341:レッド・ドラゴン
イルミスの町へ嵐影で駆ければ、八分もかからないであろう場所。
そこは小川をはさみ、石で作られた太鼓橋いがいに隠れる場所もないような、背丈の短い草が生える平原であった。
丁度その橋へさしかかる目前での襲撃である。そのあまりにも大きい、赤い巨体は全長十三メートルはありそうだ。
その顔は怒りに震えており、水色の眼球で〝ギョロリ〟と睨みつけながら、上空を三度旋回する。
その後、流たちの正面に来ると、真っ赤な鱗の生えた翼をバサッと開き、そのままイルミスの町への退路を阻むように降りたつ。
緊迫が走る流たち一行。それを嘲笑うかのようにレッド・ドラゴンは口を開く。
「オイ!! キサマら、一体どういうつもりかな?」
「うぉッ、コイツも話すのか。だがエッジ・エッジより流暢だぞ?」
流のその言葉を聞いたレッド・ドラゴンは、怒りの顔を忘れたかのように、得意げな顔に変わる。
そして馬鹿にしているのがアリアリと分かる表情で、流へと話し始める。
「フン。あやつは、『四竜の中でも最弱よ』! 我ら他の三――」
「もっ!? も、も、も、もう一度言ってくれ!!」
流は思わずレッド・ドラゴンの言葉にかぶせるように、焦り始める。その様子をみたセリアは、いつか見たデジャブを思い出しながら、こめかみを抑えた。またか、と。
「は、えぇ? 何を……だ?」
「だから、お前の自己紹介だ!! ほら! お前の下のやつを言ったソレ!!」
「あ、あぁ。う、うむ。まぁ本当の事だし、気分も良いので言ってやろうではないか!! そうだ、あの爪しか飛ばす事しか出来ない無能は愚か者よ。なにせ――」
「違う!! そうじゃない、いいか、もう一度だけ言うぞ……エッジドラゴンは『何番目だったんだ?』と聞いている……ワカルナ?」
瞬間、流は妖人となり、レッド・ドラゴンを鋭く睨む。
突然の事にレッド・ドラゴンは目を見開き、「ひぅ」と情けない息を呑み込み後ずさる。
よくわからないが、命の危機だと感じ素直に震える口を開く。
「そ、そんな顔しても怖くないぞ!! ひぅッ!? 睨むな!! わ、分かったあれだ……え~っと。そうだ! ふふふ、心して聞くが良いわ。あやつはな……我ら四竜の中で一番弱いのだ!! どうだ、満足した――ぎゃあああ!?」
「馬鹿にしているのか? もういい。シネ――ジジイ流」
『ちょ、ちょっと流様。お怒りは分かるけれど、赤いトカゲさんのお話聞いてあげましょうよ?』
「む。すまん、怒りのあまりつい」
セリアたちは思う。どっちが悪党か分からないと。そして、どこの怒る部分があったのだろうか、と。
呆然としつつも呆れながら、流をジト目で見つめる一行。無論Lはシャドーボクシングのように右手をシュッシュとしながら、やっちゃぇマイ・マスター!! と大歓声だ。
「で、何のためにここへ来たんだ? ことと次第によっては、斬りかかることもやぶさかではない」
「今斬りかかろうとしたではないか!? なんと言う人間? だ。我らよりも傲慢な人間なと初めて見たわ。で、その用事だがな。お前を殺し――」
「ジジイ流・壱式! 三連斬!!」
うん、お前もういいわ。とばかりに流は通常の三連斬を放つ。レッド・ドラゴンはビクリとすると、強者の余裕なのか、右手の爪で三連斬を弾き返す。
爪には傷一つなく、どうやら自分の爪の硬さは最強じゃないのか? と思うと、笑いがこみ上げる。
「く、ククク……ハァ~ハッハッハ!! 一瞬焦ったぞ、だが……その程度かぁ人間? と、言うよりだ……我の話を最後まで聞けええええ!?」
「え、いやだって。続きは『お前を殺し、全員道連れだ!』とか言うんだろ?」
「バカ言え。そんな事はしない。全員殺したあと、頭からまるかじりしてやるわ、そのジジイ以外はな!!」
ルーセントは「誰がジジイじゃ!!」とお怒りだが、本当の事なので誰も何も言えない。
それを見たルーセントは〝ぐぬぬ〟すると、怒りのまま流へと急かす。
「おい小僧!! 憎きレッド・ドラゴンを真っ二つにしてしまえ!!」
「だ、そうだ。うちのお爺ちゃんは短気でな――そろそろ」
「――殺してやる。ドラゴンをなめ過ぎだ」
流の攻撃を思いの外、完全に防いだ事にドラゴンとしてのプライドが戻る。
すると、あれだけ恐怖していた体は自然と動くようになり、目の前の人間のような男を殺そうと動き出す。
「セリアとルーセント。それとエルヴィスは、石橋の下に隠れていろ!!」
「分かったわ! 私達がいると足手まといだものね。気をつけて!!」
「ワン太郎は全員を守れ、Lは俺のサポートに付け!」
流の言葉で全員機敏に動く。流は嵐影に騎乗しなおすと、レッド・ドラゴンの周りを高速で周回する。
その隙にLは上空へと昇り、レッド・ドラゴンが飛ばないように牽制しながら、逃さないと白の宝槍を投擲しようと構えるのだった。




