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325:アルザムの町

 狂信的とも言っていい、心理状態の子供を利用し、魔法で強化した少年兵を戦場へと送る。

 さらに殺人(もくてき)を達成する喜びをあたえ、それが人生の全てのように仕込む。

 そんな国とこの国は戦っていると言う。


「じゃあ、この国は元はまともだったのか?」

「いえ、そうではないわ……そろそろかしら」


 広場を後にした一行は、反対側の入り口からメインストリートに向かい歩く。

 進むに連れ様子が一変しだす。それは――。


「こいつら……」

「そう、これがこの国の元々の姿の縮図のようなものなの」


 先程までの陰鬱で、凄惨な場所とは全く違う、いうなれば「楽園」がそこにあった。

 人々は生気に満ち溢れ、酒を呑み肉を喰らい、大通りで女を剥く。

 悲鳴を上げる娘を誰も助けようとはせず、むしろ笑いながら男女ともに楽しんでいた。そんな異常な空間が流の目に飛び込む。


「光があれば闇がある、だけどこの国はもう闇しかないわ。だからナガレ……ぇ?」


 セリアが流の方へ顔を向けると、そこにはその姿は無かった。つぎにセリアが流の姿を確認した時は、剥かれた娘の前に立っており、その様子をギャラリーは面白そうに見る。


「おい、ボウズ! なに青い正義感だしてんだぁ? アン? いいか、ここではな――ばヴぁらヴぇ!?」

「黙れ……死にたいやつから前に出ろ」


 娘を強姦しようとしていた男を蹴り飛ばした瞬間、流の体から爆発的に妖気がほとばしり、素人でも命の危機を感じるほど濃密に具現化する。

 

「ひぃ!?」

「な、なんだお前は……」

「やだ、憲兵隊だれか呼んでよ!!」

「……『黙れ』と言った」

「「「ギィッ」」」


 さらに力を強める流、そして気絶する悪辣(あくらつ)な観客たち。そんな流を見て怯える娘は、実にやせ細っていた。

 年の頃は十八ほどだが、恐ろしく細い。それが全裸だからよくわかり、アバラなどは浮き出ている。

 流は娘に何か羽織るものと考え、周囲を見回す。すると、Lが気絶している身なりの良い娘から衣服を剥ぎ取ると、その娘へと渡す。

 その後、娘に携帯食と金を渡し、今なら南門から逃げれると教えてやり分かれる。


「焼け石に水って顔だな?」

「いえ、あなたがやらなければ私がしていたもの。ただ、この状況を見たら、一刻も早くアルザム(ココ)を解放しないとって思っただけだよ」

「そうだな、あまりにも悲惨だ……」


 気絶している住民へと群がる、下層の住民。それは盗れる物は命いがい、全て盗んでいくのを見て、やるせない気持ちで見つめる。


「お二人共、そろそろ移動しましょう。面倒な事になっても困る」

「そうね、エルヴィスの言う通りね。この先に信頼できる人のお店があるから、そこで少し休憩をしてから行きましょうか」


 セリアの案内で移動する一行。流は今いた場所を振り返り、以前見た光景を思い出す。それは地獄の一つ、〆が見せてくれた餓鬼道そのもだと。

 そんな沈んだ気持ちで無言で歩く一行は、表向き華やかな町を進む。しばらくすると、このあたりでも大きい、雑貨屋と飲食店を一緒に経営している店へと到着する。


「ん? アレは……セリア様か! っとこうしちゃおれん!」


 雑貨屋から顔を出した男はニコリと微笑む。体格は大柄で人好きのする顔が特徴的な、店主が顔をほころばせながら両手を広げた。


「お久しぶりでございますなぁセリア様。また大勢でおこしで」

「ごめなさいね、ルイジットさん。ココを使わせてもらう(・・・・・・・・・・)わ」

「……ええ、お好きにどうぞ。さぁ皆様もお疲れでしょう。奥でお休みください。馬とラーマンはコチラでお預かりします」

「そう、お願いね。じゃあ、軽い食事と、この物資をお願い」


 セリアは店主へとリストを渡す。それを見たルイジットは軽くうなずいた後、店内の奥へと消えていった。

 だがどうにも胡散臭い。そういうのに素人な流ですらそう思える、なにか引っかかる態度である。


「おい……大丈夫なのか?」

「ダメでしょうね。彼はそういうのが苦手なのよ、すぐに顔に出ちゃうのが欠点ね」

「じゃあ何が信頼出来るんだよ?」


 その答えをエルヴィスが左目を閉じつつ、ナガレに呆れたように話す。


「ナガレ、商人ってのはな。何より取引を大事にする、お前も商人なら分かるだろ?」

「あぁ、そういう……」


 それに気がついた流も呆れたように返事をする。やがて奥から店主が戻ってくると、パンに肉を挟んだ食事とリストを持って来た。


「こちらがその品ですが、少し重いので気をつけてお持ちください」

「あら、早いのね。じゃぁ食事をしてから持っていくわ」

「ええ……ごゆっくり(・・・・・)と」


 ルイジットはそう言うと、店の奥へと引っ込んでしまう。それを見てルーセントは呆れるように静かに指示を出す。


「俗物……ですかな。さて、その飯は『半分懐い入れて』いつでも動けるようにしておけ」

「用意周到だな。ほんと敵地ってすばらしいね」

「もぅ、冗談言ってないで、ナガレも少しかじってから〝ペっ〟てしてね」


 そういうものかと、少しかじりそれを吐き出す。するとセリアはそれを拾い、袋の中にしまうと、自分もかじったものを袋へと吐き出す。

 その行動に驚くも、なるほどと理解しつつセリアの指示を待つ。


「ルーセント、お水はどう?」

「毒味の魔具に反応はありませんので、こちらは大丈夫かと」

「そう、ならお水だけいただきましょう。お客さんが来るまで、ね」


 セリアの言葉にうなずく全員。そのまましばらくすると、外が騒がしくなるのだった。

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