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331:レッドフィッシュ

 爪はすでに生え変わっているが、流を警戒し降りてこようとしない。

 だがここから離れるつもりもなく、威圧するように時折野太い声で叫ぶ。

 やがて痺れを切らしたか、大きく一羽ばたきすると急降下で降りてくる。

 それを流は待ってましたと言わんばかりに、美琴を天に向けて縦に持つ、八相の構えにて待つ。


「ギャヴァアアア!! バケモノ、オマエ、コロス!!」

「話せるのか!! 魔法も使えるようだから当然なのか? まぁどうでもいいが――ジジイ流・肆式(よんしき)! 四連斬!!」


 一撃集中型の四連斬を放つ。エッジ・エッジドラゴンも負けじと右足の爪を四本飛ばし、

それに対応しつつ、残った左足で鷲掴みに流に襲いかかる。

 それに美琴を左斜めしたから斬り上げ対抗するが、巨体から来る速度と重さに流は吹き飛ばされてしまう。


『『『ナガレ!!』』』


 全員の声が思わず揃い、流が櫓の上部から吹き飛んで行くのを、どうしようもなく見る事しか出来ない。

 放物線を描くように、そのまま水面へ着水し、さらに水中へと沈み込む。


「クッテヤル!!」

 

 エッジ・エッジドラゴンは空中で、グルリと一回転した後、その勢いのまま水中へと大口を開いたまま飛び込む――。

 寸前だった。水面から突如現れる二頭の(みずち)! それが着水間際のエッジ・エッジドラゴンの足へと噛みつき、大きな足の指片方四本で左右あわせて八本斬り飛ばす。


 たまらず頭から水面へ落下し、無様な様子でもがいた瞬間だった。

 水面が突如氷結し、その中心部から氷の円柱が突き出る。それが割れたと思えば、中から頭にワン太郎を乗せた流が現れる。


「――ジジイ流・水斬術(すいざんじゅつ) 水昇双牙(すいしょうそうが)【改】だ、馬鹿ヤロウ。自慢の御御足(おみあし)も台無しだな?」


凍った湖を歩く流。それを見たエッジ・エッジドラゴンは、「ギイイイイイ」と悲鳴とも叫びとも言える恐怖心を、隠しもせずに咆える。

 徐々に迫る氷る湖。飛び立とうにも水を蹴り上げる足はまだ復活しておらず、羽だけで飛ぶには目の前の恐怖(てき)から距離が近すぎた。

 このまま嬲るように殺されるのかと恐怖が限界に達した刹那、妙案を思いつく。


「ジャバの子供の恨みだ、ジジイ流刺突術――なにッ!?」


 エッジ・エッジドラゴンは飛ぶことを諦め、翼をたたむ。

 それを流は驚きの表情で見る。が、それが何を意味しているか次の瞬間理解する。

 湖面を蝕むように迫る氷、それを翼を折りたたみ水中へと潜り、魔力でブーストしたのか、驚くような速さで湖の深部へと潜航していったのだった。


「うっそだろ……」

「びっくりだワンねぇ……」


 開口し呆然とする二人の元へと黄緑色がハデに目立つ、ジャバ・ケロックがやってくる。

 どうやらとても寒いらしく、ブルブルと震えながら舌をだす。


「ケロケロ。突然の事で言うの忘れてたんだケロ、悪いやつは水中へ潜れるだケロリ」

「そうだったのか。でも、どうやって泳いでいるんだあれ?」

「翼をたたむとね、魔力でその隙間から水を吸って、後ろへ出してるみたいケロ。変な生き物ケロ」

「そうなのか。すまないな、討伐出来なくて」

「うーんうん、あれは仕方ないケロ。でもかなりの痛手みたいだし~もうここには来なさそうケロ。だからちょっと安心ケロケロ」

「ならまぁ……安心か?」

「ケロリン」


 その後ジャバが長い舌で、流たちを背中に乗せる。ちょっぴりネトっとしたが、意外にも匂いもなく、逆にミントのようなハーブ系の香りすらした。

 理由を聞くと「えちけっと」らしい。納得。


 中間の島へと付いた頃にはすでに日も落ち、予定より大幅に遅れた事と、エッジ・エッジドラゴンが夜に襲って来ないとも限らず、島のキャンプ場で一泊する事にする一行。

 ジャバはお礼をしたいと言うことで、湖へ戻ると言って早々に立ち去る。

 それから少しした後の事だった。水面が光だし、中から不思議な魚が飛び上がった。

 全体に薄く発光しており、緑・黄・紫・青と実に美しい。


「うーん、ファンタスティック」

『本当ですねぇ、異世界って美しい場所がいっぱいだね』

「おまたせケロ~。これこれ食べてケロケロ」

「「「でかッ!?」」」

「ジャバ、私もそんなの見たの初めてだが?」

「ケロケロ。人間さんが頑張ってくれたから、特別に振る舞うケロロ」


 エルヴィスも驚く、ジャバが持ってきた魚。それは真っ赤に輝く鱗が実に美しく、それが透けていた。

 その鱗の奥はピンク色の実に綺麗な体が見え、神々しくも食欲をそそる肉体が見える。

 さらにその体は十メートル近くあり、二十五人で食しても食べ切れない量でだろう。


「こいつはなんとも……生でも食べれそうだな。と言うより食べたい」

「え!? ナガレは生でお魚食べるの? お腹こわしちゃうよ?」

『日本人はね、生食に命をかけて食べる民族なんです。生の食材には、それだけの魅力があるんだよ』

「ハッハッハ、セリア様。遠く離れた土地に住む、東の民と呼ばれる民族も同じようですよ。私も何度か行商で行きましたからよく知っています。そう言えば顔もどことなく、彼らとナガレは似ているな」

「東の民? へぇ、そんな人たちがいるのか。会ってみたいな、そいつらに……」



 流はエルヴィスが言う、自分によく似た東の民に興味がわく。

 もしかしたら、それはあの「人形討伐遠征隊」に、関わりのある者かもしれないのだから。


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