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308:生きの悪い獣人の娘

 その頃、流はアイヅァルムに重大な事件が起こっている事も知らず、相変わらず冒険譚を語っていた。

 いつのまにかお茶とお菓子まで用意され、すでにお客さん待遇である。


「――と言うわけで、姉妹を騙したカワードはメデタク迷宮奴隷となったわけだ……って、何か遠くで爆発音がしなかったか?」

「さぁ、私には聞こえませんでしたが? なぁ?」

「そうだなぁ、俺も聞こえませんでしたが?」

「あるじぃ、普通の人間には聞こえないワン」

「「子犬がしゃべった!?」」

「毎度同じ驚きの表情で新鮮だワン。方向から言って、ここに来る時に見えた巨大な塔の方角ワン」

「え!? 塔と言うと白くて長い建物かい?」

「そうだワン。そっちから聞こえたワンよ」

「おい、その方向って城だろ? 大丈夫かヨルムのやつ……」


 そんな心配をしていた時だった。そとの兵士がイズンの到着を知らせ、中へと入ってくる。


「コホン。それで犯罪者は罪を認めたのかな?」

「はいイズン様。もう大体は罪を認めています」

「んんん? なんでお茶と菓子が出ている?」

「それは俺達が、コイツの前で見せしめに楽しむためですよ」

「おお!? やるなお前達!! 実にイイ手段だ。それでそこの、え~っと……名前はどうでもいい。どうやってリザードマンや龍人を倒した?」


 イズンは流へとそう問いかける。しかし流はワン太郎の前足を両手で掴むと、上下にフリフリして感触を楽しんでいるようだった。


「おい! そこの子犬と遊んでいるお前だ!!」

「え? 俺のこと? またまたご冗談を」

「冗談はそのふざけた存在だけにしておくんだな。で?」

「それでも何も見ていたんだろう? 斥候魔法ってのでさ。まぁ隠す事でもないし、答えはこの刀だよ」


 流は悲恋美琴をイズンの顔先へと抜刀する。そのあまりの早業に一瞬何が起きているか分からずに呆然とし、その後目の前に三左衛門の顔が浮かび上がることで悲鳴を上げる。


「ひぃぃぃぃぃぃあああああ!? バケモノ!?」

「酷い言われようだな三左衛門」

『まったくですわい! 水も滴るいい男が泣き申す! ハッハッハ!!』

『あ、向日葵ちゃん。お着替えしてまで驚かさなくていいからね? ほら、ハロウィンにはまだ早いよ?』

「おま、おま、おまあああ!?」

「ほら、大将閣下……後ろにお待ちかねだぞ?」


 イズンは震える瞳で背後を見る。そこには悲恋から抜け出た亡霊が目玉の無い瞳で見つめている。

 それを見たイズンは「ヒャアアア!?」と悲鳴を上げると、入り口まで猛ダッシュする。そして入り口の扉を開けた瞬間――。


「あ゛あ゛あ゛~Trick or Treat……」

「ギャアアアババババ――」

『あ!? いつのまに!! もぅ』

「ありゃコワイわ……」

「「イズン様……うわぁ……」」


 特大カかぼちゃのカワイイ被り物をした向日葵が、そのかぼちゃに噛み砕かれながら這い出てくる……。

 それは苦しそうに血涙をながし、イズンへと抱きつくと、その首がモゲ落ち、中から手が出てきて「お菓子をください」と書いてあった。

 その恐怖にイズンは気絶し、そのまま衛兵に運ばれるのを見ながら、出てきた三左衛門へと話しかける。


「どうした、お前が出てきたと言うことは例の死人(しびと)か?」

「ハッハッハ。左様でございます大殿! 先程より気配が濃厚となりましてな。ただ先日の者とは違うようでござる!」

「また襲ってきたのか? まいったねぇこれは」

「いえ、ここにではなく遠くですな! 先程ワン太郎殿が言っておった、場所の方角かと思いますな!!」

「そうか……んん。カーズの頼みだから穏便に済ませたかったが、これはセリアの危機か?」

「ん~じゃあ、あるじぃ。ワレが見てくるワンよ」

「そうか? なら頼む。隊長さん、あの窓から外へと出られるかい?」

「え、ええ。明り取りの窓ですが……届きませんよ?」


 流は問題ないと言うと、ワン太郎を抱えてそこへ向けて放り投げる。

 ワン太郎は「わ~」と楽しげに言いながら窓辺に着地すると、そのまま外へと出ていくのだった。


「と、言うわけさ」

「本当に何もかも規格外の人達ですねぇ」

「もぅ俺、戦場でゴーストと出会っても怖くないわ……」

「そりゃ結構。さて、俺の処刑が早いか、セリアが来るのが早いかだな」



 ◇◇◇◇◇



 その頃セリア達はさらに合流した配下と共に、南の駐屯地へと向かっていた。


「んん~歩く死体だと? ワシの聞き間違いか?」

「いえ、お聞きになった通りです。不審な行動を撮っていたゴリラの獣人女に憲兵が近寄ったところ、いきなり襲いかかって来ました。その際に首を斬り落としたらしいのですが、まだ生きており、その首を抱えて逃走したとのことです」

「どう思いますお嬢様?」

「そうねぇ……多分あれじゃないかしら?」

「なんじゃぁ、ありゃあ?」


 ルーセント達はセリアの視線の先を見る。するとこちらへと向けて猛ダッシュで迫る、首のない何か。

 見れば猿の獣人が娘の頭を抱えており、それが抱えている体と一致するのだとなんとなく分かった。

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