337:別れは突然に
「セリア様、準備完了しました!」
「ありがとう、では皆さん。この先の湖へと向かって――」
その時だった。村の広場に影が落ち、全員が上を見る。すると、はるか上空に羽ばたく巨大な影が見える。
その巨大な姿に村人は悲鳴をあげ、子供たちは泣き出す。
「おいでなすったわね。どうしようかナガレ?」
「やっぱりアイツか」
「あるじは、よほど好かれているワンねぇ~。氷で足場を作って上に行くワン? 氷狐王になれば飛べるけど、みんな恐怖で動けなくなるか、最悪死んじゃうし困ったワンね」
流はどうしたものかと考える。以前ジェニファーやヴァルファルドがしていたように、魔法で足場を作り、空中での戦いも出来るのだと思い出すが、流にはそれも出来ない。
天女ちゃんは……うん、やめておこうと考え、さて困ったと思い美琴の鞘を握りしめた時だった。
「不遜……一度ならず二度までも、マイ・マスターを見下ろすとは……今度こそ、あたしが行って落としてきます」
「おお!! その手があったか。なら落としてくれ。あとは俺が処理する」
「はぅッ!! ありがたき幸せッ!! このL、全身全霊で落としてまいりますぅぅぅ(びくん)」
「いや、びくんしてねーで早くいけよ」
「その辛辣で呆れる瞳もたまりませんッ!!」
Lは顔を桜色に染め普段は小さくなっている、龍人の羽というより黒鳥の羽のようなものを、本来の大きさに戻し〝バサリ〟と羽ばたき、フラフラと舞い上がる。
その様子に地上で見ていた村人をはじめ、全員が思う。
大丈夫なのかあのHENTAIは……と。
やがてLは右手に持った宝槍、白龍の咆哮を右手に持ちエッジ・エッジドラゴンの正面へと舞い上がる。
その突然の事にエッジ・エッジドラゴンは固まる。なにせ龍人とはドラゴンにとっても天敵のような存在だからだ。
「ッガ!? ナゼ龍人ガ人間ニ見方スル!!」
「なぜ? 馬鹿ねぇあなた。あたしはいつでもあの御方の奴隷……そう、恋の奴隷なの!!」
「意味ガ分カラヌ!! 答エニナッテナイゾ!!」
「答え? そうね。どうでもいいわ、だってアナタ……あの御方の真上にいるだけで不遜でしょ? だからそろそろ死ぬ時間なのよ。さ、落ちなさい」
「クッ、ココハ一端引イテ……ナニッ!?」
「おっそ~い。キャハ♪」
Lは逃げようとする、エッジ・エッジドラゴンの真上に舞い上がると、宝槍で翼を斬り裂く。
右の翼に大穴が空いた事とで、一気にバランスを崩して落下する。が、実は翼だけで飛ぶわけじゃなく、魔力で形成した見えない翼で同時にアシストしているため、フラフラと体勢を戻しつつあった刹那。
「あたし龍人ですよ~? どこをどうすれば、落ちるか知っているんですがぁ?」
「チョ、待テエエ!?」
Lはそんな話を聞くわけもなく、そのまま上空から左の翼めがけ斬り裂き、大穴を開ける。
それにたまらず落ちるエッジ・エッジドラゴンは、地上にて両手を広げ待つ、本能が殺せと言う敵に迎えられる。
その様子に一瞬パニックになりながらも、ドラゴンとしての矜持。そして上位種としての力が恐怖心を上回る。
瞬間、翼に魔力を循環させ、急速に回復を図ると同時に、足の爪を飛ばす姿勢に入る。
「キサマサエ居ナケレバ、コンナ事ニハナラナカッタ!! アノ、カエルノ楽園デ楽シク暮ラセタモノヲ!!」
「そうそう、その楽園の王様からの伝言だ。『悪いやつも真っ二つになればいいケロ』だとさ。伝えたぜ?」
「何ヲ!? 死ネエエエエ!! 全力投爪!!」
「その耳障りな声にも飽きた……ジジイ流・刺突術! 間欠穿【改】!!」
本来なら刺突は「点」である。が、もともと悲恋美琴の妖力で点が線になり、縦に切断する威力になっていた。
さらに流の妖力を加えた【改】に昇華した間欠穿は――
流は上空に向けて、美琴を右手で引き絞るように持ち、左手の中指と薬指の間をVの字に開き、敵に狙いを定める。
即発動した鑑定眼で見た弱点、「下アゴ」に狙いを定めその時を待つ。
やがてエッジ・エッジドラゴンが放った爪が弧を描きながら、一点集中で爪が流の胸を襲う刹那、ついに間欠穿が放たれる!
さらにダメ押しとばかりに、エッジ・エッジドラゴンは鋭い牙をムキ出し、流へ噛みつかんと大口をガバリと開き、襲いかかること残り五メートル。
銀光が瞬いた瞬間、殺到する爪が十字に弾け飛び、流の左右の背後へと突き刺さり地面がえぐれる。
その予想外の光景に、エッジ・エッジドラゴンは一瞬思考が止まる。気がつけば、目の前に銀色のクロスした光が輝いた、が。
「馬鹿目ガ!! 何トモ無イジャナイカ!?」
「さようならだ、右のエッジドラゴン」
「何ヲ言ッテイル!! モウ一度空ニ――ェ?」
「お前もさようならだ、左のエッジドラゴン。もう『エッジ・エッジ』は解散だ」
「「ゾン゛ナ゛バヴァナ゛!?」」
気がつけば体が縦に真っ二つになっていた、エッジ・エッジドラゴン。その後真横に線が入ると、血飛沫が打ち上げ十文字に裂け散り、真っ赤に大地を染めあげた。
流は血飛沫が飛び散る前に、その場から飛び退くと背後にいるセリアの元へと戻って来る。
「うん、初の討伐依頼完了ってな。俺も立派な冒険者になったもの――ってどうした?」
呆然と見つめるのはセリアたちばかりでなく、村人も口をあんぐりと開け放ち呆然としている姿がそこいる。
流は「おーい?」と呼ぶも返事がなく、人がいるのにシンと静まり返る村を、苦笑いをうかべ見渡す流だった。
エッジ・エッジドラゴンの名前で、最後のキメ業が分かった方は、相当な骨董無双マニア認定です(*´ェ`*)




