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303:兄が二人と姉が一人。私、すえっこです

 昇降魔具は目的の階層である二十階へと到着する。そこは目の前に長く続く廊下があり、その最奥に目的の謁見の間がある。

 逆側には外へと続く窓があり、遠くまでよく見える絶景が広がっていた。

 セリアは赤い絨毯が敷かれている廊下を、足早に歩きながら周りを観察する。


(やっぱりただ事じゃないわね。衛兵の数が多すぎるし、結界魔法が入り口に張られているように見える)


 セリアの言う通り、それは当たっていた。衛兵は忙しく動いており、今も謁見の間から出てきた騎士は、魔法師が作った結界を一部解いてもらってから出入りしている。

 その騎士とすれ違い挨拶を受け、右手を上げることで返礼をしたセリアは、謁見の間の警備兵へと告げる。


「セリアが戻ったと父上に取り次いで」

「ハッ!! クコロー・フォン・セリア様、ただいまご帰還なされました!!」


 大きな声で内部へと報告する衛兵。すると中から低い声で『入れ』と、鳥の形の魔具越しに聞こえてくる。

 扉がゆっくりと衛兵によって開け放たれる。徐々に開く扉、それが開ききると円卓があり、その奥には階段が五段あった。

 その階段の上にはいかにも玉座と言うものが備え付けられており、その左右に二つの豪華な椅子がおいてある。

 その向かって右側の椅子に、この城の主である「クコロー・フォン・セルガルド」が座っていた。


「セリア、よく無事にもどった。これで一安心と言ったところデスネ」

「はい父上、ありがとうございます」


 セリアは父、セルガルドの威風堂々たる姿を見て冷や汗がにじみ出る。彼は生粋の貴族だ。

 それもお飾りの貴族と違い、文武両道の見本みたいな男であり、武の才能も家柄だけの門閥貴族(もんばつきぞく)とは違い、本物の武人でもある。

 そのたくましい体は、まさに筋骨隆々と表現すべきものであり、着用している貴族服が破けそうなほど、ミッチリとしていた。

 その体型に合わない紳士的なヒゲをひと撫でし、頭の天辺にだけこんもりと乗った金髪の毛を揺らしながら、鋭い目線でセリアを見つめる。


「セリアちゃん、父上に心配をかけさせるな。もちろん俺も心配していたんだからな?」

「そうよセリア。先日あんな事があったばかりだと言うのに、心配したわよ」

「フン、ジャジャ馬姫とはよく言ったものだ。少しばかり痛い目を見たくらいでは、まったく変わらんと言うわけか?」


 上から長男のアーセッド、長女のエメラルダ、最後に悪態をついたのが次男のイッヂである。

 全員セリアと同じ特徴の、金髪青目で肌が白い人物たちである。ただ、イッヂとエメラルダは内面が顔に、(にじ)み出た醜悪な表情だ。知らない人物が見たら、本当に兄妹かと思う。


 長男のアーセッドは、見た目は文官と言ったような出で立ちだが、ロングソードを佩剣(はいけん)しており、体も鍛えられて様になっている。

 次男のイッヂは、兄とは真逆にだらしのない体つきで、兄の二倍ちかい体格だ。

 長女のエメラルダは妹のセリアとは違い、華美なドレスと宝飾で身を飾り、左右からドリルのような髪を自慢気に揺らす。


「兄上がた、そして姉上。ご心配をおかけいたしました」

「お前に怪我でもあれば、お兄ちゃん泣くぞ? 本当だぞ? うぅ……」

「アーセッド兄様、またそのような事を……」

「無駄よセリア、兄上は貴女にゾッコンですからね? わたくしも貴女のように愛されてみたいものねぇ?」

「ケッ、女のくせに人気取りだけは上手いのは相変わらずだな。あぁ、女だから? クククッ」

「イッヂ、貴族にあるまじき言動は慎むデスネ」

「す、すみません父上。失言でした」

「ウム。それでお前たちを呼んだのは他でもない……理由は分かるデスネ?」


 セルガルドが一同を見回すと、イッヂへと目線を向けた。つまり答えよということだ。


「そ、それはあれですな。防衛機構がどこか故障してたのでしょうな」

「愚か者、あれは日々メンテナンスを怠ったことなど無いデスネ!!」

「ヒィ!? す、すみません父上!!」

「エメラルダはどうか?」

「え? わたくしですか? 存じませんね、わたくし女ですもの。そういうのは苦手です」

「……アーセッド」

「はい父上。あれが壊れるとは到底思えませんね。理由は父上が言った通りです、が……」

「続けるデスネ」

「はい、間者が入り込み内部工作をした結果かと思われます」


 その答えにセルガルドは二度頷くと、セリアに視線を向けた。


「兄上の言に、さらに付け加えさせていただきます。このタイミングと言うのが明らかに異常です」

「どうしてそう思う?」

「はい、理由は二つ。一つはトカゲ共が『たまたま近くを移動していたのを利用された』と言うこと。二つ目は『龍人の出現』です。彼らはご存知の通り、無駄な争いはせず利用される事も好みません。しかし一度彼らの独自の視点で機嫌を損ねれば、それは災害クラスのやっかいな連中です。それをココへとどうやって引き込んだのか?」

「つまり、敵はトカゲだけではなく龍人おも動かせる人材と、この城への工作。その二つを考慮すれば相当大きい組織と言うことデスネ?」

「ご慧眼恐れ入ります。そこで出てくるのが『アルマーク商会』です」


 セリアのその言葉で、一同は驚く。だがセルガルドだけはまゆ一つ動かさずセリアの話を聞き入る。


「セリア、お兄ちゃんにも分かるように説明してくれないか? あの商売神級のアルマーク商会のことかい?」

「そうですアーセッド兄上。ただ奴らも一枚岩ではない様子、それが分かったのも先程の戦闘中のことです」

「……詳しく聞こうデスネ」


 セリアは先の戦いの内容を語る。南門の惨状、その守将たる最低最悪な男の事。そして――。


「その時現れたのが、コマワリ・ナガレと言う人物です。彼は仲間たちと協力し、リザードマン共を下草を刈るように殲滅していったのです」

「ッ――古廻 流だと!?」


 セルガルドはその名前を聞き、思わず緑地に金糸で刺繍された豪奢(ごうしゃ)な椅子から立ち上がる。

 そのあまりの食いつきぶりに、セリアをはじめ一同は驚きの表情を向けるのだった。

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