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281:いつもの合図

「セリア様、煙が晴れます!」

「チィ! 限界か。が、よく持った! これよりここへ陣を敷き(・・・・・・・)、各個撃破しつつ、最終プランを発動する!!」

「魔法師二人は詠唱に入れ! 盾は魔法師専属で、残りは防壁となってここを死守せよ!!」

『『『ハッ!!』』』

「任せておけ!」

「ジャジャ馬姫様の仰せのままに~」

「お前らは俺らが守ってやる!!」


 即座に動き、各々配置につく。同時に魔法師二人は、同じ詠唱を始める。

 リザードマンは見た。煙幕が晴れると、そこには自分たちが敷いている陣の小型版が、いきなり現れたことに驚愕する。

 その陣形の様子は自分たちよりも洗練されており、槍や剣が突き出た針の要塞であった。


「ジャギャ!? 人間ダト?? 何ヲしてイる、排除シろ!!」

『『『ジャハッ!!』』』

「させるかよ!! ドリャアアア」

「確実に屠れ!」

「こいつら、俺を狙って――グァアアッ!?」

「ヤリス!! クソッ、後衛ヤリスを引き下げろ!!」

「敵は個別では敵わないと判断したわ! こちらも三身一体となって防御!!」

『『『ハッ!!』』』

「俺らも姫さんの指示通りに!!」

『『『オウ!!』』』


 煙幕から回復しつつある敵のど真ん中。その無謀とも言える状況を、覆す一手まで残りわずか。

 だがそれが果てしなく遠く、また永遠に感じるほど、時間が強烈に緩慢に思えるのだった。

 押し寄せる汚くギラついた鱗の群れに、徐々に疲弊していくセリアたち。個々での戦闘力はこちらが有利だが、数の暴力に次第に押されつつある。

 

(クゥッ、まだなの!? だめ、私がこんな気持じゃみんなに伝播(でんぱ)しちゃう!)


 セリアは吠える、心の叫びを魂の咆哮に変えるように。


「かかってきなさいトカゲ共!! そんなヌルイ攻撃じゃ、私に片膝をつかすことすら出来ないわ!!」

「カッカッカ! お嬢様も言うよになりましたな~っと、セイッ! さぁ皆の者、お嬢様に負けてられぬぞ!!」


 ルーセントはセリアの意図をくみ、全員を鼓舞する。すると全員の士気が熱気のように上がるのを感じ、押され気味だった陣が再生するように盛り返す。それと同時に朗報がセリアへ届く。


「セリア様、魔法師整いました!」

「よし!! 目標、敵中央! トカゲ共の統率者へ向けて放てええええええ!!」

「「了解!!」」

「リリーナ、俺に合わせてくれ!」

「わかったわカイル、合図はいつもので!!」

「おうよ!! 竜の(あぎと)は!」

「凍え吹く!!」


≪≪竜滅魔法! 氷凍結盤! ラ・グラス・レクイエム!!≫≫


 魔法師二人、カイルとリリーナの合成魔法。〝ラ・グラス・レクイエム〟がついに発動する。

 敵中心部から轟く大地が破壊される〝バゴゴゴゴ〟という、硬質なモノが砕かれては結合するような音と共に、氷の壁が次々と隆起する。

 それに巻き込まれ、リザードマン共は千切られ、氷付き、氷の中へ封じられ動けなくなりながらも必死に脱出しようするが、次々に氷が形成されそれも無駄に終わる。

 やがて氷の大地が出来上がるように、直径五十メートルほどの範囲でいびつだが、巨大な楕円形の氷の台座のようなモノが出来上がる。


「ルーセント!!」

「……強者の圧が消えましたな」

「よっしゃあああああ!!」

「わたし達やったのね!!」


 沸き返るセリア達。見ればこの魔法の影響・つまり「寒さ」により範囲外のリザードマン達も、寒さで目に見えるほど動きが鈍くなっている。

 これを機と見たセリアは、急速離脱を試みる。


「総員負傷者を担ぎこの場を離脱する!! 殿(しんがり)は私とルーセントが務める! 指揮は副長に任せる! かかれ!!」

『『『ハッ!!』』』

「おいおい、マジでうまくイッチまったぞ!? 俺らも指示に従え!! 当然リーダーの俺はジャジャ馬様と残る! あと三名、死にたがりは付いて来い!!」

「なら魔法師二人のお守りで、活躍の機会をとられた俺らだな」


 エドの募集に応じたのは盾役の三名。ドーガ・イズム・ガッゾであった。


「お前ら……よし! 攻撃は俺らにまかせて、お前らは俺らを守れ」

「「「おうよ!」」」

「ドラゴンヘッドのみんなありがとう、助かる。では行動開始!!」


 セリアがそう指示を出し動き出す瞬間だった。突如〝ぐらり〟と地面が揺れたかと思えば、氷の台座に一筋の線が入り込む。

 その直後〝ガギン゛!!〟と耳障りな音が一度鳴った瞬間、冗談みたいに巨大な氷の台座が左右に割れ、幅十メートルほどの空間が出来上がる。

 セリア達は固まる。その冗談みたいな状況に、まるで自分たちが氷の台座に入っているリザードマンのように動けなくなる。

 

 その原因が足音も静かに、ゆっくりとこちらへと歩を進める。

 ひたり、ひたり……一歩ずつ確実に迫る。それは恐怖、それは恐れ、それは死そのもの――つまり、絶望である。


「ん~クール!! ぢつにイイ!! こ~んな気分はひ・さ・し・ぶ・りだなぁ~!! いいねいいね、キミタチぃ~」

「な……なぁ……もう一人……」

「あ~はははは。指揮官のお嬢さ~ん? そんなアホ口開いてると、可愛い顔が台無しだぞぅ?」

「くぅッ……お嬢様。最早これまで、せめて一太刀浴びせて今後の糧になりましょうぞ」

「おやぁ? 老将殿はもうろくされたかなぁ? わたしを……この龍人たるわ・た・し・をどうこう出来るとでもぅ?」


 目の前に現れたもう一人の龍人の男に、全員が顔面蒼白になる。

 まるで貴族のような真っ赤な衣装や宝飾を身に着け、これからパーティーに出席するかのような龍人がそこにいたのだから。

 その実力は誰もが知るところであり、現れると大抵その場所が大惨事になる存在だ。

 だが目撃例はあまりなく、神出鬼没のある意味天災のような存在であったのだから。

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