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324:狂気と歪み

 隊長は部下たちが一斉に倒れたように見えた。それほどLの動きは素早く、一瞬ともいえる間に倒したのだから。


「ば、かな……」

「はぁ~ぃ、おつかれちゃん。さ、マイ・マスターへ不本意だけど、その汚い顔を見せてあげなよ」

「な、グガアアアアッ!?」


 Lは隊長の尻を蹴り上げ、流の方へ向けて飛ばす。隊長は悲鳴とも苦痛とも言える声をあげながら、流の足元まで吹き飛ばされて来たが、どうやらその衝撃で足を骨折したようだった。


「ぎゃぐぅぅぅ」

「おや、誰かと思えば隊長さんじゃないの? お早いおつきですね。さぁ、俺たちは町へ入ってもいいよな? え? OK? 話が分かるじゃないの。んじゃ、行こうぜみんな」

「までぇ……」


 隊長が何か言っているが、流たちはそのまま進む。前方からLがニコニコしながら歩いてくると、ルーセントが引いてきた馬へと飛び乗る。


「マイ・マスター!! 任務遂行しました!! 大好きです!!」

「はいはい俺も大好きだからオチツケ。で?」

「そんな、ぞんざいな扱いもステキですぅ(ビクン)。はい、生きていますよ。残念ながら」

「ならいい。余計な事をして面倒な事になっても困るからな」


 Lは嬉しそう微笑むと、小さく「やったネ、褒められた」と喜ぶ。


「ナガレあなた……手当り次第に甘い言葉をかけて、美しい娘を誘惑するのはいかがなものかしら?」

『セリアちゃんもそう思うでしょ!? そうなんだよ、しかも自覚ないから酷いんだよね』

「オイ、お前たち。おかしなことを言うな。おじいちゃんが、俺を射殺す視線で見つめてくるんだが……」

「だれがおじいちゃんじゃ!! マッタク、お嬢様もこんな軽薄な男のどこがよいのやら……」


 そんなルーセントのボヤキを、セリアの近衛騎士達はクスリと笑う。

 これから敵地とも言える場所へと向かうのに、この緊張感の無さは実に良いものだとセリアは思う。

 さすがは歴戦の兵つわものばかりであり、力の加減をよく知っている。


「それでセリア。これで良かったのか?」

「ええ、元より敵対していたし……それにあの町の様子も見ておきたかったから」

「セリア様。辛いことになるやもしれませんぞ?」

「ありがとうエルヴィス。でもね、彼らの現状を見て忘れないようにしないと。それにあなたもソレが目的で、あの町へ行くんでしょう?」

「ええ、そうですね。失言でした」

「いいのよ、ナガレに見て、知ってほしいし」


 二人のただならぬ思いを感じ、視線の先に見える町を凝視する流。

 やがてその大門が見えてくる。抵抗があるかと思いきや、なんの抵抗も無しに町の中へと入ることが出来たのが意外であった。それと言うのも――。


「あの衛兵、泣いていたな」

「ええ、彼はこの町を誇っていた人物よ。そして私が子供の頃は、よくお菓子をくれた人……いつもセリア様、大きくなりましたなぁと言ってね」

「そうだったのか。それにしても……ここまでか」


 流は絶句する。トエトリーは無論、アイヅァルムの華やかさとは程遠い、街全体がスラムのような陰鬱とした雰囲気だったからだ。

 さらに雰囲気だけではなく、商店の大半が暴動か何かにあったのか打ち壊されおり、露天でほそぼそと品を売っている状態だ。さらにその価格が恐ろしく高い。


「あれはクコルの実か? 嘘だろ、今売ってる三分の一で昨日買ったばかりだぞ」

「ナガレ、俺は商人だから分かるが、まだアレはまともな方だ。見ろ、そっちのオークの肉を。腐りかけであの価格だ」


 エルヴィスが言う露天に目を向けると、「新鮮オークの肉」と看板があり、その肉にはハエが複数で楽しそうに食事をしていた。

 だが驚くのは、それを払おうともしない店主の無気力さであり、もっと驚くのは、それを購入していく客がいることだった。

 全員生きるのに必死さがあると同時に、無気力で周りのことなど見向きもしない。

 そんな生きる屍のような人々が、フラフラと町をさまよう。


「それに何か腐臭がするんだワン」

「腐臭? たしかに何か臭いな……」

「それはもうすぐ分かるよ。あの角を曲がれば、ね」


 セリアが示す場所。そこは街の中心にある公園広場であり、そこには目を疑う光景が広がっていた。

 かつては憩いの場であっただろうそこは、中央に木製のステージが作られており、その上には罪人と思われるさらし首が、ところ狭しと積み上がっていた。


「何だよコレは……うそだろ……」

「これが現実よ。この国はこういう事を平気でするようになった。なってしまった」

「そうですね、アルマーク商会(うち)のせいで。ナガレ……あの人達はな、いいがかりで殺されたんだろうさ。お互い密告しあってね」

「密告? なぜそんな事を」

「それはな、密告をすればするほど領主への忠誠があるとされ、優遇してもらえる。そして人ってのは密告する側になれば、実に熱心に活動するのさ。それが親しい間でもな」

「そんな馬鹿なことが……」

「あるのよ、これが現実。とある国で、この国と同じような運命をたどった所があるわ。そこでは少年兵が大人を殺していた。嬉々としてね。うちの兵が捕まえて話を聞いたことがあったわ……そしたらその子はこういったの。『悪い大人を殺せば褒められる、それの何が悪いの?』とね……」


 その続きは実に胸クソ悪い話だった。子供は迷いが少ない、だからそれをうまく洗脳し、最初は親族や近所の事を密告させ、それを危険視した両親まで密告させると言う狂気とも言える内容だった。

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