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316:背後から忍び寄るもの

 イズンは落ちて来た瓦礫(がれき)に首だけ出したまま埋まっている。その状態で呆然と状況が動いているのを見ていると、目の前にすらりとした美しい脚が迫ってきた。

 それがこの場の状況に妙にそぐわないと、現実感の無さにただ見つめるイズン。


「いい気味ねイズン。出世に目がくらみ、守将とは思えない醜態をさらし、あげくに駐屯基地を破壊(・・・・・・・)した。これは到底許されることではないわ」

「ま゛待ってくださいセリア様!! なぜ私がそのような、いわれのない事を――」

「黙りなさい。父上の命令を伝えに来た私の言を無視したばかりか、トエトリー領主、カーズ様の命令まで無視をする。これは完全な軍規違反よ」


 先程までのセリアに対する余裕はどこへ消えたのか? と思うほど、絶望の表情にそまるイズン。

 そんな中、駐屯基地内部から破壊音の異常に兵士たちが大勢出てくる。


「クコロー・フォン・セリアの名において命じます! イズン将軍は軍規違反の疑いが濃厚だ! 軍法会議にはかるゆえ、直ちに拘束しなさい!!」

「「「っ!? ハッ!!」」」

「待てお前達! 私はここの守将だぞ!? 無礼は許さん!!」


 イズンがそう言うと、流の尋問官だった隊長二人が急いで前に出る。


「無実の人……ましてココを救った英雄を尋問し、死刑にする。これは騎士としてありないですよ」

「イズン様。みんな嫌気がさしてたんですよ。貴方には、ね。引立てええええい!!」

「「「ハッ!!」」」


 みっともなく泣きわめくイズンを掘り起こし、駐屯基地の建物へと引立てられていく哀れな男。

 きっと流がいた部屋に連れて行かれ、本当の尋問が行われるのだろう。願わくば否定しつづけ、最後は拷問官が出てくればいいと思う、隊長二人であった。

 

 そんな出世欲に狂った男の後ろ姿を流は見ていると、後ろから抱きつかれる。

 ふと香る甘い香りと、温かい柔らかな感触にドキリとするが、振り返りそれが誰かと分かると流は呆れるように話す。


「ナガレ……良かった無事で……」

「ん、あぁ~セリアか。そんな顔するなよ。その、あれだ。なんか世話になったようだな?」

「もぅ、死んじゃうかと思ったじゃない……。脱出ができるなら、初めからしなさいよね。私がどれだけ苦労したか……何よもぅ、おばか」


 セリアはそう言うと一層ナガレに抱きつく。いまだ処刑台の床に突き刺さっている妖刀から、何か抗議されているようだが二人には聞こえない。


「おい苦しいって。おまえに迷惑かけたのは謝るよ。カーズからの頼みでさ、この街では穏便に過ごしてほしいと書いてあったから、まぁ……セリア。おまえに甘えさせてもらったわけだ、が。本当に大変だったようだな、ありがとう」

「も、もぅ。そんなマジメに言わないでよ。顔は見えないけど……恥ずかしいじゃない」


 ますます締め付けるセリア。その力強さに驚きつつ、周囲を見て苦笑い気味にセリアへと顔を出すようにうながす。


「それはそうとセリアちゃん。観客が唖然としてますぜ?」

「へ?」


 セリアは流の背中から顔を出し、その観客もとい見物人たちを見る。全員唖然としていたが、セリアが顔を出した事でわれにかえる。


「お、おい。セリア様と、あの男が……」

「なんじゃと!? わしの目の黒いうちに、セリア様のあんな顔が見れるとは」

「姫将軍が……まさか恋? えぇ!?」

「キサマ、お嬢様から離れろ!!」

「キャーー!? セリア様の恋人なんですかーー!!」


 一部どこぞの老将がお怒りであったが、セリアはそれどころではない。

 顔を真っ赤に染めて、流の背中へと引っ込んでしまう。

 それを見た民衆は、ますますヒートアップするのであった。


「あは~ん♪ ボーイはここでも思われているのねん、妬けちゃうわん」

「ナガレ、お前あの子を助けに行くんじゃなかったのか? まったく困ったヤツだ」

「ち、違うぞ二人共! 俺とセリアはそんな関係じゃない!! ただの……なんだ? そうだ、友達だ!!」

「違います!! と、友達以上恋人未満です!! 今はまだ!!」

「あたしは、マイ・マスターの永遠の奴隷です!!」


 そんな流のあたふたとした様子を、楽しそうに見ていたドズルは流の側まで来る。


「さぁさぁ、ナガレさん。いつまでも遊んでないで、授賞式をしますよ? 本来ならトエトリーのギルドホールで行う規模のものですが、ナガレさんはお急ぎのご様子。なら簡易的ではありますが、ここで執り行いますがよろしいかな?」

「あぁ、それはかまわないけどさ……龍人とリザードマンを倒したのって、そんなにスゴイ事なのかい?」


 ドズルはジェニファーとヴァルファルドを見ると、三人で肩をすくめ呆れた顔をする。


「ナガレさん龍人とは一度暴れると、災害クラスの被害が局地的に発生します。それはドラゴンと同等、もしくはそれ以上とされています。報告でリザードマンを……そちらのお嬢さんが殲滅した時に、ご覧になったのでは?」


 そう言われると、明らかに手を抜いている攻撃で、リザードマンが殲滅されていたのを思い出す。

 あれが空から本気でやられたら、たしかに大被害になるだろうと思う。


「なるほど、言われればそうだよなぁ」

「ええ。ですからそれを『赤子の手をひねるように』あしらえる実力がある。だからこその称号です。トエトリーのギルドマスターである、アリエラの代理である私からで申し訳ないのですが、受けてくれますね?」

「ああ、喜んで受けさせてもらうよ」

「では決まりましたね!! さぁ~さぁ~お集まりの皆の衆、これより特例中の特例! 極武級の認定式を執り行います!! 簡易的ではありますが、この大変めずらしい式典に参加できる栄誉を堪能してください!!」


 そうドズルは言うと、豪華な小箱をアイテムバッグから取り出すのだった。

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