け飛び、やがて流れ弾が石橋の方へと飛ぶ、が。
「あっぶないワンねぇ。こっちに飛ばすんじゃないワン」
お怒りのワン太郎は近くの小川から水を操ると、氷の壁を斜めに構築し威力を削ぐ。
その氷の壁にぶち当たった、滅びの豪炎は壁を壊しながら斜め上に弾け飛ぶ。
ふざけた名前の攻撃だが、ワン太郎の作った防壁でもかなりのダメージを受けるようだ。
この威力と、受けたら弾け飛ぶ凶悪さ。名前からは想像も出来ないその攻撃に、流は舌を巻く。
ここは嵐影の背に乗り隙をうかがうが、それも中々難しい。それと言うのも、連射がきくようで滅びの業火を再現なく吐き出す。
「クソ、どうする」
「……マ」
「本気か? いや、分かった。お前も荒行(?)で修行したもんな。頼むぞ嵐影」
「……マママ!!」
嵐影は大地を掴み、その後蹴り飛ばすように全速力で後方へと走る。
それを見たレッド・ドラゴンは、「臆したか、所詮はラーマンよ」と嗤いながら、その逃げる後姿に向けてブレス(みず)を吐く。
たくみにそれを避ける嵐影。だが目の前に現れた巨石に行く手を阻まれる。
どうやらレッド・ドラゴンは、そうなるようにブレス(みず)を吐き、追い立てたようであった。
「馬鹿め!! これでトドメだ、人間もろとも吹き飛べ!! 全力・滅びの業火!!」
全面の巨石、背面の滅びの業火に挟まれる形で微動だにしない嵐影。
その様子を見て、内心大歓喜である。勝利は目前である。そう、レッド・ドラゴンは「やったか!?」と思うのだった。




