285:抵抗の証~再び
上空に突如発生した爆発に流は驚く。それは空が昼間なのに、それより明るい真っ赤な絨毯のように、広範囲に広がっていた。
「うおッ!? なんだ一体?」
『ちょっと東にずれているけど、大体私たちが向かっている方角だよね』
「あるじぃ~さっきから、ワレと似たような気配を感じるんだワンよ」
「気配? 言われてみれば確かにな。そうだな……予定を変えてあの爆炎の真下へ行ってみよう。嵐影、その荷物を頼む」
「……マァ」
流たちはリザードマンを駆逐しながら進む。もはや本当に討伐数は分からないほど狩り、報告は「いっぱいです!」と言おうと心に誓いながら進む。
やがて見えてくる、氷の巨大な塊。それに一瞬驚くも、それに近いリザードマンたちは動きがさらに悪いようだ。
「おいおい、なんだあの巨大な氷の塊は? しかも中にトカゲ共がドッサリ入っている。いくら真夏でも、あんなお中元はいらないぞ?」
『返品案件ですね。うわぁ……きもちわるい……』
「二人ともトカゲ共を細切れにしながら、何を言っているんだワン……」
道中二人で「『うわ~』」と言いながら、嵐のように突き進む。それを見ている人がいたら、それこそ「うわ~」な光景を量産しながらも突き進む。
やがて氷の壁の終りが見え、その向こうには人間や獣人達がゴミのように転がる。
肉体がボロ雑巾のように変わり果てたもの、生きているがかろうじて息をしているもの……。
そしてまだ立っている集団へと、自然に目が動く。それは真っ赤な貴族服のような出で立ちの、最近見知ったヤツ。龍人と酷似した人物が、一人の女を背中から抱きかかえるようにして、のど元に短剣を突きつけていた。
「小娘がぁ……よくもやってくれたなぁ……見ろ!! このぉ、エリの部分!! 汗でべっちゃりだ……この龍人たるぅオ・レ・サ・マになんという事をしてくれたぁん?」
アルギッドはそう言うと、セリアの整った顔。その右頬へ向けて〝チクリ〟と短剣の先端を当てる。
よほど先端が鋭利だったのか、セリアの右頬から鮮血がたらりと一滴滴り落ちる。
「セリア様!?」
「うるさ~ぃよ? 黙って見ていろっていった~ょな? ぢゃああああないと……」
「グゥゥゥぎいいいいいいッ」
セリアの苦痛の顔をみてニヤけるアルギッド。それはセリアが着用しているドレスアーマーのスキマから、指を入れて左上腕の皮膚を一つまみして剥がし地面へと〝ぺちょり〟と捨てる。
その様子に周りのものは凍りつく、同時に顔を真っ赤にして怒りを表す。
観客たちの愉快な表情を見て、ゾクリと背中に電撃が走ったような感覚で、アルギッドは震えて歓喜する。
「す……すっばらしぃいいいいい!! その表情が~ぢぃ~つにイイ!! 楽しくなってきたなぁ~」
「ぐあぅぅぅぅッ!?」
アルギッドはセリアの右手の中指をつまむと、そのまま〝ポキリ〟と優しくブチ折る。
それをセリアは持てる精神力全てで、声を押し殺し、その蛮行をしたゲスを睨む。
「おいおいおいお~ぃぃい? これ、ガマンしぃ~ちゃダ・メ・ナ・ヤ・ツだぜ? ちゃ~んと、躾のわる~い花嫁さんには教育的指導をしなぁ~いとね? さぁ、悪いことをしたらな・ん・て・言うんだったかぁな?」
「――――」
「あんだってぇ? き・こ・え・な~い!?」
「――ろせ」
「もう一度ぷり~ず?」
「――くっ、殺せ!!」
「はぁ? だからコロ――ッ!?」
その時だった。急速に迫る恐ろしい気配にアルギッドは〝ゾクリ〟とする。
ゾクリとしたナニカは、このあたり全域を包み込むような、濃厚で濃密で濃い恐怖の塊だった……それが刺さるように自分へと向けられている事に驚く。
その事に思わず「ヒッ」と変な声をあげてしまう自分に気が付き、アルギッドは怒りに震えた。
「誰だあああああああああ!? この龍人たるアルギッド様に無礼を働く愚か者はああああ!?」
怒りのままその無礼な相手を睨みつけようとし、いつでも取り戻せるとセリアを放り捨て、その方向をにらみつけようとした、が。
突如迫る黒い影。それが徐々に形になったと思うと、どうやら人のようなものが自分へと迫る。その影はよく見知った顔の人物――つまり。
「なぁッ!? ゾ、ゾーラン!!」
ゾーランがとんでもなく早い速度でアルギッドへと襲いかかる。もちろん普通の攻撃でこの程度なら避けることは容易いが、仲間が飛んできた事で巻き込まれて地面へと同時に倒れる。
「ぐぅッ!? なんだ? 一体なんでゾーランが飛んで来ぶがばあぁぁあっ!?」
突如顔面に感じる激しい痛み。特に鼻の頭が〝メショリ〟と、嫌な音と共に潰れるのがわかりつつも、それがなぜそうなったのかが理解できない。
そのまま地面を数度ころがり止まった頃、鼻が折れてそこから壊れた蛇口のように、真っ赤な鼻血が吹き出していた。
アルギッドは上半身だけ起こし、鼻血を拭いもせずに元いた場所を凝視する。そこにはケリを出したまま動かないナニカがいた。
そのナニカは静かに足を降ろすと、地面に座っているセリアと呼ばれる女へとゆっくりと近寄る。
「お、お嬢様! 危険です!! 離れてください!!」
倒れたままのルーセントが、必死に右手を伸ばしセリアへと叫ぶ。が、セリアはそんなルーセントを見やり〝にこり〟と微笑むと、その恐怖の対象へと視線を向けた。
「あなたはいつも、くっ殺せ! を言わないと来てくれないのかしら?」
「よぅ、また今日もハデやられたな……〝羞恥より魂の解放を求めた抵抗の証〟を聞かせてもらったぜ?」
「もぅ……本当に、おばかなんだから……」
セリアはそう言い立ち上がろうとする。が、力が入らず途中で後ろへと倒れてしまう。
〝ふわり〟
そんな感覚が背中から始まり、次はひざ裏へと硬いが優しい支えを感じ、体が浮き上がる。
一瞬何が起きたか分からなかった。でもそれが何かを理解すると、体の痛みなど全て忘れ、顔が夕焼けより赤く染まるのだった。
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