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266:城内の攻防

「――ここまでが過去に起きた事実です」

「マテマテマテ、ここで千石が出てくるのか!?」

『せん……ごく様?』

「千石様を知っている? あぁ、美琴の過去を見た時……と、言うことですか」

「そうだ。美琴は思い出せないが、そいつは確実に存在したはずだ」

「そうです、千石様は間違いなく存在しています。そして彼こそが異世界への、人形討伐隊の総隊長であり、私達の主でもありました」


 次々に明かされる驚きの事実に、流は言葉を失う。美琴はそれに思い当たる節はあるようだが、霊臓庫が空になった弊害で思い出せないようだった。

 そんな二人を黙って見ていた壱が、静かに声をかける。


「古廻はん、美こっちゃん。今話した事は全て事実や。そしてこの後がこの話の核心や」

「フム、本当に忌々しい。今思い出しても腸が煮えくり返ると言うものですが、なにとぞお聞きくださいませ」


 あまりの事実に困惑するも、二人の悲痛な心境が伝わる言葉で、流は静かに頷く。

 それを見た〆は、その先を重々しく語り始める。


「そして、あの後悔してもしきれない出来事が始まりました――」



 ◇◇◇



 ――人形討伐隊は廃寺を後にし、封座たちは城を見下ろせる峠に差しかかる。(ふたば)が指示した「朽ちた城跡」があるはずの場所には、現在立派な城が建っていた。

 

「御館様、斥候が戻ってまいりました」

「うむ、報告を聞こう」


 封座は斥候に出ていた配下から報告を聞くと、弐からもたらされた情報が間違いないと確信する。

 その事に内心歓喜するが、気持ちを引き締めて配下に状況を伝え、三方位から囲み殲滅する、計画通りの案を実行する。


「双牙の隊は城の東より当たれ。連の隊は西側だ。俺は正面より突入する」

「「承知!」」

「ではゆくぞ、散!!」


 封座が率いる本隊が正面の大手門を〝巨木斬〟で破壊し内部へと突入すると、悪霊の(たぐい)が襲いかかる。それを露を払うように一閃し蹴散らし、内部へと侵入する。

 東西からも戦闘の音が響くことで、双牙たちも侵入に成功したと確信し、敵の警備が分散した事で一ノ丸を安々と突破する。


「御館様、東西の撹乱が上手くいっているようですな」

「……いや、あまりにも手応えがなさすぎる」


 目の前に迫る妖魔を一刀のもとに斬り捨て、あまりの手応えの無さに訝しむ封座。

 そうこうしているうちに二ノ丸も超えて、三ノ丸へと差し掛かった時だった。

 突如三ノ丸の門より現れる巨漢の大男。それは鍵鈴の者より恐れられている存在、通称『刀狩り』と呼ばれる僧兵の亡者であった。


「クソッ!! 刀狩りは美濃国へ行っているとの情報では!? 御館様! ここは我らが全力で当たります! どうか人形へと!!」

「――ッ、頼んだ! 帰ったら刀狩りを討滅した話を聞かせてくれよ?」

「ハッハッハ。それは無論、嫌というほど酒宴で聞かせますよ」

「……世話になった」

「それはこちらの台詞でございますよ」


 封座は配下の者たちを一瞥した後、本丸へと向かう。全員晴れやかに覚悟を決めた良い顔で、封座との別れを告げる。

 それを邪魔すること無く刀狩りは鍵鈴の猛者、三十五名を相手に仁王立ちしていた。


「さぁて、積年の恨みつらみを千倍にして返してやろうか」

「妹の敵……纏めてくれてやるわ」

「俺は親父の敵だな」

「まぁなんだ……全員の恨みを受けて滅ぶがよいわああああああああ!!」


 背後で戦闘が始まったのを感じ、今生の別れとなる事を知りながらも振り向かず封座は進む。

 弐からもたらされた情報に齟齬(そご)がある事に不満を感じながらも、それはたまたまだと思い直し改めて天守を睨みつける。

 そこには子供ほどの大きさの影があり、ジっと封座を見下ろしていた。

 全てを見透かされているかのような、傲慢なその表情に怒り感じる。だがそれを胸にしまいながら封座は走る。


「目指すは人形の首只一つのみ!!」


 自分にそう気合を入れると、城内へ侵入する。廊下には悪鬼羅刹がひしめき合い、最高の獲物たる封座を舌舐めずりで待ち受けていた。

 

「退けえええええええええええ!!」


 封座は走りながら太刀魚を放つ。本来抜刀術は動いている状態では、最大威力にとどかない欠点があり、大抵の者は静止状態からの業となる。

 しかし全てを極めた封座には、飛ぼうが走ろうが止まろうが、何の問題もなく最高の威力で業を放つ。


「「「グギャアアアアアアアア」」」


 悪鬼羅刹の断末魔が城内の至るどころで響き、封座は怪我らしいものはそれほど無く、天守閣への階段下に到着する。


(やはり妙だ。予想外で刀狩りが居たくらいで、俺が乗り込んで来たらこんな抵抗では防げない事は分かっているはず……何が目的だ? それに弐はどこに居る?)


 ここまでの抵抗があまりにも拍子抜けだったので、逆に怪しく思いながら用心して階段を一段、また一段と踏みしめる。

 途中の踊り場に一人の影を見つけた封座は、戦場らしからぬ表情でその者へと近づく。


「弐!! 姿が見えないから心配していたぞ、大丈夫だったか?」

「はい封座様。二年と少しぶりでございますね……おかわりが無い様で安心いたしました」

「お前もな。して人形の奴はこの上か?」

「ええこの上にいるはずです。やっと鍵鈴の本懐が今日果たせるのですね……」

「そうだな。お前と、犠牲になった者たちのお陰で今日それが叶う」

「おめでとうございます、本当に今日全てが叶うのですね……ふふふ」


 弐は誰もが見惚れる魅力あふれる表情で、とても嬉しそうに笑う。

 封座はそれに少し違和感を感じながらも、この後の事について話すのだった。

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