300:迷いなき拳
そんな気の抜けたように言う流の言葉に、何時の間にかもどって来たイズンは、嫌味な笑顔を浮かべて心の底から楽しそうに語り始める。
「いやぁ~いやぁ~。ここがキサマの最後――っと、違ったか? ふふん……。そうだ、今のところはこの騒乱を引き起こしたワケを聞こうじゃないか? んん? 素直に白状するなら、まぁ~考えてヤラんことも無いような気もするぞ?」
「今のところねぇ~。んで、どーするんだい? こっちも暇じゃないんでね。用事が無いなら、とっとと帰らせてもらいたいものだ」
「馬鹿なのかキサマァ? それとも言葉を理解できないアホなのかな?」
「あんだってぇ? すまねぇ、外国から来たので意味が分からんのじゃぁ。もう一度言ってはくれんかねぇ?」
「クッ、その余裕もいつまで持つかな? 連れて行け!!」
「ハッ!! さぁコッチへ来い!!」
「ヘイヘイ。じゃあ皆さん、新しい街を堪能しましょうかねぇ」
流を四方から囲む槍兵が、南門を潜り街へと入る。それを遠巻きに見守る住民の間に急速に広まる噂話から、流が外の原因を作った男だと思い、住民は顔を青ざめる。
その様子を見た子供が兵の間をぬって現れ、流へと石を投げつける。が、Lがそれを高速で叩き落とすと、子供へ向かって一歩向かう刹那――。
「ヤメロ……」
「ひぅ!? は、はい。マイ・マスター!!」
流は嵐影から降りると、十代前半くらいの子供へと向けて歩き出す。それを見た住民は悲鳴をあげて兵士へと助けを求める。
兵士は正直怖くてこれ以上近寄れない。だが住民の頼みとあらば、決死の覚悟で突撃しようとした瞬間だった。
流は子供の前に跪くと、その目をジッと見つめる。
「お、お、お前なんか怖くないぞ!! お前なんだろう!? お前が父さん達を殺したんだろう!!」
「……俺じゃないさ。ただな、その責任の一端はある」
「やっぱり!! 母さんはな、父さんのそばでずっと泣いている。ずっとだ!! ……おまえはどうしてあんな事をした!?」
「すまない。だが、ここでお前に殺されてやる訳にもいかない事情があってな」
「ふざけるなよッ!! そんなお前のことなんて、知ったことか!!」
少年は懐からナイフを取り出すと、流へと向けて真っ直ぐに突き出す。住民や兵士、そしてイズンまで「アアアアアアア!?」と声をあげてしまうほど、少年の動きに迷いは無かった。
背後から見れば、確実に少年のナイフは流へと突き刺さっただろう。だが――。
「な、なんでナイフを素手で止められるんだよおおお!?」
少年は絶叫する。その理由は流がナイフの刃を、右手で摘んでいるからだった。
その後ナイフをとりあげ、地面へと突き刺し少年へと優しく語りかける。
「俺はこんな相手だ。今のお前にはどう頑張っても勝てる相手じゃない。だからお前が大人になって、俺を殺せると思ったらいつでも来い。だから今日のところは、お前のその震える拳で俺を殴れ」
「ツッ!? ク、クソ、馬鹿にしやがって!!」
少年は思いっきり流の左頬を殴る。それを見ていたLとワン太郎は、さみしげな瞳でそれを見つめていた。
子供ながらも実にいい拳で流の左頬を捉え、周囲に乾いたニブイ音が響く。
「いい拳だ。迷いなく自分の意思を貫く覚悟がある」
少年はその言葉に呆然とする。そして自分の右手にニブく強い痛みを感じ、見ると真っ赤になっていた。
そんな少年の頭に流は〝ポン〟と一つ手を置くと、「いつでも来い、だが母親を大事にしてやってくれ」と言うと、何かを少年の固くなった拳の中へとねじ込む。
呆然とする少年を一瞥も無しに、流は嵐影へと騎乗し大声で一言放つ。
「出立!!」
「なっ!? 罪人が言うセリフではないわ!! 黙って歩け!!」
そのまま引立てられる男を、ただ見つめる事しか出来ない少年。やがてそれが人混みに消え去ってから、手の中にある平たく硬い、初めて見る硬貨を見て驚くのだった。
『流様……あれで良かったんですか?』
「いいさ、俺が原因みたいなものだしな」
「でもあるじぃ、あんな事を毎回してたら大変だワンよ?」
「それも分かってるさ。偽善だよ、俺の心を慰めるための、な……」
『またそんな事を言って……』
美琴は流が渡した硬貨の額を思い出す。それは日本円換算したら一千万円ほどの竜貨だった。
そして知っている。あれは偽善ではなく「本心」だと言うことを。
『まぁ、そんなところも大好きなんですけどね』
「ミコト様!! あたしもマイ・マスターが大好きです!! むしろ殴ってほしいぃぃ」
『Lちゃん、もう台無しだよ。はぁ』
「さてお前たち、冗談はここまでのようだ。見ろ、ステキなホテルが俺たちをご招待だ」
目前に迫るは石の要塞、明らかに歓迎ムードとは程遠い軍事基地と言える場所であった。
その前にはすでに連絡を受けていたのか、兵士が攻撃態勢で待ち構えている。
イズンは一つ頷くと、余裕を取り戻したかのように流へと詰め寄る。
「お前が誰かは知らんが、ゆっくりと楽しもうじゃないか?」
「お前が小物か知らんが、早急にご退場願いたいものだが?」
「フン、どこまでその減らず口が持つかねぇ? 行け!!」
「ハッ!!」
流が兵士たちに囲まれ、尋問官のところへと連れて行かれる様を見てイズンは口角を上げる。
そして仄暗い炎を心に灯し、流の行く末をあざ笑うのだった。
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