表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

334/539

333:白煙は変化デス

 三左衛門らの心配をよそに、美琴はおもむろに立ち上がると、ジャバが用意したステージのような荷台へと向かう。

 その様子を全員が呆然に見つめる。なぜならそれは、とても怪しく、とても妖艶で、とても儚げに見えたのだから。


 やがて美琴は白を基調とした、特注の金糸で彩られた百日紅が実に見事な、加賀友禅の袖の中から扇子を取り出すと、まるで夏祭りのような舞台で舞い始める。

 美琴は舞う。これまでの不運な過去を払拭するように、静かに妖艶に儚く。

 その洗練された舞いに魅入る一同。やがて徐々に美琴の周りに人魂が現れ、妖艶さと怪しさが極限になった頃、湖もそれに呼応するかのように光りだす。

 

 先程見た魚たちが、美琴につられたかのように点滅する。それを見た美琴は「ありがとう」と微笑む。

 それに気を良くしたのか、美琴は歌う。以前、どこかで覚えた春の歌を。

 セリアはただ魅入る。そして自然に、口から一言自然にこぼれた。


「なんて綺麗……」

「だな……人には到達できない領域だ。俺の世界でも異世界(こっち)でも、見たことの無い魅力が目の前にある」

「ミコトさんは本当に死んでいるのか? 私にはそうは思えない。いや、超常的な存在だからこそのこれ、か……」

「お美しいいいい!! マイ・マスターの伴侶は伊達じゃない!! 龍人の舞踊など足元にもおよばないですねぇ」


 そんな美琴の舞いと歌を一同は楽しむ。やがてルーセントたちがそれに加わり、その様子は夏祭りのようであった。

 美琴は思う。流とあえて本当に良かったと。そして同時に強く思う。


 ――この負の連鎖を断ち切らねばいけない、と。


 その思いは美琴の中にしっかりと、そして今はっきりと認識したのだった。



 ◇◇◇



 その後、心ゆくまで宴を楽しみ、やがて就寝した一同は夜明けと同時に出発する。

 まだ周囲は薄暗いが、それなりに視界も確保でき、ドラゴンが襲って来ても流やL以外でも対処は可能だろう。


「さて、昨日の遅れを取り戻す。ジャバ頼むよ」

「ケロケロ、分かったよエルヴィスちゃん。さぁ乗ってケロ」


 一同はジャバが背負い直した荷台に乗り込む。そのまま朝霧のたちこめる湖を進む。

 ドラゴンは昨日の一件でこりたらしく、その姿を見せることは無かったが、それを少し残念に流は思う。


「悪かったな、依頼達成出来なくて。俺の用事が済んだら、また来るからさ」

「ケロケロ、多分大丈夫ケロ。悪いやつの気配がここ一帯から消えたケロリ。それにたびに出た強い子供たちも、そろそろ帰ってくるケロ」

「そっか、なら安心か。俺はトエトリーと言う街にいるから、何かあったら何時でも連絡くれよ。って、その大きさじゃ魔物と思われて攻撃されちまうか?」


 そう流が言う頃には、向こう岸へと到着間際であり、ジャバはゆっくりと背中を浜辺へと向け腰を下ろす。

 全員が降りたのを確認すると、のっそりと荷台を下ろす。


「ケロケロ。さっき話しが途中だったけどね、ジャバはえ~っと……そうだ。人間さんたちの基準でいうとね、王滅級っていうらしいケロリ」

「だろうなぁ。俺とL、そしてワン太郎意外は気がついて無いようだが」


 その言葉で、エルヴィスをはじめ全員が固まる。そう、王滅級とはそういう存在なのだから。

 それを見たジャバは楽しげに「ケロロ」と喉を鳴らすと、エルヴィスに向けて話す。


「エルヴィスちゃんは商人だから、ジャバの事がよく分かって無かったのも仕方ないケロ。でもね、ジャバはと~っても強いケロ。ただ空を飛ぶ悪いやつは普段ジャバに近づかないからね、やっつけられなかったケロ」

「そ、そうだったのか。その、悪かったな。気軽に色々頼んだりして」

「いいのいいの。ジャバは他の威張ってるのと違ってね、人間さん達と仲良くしたいケロリ。だから今まで通り、お友達でいてくれると嬉しいケロ」

「そう言ってもらえると、私も嬉しいし助かるよジャバ」

「ケロリ。えっと、もう一つあるケロ。さっき人間さんが言っていた事の答えになるケロリ」


 そうジャバは言うと、巨体とも思えない速さで飛び上がる。直後〝ぼふん〟と白い煙のようなものが出現し、ジャバを包み込む。

 煙がはれ、やがて中からジャバが出てきたのだが……。

 

「ん? どうしたケロ? みんな固まっちゃって」

「「「え、だれだよおまえ!?」」」

「ケロリー!? ひどいケロ、ジャバだケロ!!」

「「「うっそ~」」」


 流をはじめ、全員が驚く。それもそのはず、ジャバはどう見ても人間の女。

 それも愛嬌たっぷりの、健康的で魅力的な小麦色の肌を持つ、南国に住んでいるような衣服を着用し、緑髪で瞳がくりっとしたピンクの可愛らしい娘だったからだ。ちなみに髪はショートである。


「ほんとうケロリ。たまに街までお買い物に行くケロ」

「びっくりだわ……なるほど、これならどこでも行けるな。王滅級ってそんな事も出来るのかい? 俺も先日、豚王に殺されそうになった事あるんだけど、あいつが街にいると思うとゾっとするわ」

「ケロ? 豚王……あ~あの戦馬鹿ケロ。あいつは小さくはなれたと思うけど、人間さんにはなれないケロ」


 その言葉で少し安堵する流。その後ジャバと少し話し、嵐影へ騎乗すると急いで次の目的地へと向かうのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ