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315:私、と~っても、怒ってるんだからネ!!

 流の頭上よりバラバラと降ってくる色々な物体。それは木材であり、石であり、金属でもあった。


「あ痛だだだだっだ!? ちょ、この首枷(くびかせ)を外してくれよ!! Lばかり外してなぜお――ひぃ!?」


 ヒタリ……流の首筋に当たる、氷よりなお冷たい漆黒の鎌。その持ち主たる白衣の天女が、微妙にずれた黄金の冠をさらにずらすように、首をかしげ流を冷たい微笑で見つめる。


「……なぜ?」

「はぃ?」

「なぜ私を、その名でよぶのかなぁ?」

「ひぃぃ!? ちょ、ま、待てぇ鎌ぁ、鎌がくいこんでるぅぅ!?」

「言ったよねぇ? その名で……『狂鎌天女』って言わないでって?!」

「ぁ、ちょ、まああああ!?」

「いっぺん……死んでみようね?」

「いっぺん死んでるからゆるしてえええええ!!」

「…………だ・め・よ?」


 一気に雅御前の神気が吹き上がり、漆黒の大鎌で流の首を下から上へと一気に刈り取る。

 それは見事に躊躇なく、ズッパリといったかに見えた、が。


「あれ……生きてる?」

「もぅ、流の馬鹿。狂鎌天女って恥ずかしいから言わないでよね! でも、誰もいないところでなら……特別に……いいんだゾ?」


 雅御前はそう言うと、頬を真っ赤に染めて悲恋の中へと消えていった。

 その直後だった。流の首と手をを拘束していた、頑丈な木製の枷がスライスされたように〝ペラペラリ〟と端から切れていき、なんともマヌケな格好で開放される。

 木の支えが無くなったことで、顔面から床にべちょりと落ち、さらにマヌケな格好になってしまう。


 唖然とする観衆。呆然とするイズン。そして……。


「え~っと……そう、俺が『極武の英雄』古廻流だッ!!」


 漢はおもむろに立ち上がり、両手でサムズアップした親指を自分へ向けてアピールする。それはもう、堂々としすぎるほどに。

 そんな流に民衆は口をそろえて思わず一言。


「「「カッコ悪い……」」」

「ウッサイわあああああ!!」

「でも……なぁ?」

「ああ。こんなマヌケな男が、悪いやつなワケないよな?」

「そうだよ。さっきの見たでしょ? あんな力があれば、悪党がマヌケに捕まってたりしないよ」

「そうは言っても……でもねぇ……さっきの映像が……」


 その時一人の子供が大声で叫ぶ。微妙に静まり返っていた処刑場に、よく響く声の持ち主は、流を(カタキ)と恨む少年だった。

 少年は流れのいる処刑台へと駆けてきて、そのまま処刑台へと上る。


「みんな聞いて!!」

「あれはさっきの子供か?」

「ああ、あの子はなぁ……」


 その場面を見ていた者は、一様に少年が何を言うのかが想像出来てしまう。

 つまりコロセ、と。だが――。


「さっきボクはこの人、ナガレさんを殺そうとした!! それはお父さんを殺したから、そうしなきゃいけないと思ったんだ! でも……違った」

 

 少年はその言葉を発した後、泣きじゃくり言葉に詰まる。

 その後ろから息子に追いついた母親が、そっと少年の頭を撫でると、かわりに続きを話す。


「ナガレさん、息子が本当に大変な事をしてしまい、申し訳ありませんでした」

「……いや、謝らないでくれ。たしかに俺が指示したわけでも、操ったワケでも無い。だが、その原因となるヤツらは俺の敵だ。それに巻き込まれたのは間違いない。ただアイツラは誰彼関係なしに、今後も襲ってくる。言うなれば人族の敵だ」


 その言葉で母親は一度うなずく。そして目尻に涙をうかべる。


「ならば尚のことです。それにあの時、あなたが来てくれなかったら、主人だけではすまず、私も死んでいたでしょう。幸いこの子は親に預けていたので、難は逃れました」

「そうなんだ、ボクはおじいちゃんの所に行っていたから助かったんだ。でも街の噂で聞いたんだ。ナガレさんが、お父さんたちを殺したって……。だからカッとなって、あんな事をしたんだ。そしてその事をお母さんに言ったら、見てよこれ」


 少年はナガレへ頭を下げる。すると見事なコブが二つ短髪から見えていた。


「しかられた後、ボクはお母さんに聞いたんだ。ナガレさんがリザードマンを倒してくれたから、命が助かったって」


 その話を黙って聞いていた流は、リザードマンを駆逐した時にいた乗り合い馬車の客の事を思い出す。

 たしかにあの時見た女であり、その足元には男が死んでいた。


「そうかあの時の……」

「はい。ナガレさんが来てくれなかったら、主人だけじゃなく私もこの子の元からいなくなっていたかと思うと、今でも恐怖心が襲ってきます」

「だからね、ナガレさん。あの……あんな事して本当に、ごめんなさい!!」

「この子が馬鹿な事をしてしまい、本当にすみませんでした。そして助けていただき、ありがとうございます、ナガレさん。この子があなたに返り討ちにされても仕方ない状況で、あそこまでして頂き、重ねてありがとうございます。本当に、ほんとうに……」


 そう親子は言うと、言葉を詰まらせて涙をながす。たしかに処刑台(ここから)見ていた親子は、何か言いたそうに見えた。

 だがそれを言えなかったのも分かる。あの雰囲気で言えば、民衆に何をされるか分かったものじゃないのだから。


「気にしないでくれよ。俺も……あんたらのお陰で助かったしな?」


 見れば処刑場にいる民衆は涙をながし、親子の話にうなずく者。流の解放を叫ぶもの。イズンの強引なやり方に憤るものなどなど、今や流を処刑すると言うものは誰もいなくなっていたのだった。

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