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319:崩れ落ちる二人

「なるほどねぇ、随分と陰湿な事で。それでカーズからの手紙は見てくれたかい?」

「うむ、見たデスネ。この街のでの過ごし方に配慮してもらって感謝デスネ。そして本題だが――」


 セルガルドは懐から手紙を取り出すと、それを開き見る。


「カーズ様の要望通りに事を進める。古廻殿、王都での滞在場所の確保と、その他の便宜を出来るだけ配慮しよう。ただ、我らは王宮から見れば敵。どこまで役に立てるか……情けない話だが、限界まで尽力するデスネ」

「何を言うんだよ。俺なんか右も左も分からないんだから、とても助かるよ」

「そう言ってもらえると、こちらも助かるデスネ。あとは……ウムゥ」


 手紙に書いてある一文を見て、セルガルドは唸る。それは流を一人で行かせるには不安だから、誰か信頼の出来る者を付けてくれと表向き(・・・)はそう書いてある。


(本来ならアーセッドを付けるべきなのだが……この混乱では無理デスネ。しかしイッヂでは、まったく役に立たないどころか真逆になる可能性もある。エメラルダは論外、セリアは……いかん、まだあのこには早い。だが……)


 セルガルドは困り顔で目をつむり、手紙をテーブルへと置く。

 思案をするが定まらず、人選を家族以外から募ることにする。が、その隙をつくように、セリアが手紙を自然に手元へと引き寄せ中身を確認する。


「あら、お父様。ここに適任がおります」

「……セリア。勝手に見るのは関心しないデスネ」

「失礼しました。ではこの任、私が請け負います。無論報酬などはいりませんけどね」

「い、いかんぞセリア! お前にはまだ早いデスネ! これ以上危険な事は許さんのデスネ!!」

「またそのような過保護を。いいですか父上、私はナガレに命を救われました。それも二度……いや、ワンコちゃんに救ってもらったのあるので三度もです。このまま彼へ恩も返さず、この城で安全? に生活する、恥知らずになれとおっしゃるので?」

「い、いやしかしだな。セリア、お前は女なのデスネ!」

「あら、東門の守将は女です。しかも老練のバーバラですが?」

「ぐッヌゥ。だが――」


 そんな二人のやり取りを呆れ顔で見ていたジェニファーは、セリアへと助け舟を出す。


「ほらほらん。クコロ~ちゃんも、そんなに意固地になっちゃダ・メ・ヨ♪」

「そうは言ってもジェニファー、まだ娘は――」

「まぁ待てセルガルド。お前の娘の事は王都まで聞こえていたぞ? なかなかの采配で、オルドラとの小競り合いを完勝したと言うじゃないか」

「違うんだヴァルファルド、あれはウチの猛将ルーセントが――」

「お言葉でございますがセルガルド様。お嬢様はもう立派な将でございます。先程の指揮を取ったのはすべてお嬢様です。ワシは補佐に徹しただけで、すでに一人前ですな。あのどうしようもないバカ者、イズンなどより千倍有能ですな。ハッハッハ」


 三人の波状攻撃にあい、陥落寸前のセルガルド。そこにダメ押しとばかりに流がトドメをさす。


「いや、セルガルドさん。別に俺だけでも十分だから気にしないでくれよ。元々俺と、龍人の娘。そして仲間たちと行く予定だったからな」


 その言葉にセルガルドは焦る。先程までの不義理で侍を処刑しそうになったばかりで印象最悪のところに、今度は非協力な姿勢を見せてしまう事に冷や汗が吹き出る。


「ち、違うのだ古廻殿! 無論協力は惜しまないし、是非させてもらうデスネ!!」

「でしたらやはり私が適任ですね。じゃあ行きましょう、お父様(・・・)の気が変わらないうちに」

「うわ、引っ張るなよセリア!? す、すみませんセルガルドさん。またそのうち」

「ふふふ……ねぇ、早く行こうよ? 王都かぁ久しぶりで楽しみだなぁ」

「え、セリア? 古廻殿と……え?」

「セルガルド様。お嬢様はあのいけ好かない男が好みらしいですな。では失礼して我らもお嬢様の後に続きます。なにご心配めさるな、我らが付いていますからな」

「セリアアアアアアアアア!!」


 崩れ落ちるセルガルドを一瞥もせず、セリアは部屋を出ていく。その様子を黙ってい見ていたドラゴンヘッドのエドは、見てはいけないものを見てしまったとばかりに視線をそらす。


「セリアちゃあああああん!?」


 どうやらこっちも見てはイケナイ男が、妹が去るのをよつん這いになり、右手を伸ばし泣きながら見送っていたのだった。


「ええっと……。クコロー様、よろしいでしょうか?」

「うぅ……はぁ。なんだドズル、この街始まって以来の危機だというのにッデスネ!!」

「いや、その危機はセリア様が払ってくれましたので、もう大丈夫ですよ。それより今後です」


 その言葉でセルガルドは正気に戻る。やれやれとばかりに呆れる四人に咳払いを一つ。


「コホン。続けるデスネ」

「どうやらトエトリー本部から緊急令が出ることになりそうです。そこでかねてより、トエトリー支部はアイヅァルム防衛のために、冒険者を雇うことになります」

「そうか、助かるデスネ」

「いえ、そのための独自組織ですから。それの代表として、竜滅級であるドラゴンヘッドのエドを中心とした遊撃隊を組織します」

「エドか、久しいデスネ。最近は商隊の護衛が多いと聞いていたが?」

「ええ、そっちは今回の騒ぎで商隊が壊滅したので、今はこちらの依頼を優先にしますよ。元々そう言う契約でしたしね」

「助かるですね。では詳細は後につめるとしよう。それでお前たちはどうするデスネ?」


 セルガルドは、ジェニファーとヴァルファルドを見る。お互い顔を見合わせると、珍しく迷うように口を開くのだった。

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